二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.50 )
日時: 2011/04/02 00:07
名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)





 心臓




 人肌が恋しくなる季節が今年も、風に乗ってやって来た。只此れまでと違うのは、ひとりじゃないこと。どの季節を迎えても何度だって俺は愛を実感する。気色悪くて鳥肌が立つ。今迄ずっとそうだった、愛なんて存在すら認めなかった。でも我が師は愛を教え、愛で育て、自ら愛を振りまく。そしてヅラやら高杉やら久坂やら、優秀な生徒を完成させてゆくのだ。俺はそうじゃないけれど、だけど解ってきた。俺が必要としてきたもの、そして俺が此れから辿ってゆくもの。


 紅いもの。林檎、さくらんぼ、苺、夕陽、ハート、俺の眼、滴る血。青いもの。空、海、風、夢、友情、俺、ヅラの眼、絶望。広がる世界と色付く心が俺の身体をぐんぐんと育ててゆく。俺もヅラも高杉も白黒の世界を突き破って極彩色に成り果てたけど、俺の紅は濁っているのかもしれない。ヅラは清々しいほどに腐っている。チビ杉は何時まで経ってもチビ杉だし、先生はそんな俺たちを幸せそうに見てるし(其の眼差しで俺たちは殺されるのだ)、世界は何処まで行くのだろうかと如何でもいいことを考えていた。
 まだ夜が明けない。布団の中で俺は冷たい手足をもぞもぞと動かした。さみー、あれ、此れ夢かな、とかまどろむ脳内だけが熱い。起き上がって厠に行って、其れから先生を探した。先生は居なかった。何処だろうかと考える暇もなく眠気に襲われ、俺は布団に倒れこんだ。あー、早く朝が来て欲しい、だけどまだ眠ってたい、早く会いたい、先生、皆。其処まで脳が動いて、停止。睡魔には勝てなかった。


 ————先生が戦に行くかもしれないって、

 しってる?銀時、と入江に問われたことがある。何時だっけ、つい最近のことだ。しらないと答えた。先生は何度も戦場に行ってるけれど。行っては変な野良猫を拾ってきたり孤児を拾ってきたり、何かと拾いものばかりをして帰ってくる如何しようもない人だ。だから俺は好きだし、皆もそうだ。其の、松楊先生が、戦に行くということは。
 此の空間が伽藍堂になるということ。冷たさを増すということ。そして悲しみの海に、溺れて、俺たちは・・・?



 瞳を開けて、暗闇を見つめ、虚空に手を翳せば。生白い指先が力をなくして顔面に落ちてきた。其の指の冷たさ。そして、もう片方の、布団に突っ込んだ指の温もり。
 俺の世界は暗く、そして紅い。其のどす黒さに安らぎを覚えている。温もりが恐ろしく、愛情が怖く。だから俺は愛を拒んで、拒みきれずに受け入れて、捨てて、拾って、振りまく。



 心臓が音を立てて壊れてゆく。其の感覚が酷く心地よかった。



 朝の光に包まれながら、俺は着替えて、今日も此の場所に身を預ける。桂の元気な声が聞こえた。高杉も後ろに居るのだろう。
 俺は今日も、心の中に温もりを収めるスペースを用意しておく。ひび割れた心臓は静かに温度を取り戻していった。



 そして始まる、終わってゆく日常。