二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.46 )
日時: 2011/03/26 12:39
名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)





 涙は罪の味がする




 持て余した情を空に投げれば其れは雨となって此処に返される。空は群青。降り続く冷たさも、碧い。


「・・・・・・、たかすぎ?」

 傘も差さずにそいつは庭に立ち尽くしていた。名を呼ぶと此方を振り向いて淡い笑みを浮かべた。

「————見ろよヅラ、あっちの空が紅い」
「ヅラじゃない桂だ。・・・・・・戦がどんどん激しくなってるんだな。先生は其処へ行ってるのか?」
「ああ。危ないから行くなって皆言うんだけどな。ちいさな鬼を探してくるとか言って、さ」
「・・・・・・・・・夏代か」
「・・・さあな」

 碧落を穢すのは誇り高き紅、燃える魂を溶かすのは揺るぎない蒼。先生が留守のとき此処は驚くほど暗く静かになる。雨音は虚空に響いて冷たさを増してゆく。
 不意に、後方から雨音に混じって何者かの足音が響いた。


「————誰だ?」
 高杉は鈍く其の声を放った。緊張感がぴりぴりと光る。
「・・・桂、高杉、先生が帰ってきた。多分美味しいものも買ってきてくれただろ。行こうぜ」
「嗚呼、なんだ、久坂か」
 俺は溜息と共に弱々しい言葉を漏らした。
「何だとは何だよ。・・・お前らは外見るの好きだなあ。そんなに怖がらなくても大丈夫だって。ほら、風邪ひくぞ、早く入れよ」
「・・・そうだな、」
 高杉は屋敷の中へ入ってゆく。俺も其れに続いた。


「————なあ、ヅラ。お前泣いたことあるか」

 高杉は不意に俺に問うた。

「・・・変なことを聞くんだな。この世に生まれて一番最初にあげるのは泣き声だろう」
「あれァ産声だろうよ。・・・此処に来てから、だ」
「・・・・・・お前は忘れたか?俺はお前と抱き合って泣いた覚えがあるぞ」
「・・・俺は泣いてねえだろ」
「ふ、そうだったかな」


 男だろうが侍だろうが神の子だろうが、涙は流す。恥ではない。涙は魂を潤すもの。そして此の身を穢すもの。今はもう、其の味が思い出せない。



 ただいま、と優しい声がした。此の身体を浄化する声だった。魂に色を付ける鮮やかな笑顔だった。
 先生の着物の袖や裾に掠れた紅が見えた。返り血なのか、其れとも彼自身のものなのか。俺たちは聞けない。
「先生、血ィついてる」
 だから、何にも考えずに思うままに言葉を発する其の銀色に、俺たちは憧れを抱くことが多々ある。
「・・・・・・ああ、すみません。此れは、穢れた血です」
 穢れた血。其れは、誰のもの?
「————先生、夏代は、いなかったの」
 誰かが訊いた。
「・・・そうです。一体、何処に行ってしまったんですかねぇ」
 其の声に哀愁が漂っている。俺は焦った。隣で高杉も焦っているのがわかった。
「せんせ、菓子ちょーだい」
 また、馬鹿な男の声がした。其の声は、此の身を酷く不安定にさせる。けれど愛おしい、其の声に。
「・・・はいはい、少し待っててくださいね」
 誰もが皆、それぞれの悲しみを委ねた。