二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.51 )
- 日時: 2011/04/03 19:27
- 名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)
最後の夜には素敵な夢を
冷たい世界は此の身体に滲み込んで恐ろしいほど鳥肌が立つ。萩の夜はゆるやかに更けてゆく。銀時は寝ているだろうか。早く此の身体を洗い流したい。返り血が所々に散っているのは気にしていないが、体中から醸される血のにおいが気に食わない。あの、ぬくもりの溢れる場所へ、此の血みどろの身体を持って行きたくはなかった。
戦場は酷く滑稽だった。只血の流れるだけの場所で。
何時の日かこうなることは随分前から解っていた。天人に全てを奪われること。此の身が滅ぶこと。
己が死んでも銀時は強くやっていける。小太郎もそうだろう。————晋助は如何だろうか。あの子は穢れなき純粋な心のままで、此の先生きてゆけるのだろうか。あの少年は酷く澄んでいる。透き通る尖った硝子。ただただ純粋なだけなのだ。
何時か、銀時にこう言った。晋助をよろしくね、と。其の銀髪の少年はきょとんとあの赤い瞳で此方を見ていたが。
ちっぽけな村塾へ、還る。身を清めて心を正して。
今宵は朔の日、白い月が嘲笑うように闇夜を照らしていた。
部屋に入り戸を開けると、銀時は静かに眠っていた。何時もの如く布団からはみ出した手足を元に戻してやり、部屋を出て縁側に腰掛けた。柱にもたれて大きな月を眺める。
「————綺麗な月だなあ」
後方で声がした。銀時のものでは、ない。小さく笑って言葉を返す。
「ええ、まったく。こんな美しい夜に天に召せる己は幸せ者だ」
「・・・ククク、そうだなぁ。羨ましいぜ・・・」
距離を置いたやり取り。其れも束の間だった。気配は一気に近寄って背を預けた柱の後ろまで駆けて来た。
「・・・・・・後ろで眠る少年はいいのかィ?」
クク、と押し殺した笑い。横目で見るとなんとも奇妙な我らが天敵の姿が其処にあった。
————天人。
「・・・すでに未来を託してますよ」
後ろを振り返り、ひとつ微笑みを。そうして此の身体は。
「そうかい、じゃあ安心して逝けるなぁ、先生よ・・・」
闇夜を彩る、紅に染まる。
止め処なく、頼りなく、此の手からすり落ちてゆくもの。
否、何も持ってなどいなかったのだ。抱え込んだのは小さな愛と悲しみと温もりと。自分の心は何処かに捨ててきた。そして代わりにすべてを包んでやる。まるで理由を作るように、まるで寂しがり屋のように。
滑稽なのは自分だった。耳を澄ませば木霊する声は誰のものか。堕ちてゆく。堕ちてゆく。暗闇に溶け込むのは限りない白だ。まっさらに戻ってゆく魂。終わりの鐘が鳴り響く。終末は夢のように。
右手を何の意思もなく動かせば、血のあたたかい感触を感じた。人に赤い血が流れているかは斬ってみなければわからない。わたしの血は赤いのだろうか。目蓋の裏側に思いを馳せる。
そして世界は幕を閉じた。
鮮やかな花弁が柔らかな風に舞う。慈しみを纏う誰かの手に千切られた薄紅の花が。
少しの余情と灰を巻き上げて空高く。
嗚呼、感情が消えてゆく。
ぷつり、と音を残して何かが途絶えた。
————さてさて、次の物語の幕開けです。