二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 銀魂 * 我が愛しのロクデナシ ( No.57 )
- 日時: 2011/04/07 17:53
- 名前: 燕 (ID: /kFpnDhT)
神殺し
あ、あ、と喉に力を込めても上手く声が出ない。掠れた音だけが静まり返った部屋に響いて明るんでゆく世界を揺らした。朝が近づくにつれて揺らぐ気持ちが宙にぷかりと浮かんでゆく。此のまま消えてしまおうか、なんて考えている自分に気付いてはっと眼を開けた。
「高杉・・・」
視界に誰かの足があって上を見ると見慣れた少年の顔があった。其の眼は何処か虚ろで、まばたきひとつしない眼は一度暗闇に戻るともう帰ってこないような、恐ろしい眼だった。
「・・・酷い顔してるぞお前・・・・・・」
「五月蝿えよ手前ほどじゃねえ。ヅラ、隈やべぇ」
「・・・・・・んん、まあいい。如何したんだ」
俺は眼を擦りながら問う。
「別に、お前が泣いてんのかと思ってからかいにきただけ」
「泣いてない。泣いてたのはお前だろう」
「馬鹿言うんじゃねえよ。・・・・・・・・・・・・涙なんか出てこねえ」
「・・・・・・そう、だな」
呟くように掠れた声が肯定を示した。高杉は疲れたように溜息を吐いて、起き上がった俺と目線が同じになるくらいにしゃがみ込んだ。
「せめて涙が流れれば、」
「悲しみさえも流れる———」
俺の声に高杉が言葉を紡いだ。
其れは虚言である。どんなに涙を流しても声を枯らしても、此の苦しみから逃れることは出来ない。俺たちは知っているのだ。其れでも流れ出す悲しみを抑えることは出来なくて。
高杉の瞳は痛みを孕んだように紅く、俺の眼に映った。其の眼は偽りだ。あいつの其れに似ている。鬼のように紅い、人間の血の色の。
ぴしゃり、と水音を聞いた。涙の流れる音だった。
「・・・・・・飯、つくるか」
ふと目の前に現れたのは銀時だった。ふらりと歩いて食材を探している。
「——銀時ッ、」
「・・・」
俺は何かを言おうと口を開く。高杉は奴のふわふわと揺れる銀髪を虚ろな眼で見つめていた。
「んだよ」
返される素っ気無い言葉。見ると、其の瞳も、痛々しく紅くて。
「・・・・・・お前らも、飯つくろーぜ」
銀時の呼びかけに、むくりむくりと、眠っていた影が目を醒ました。何処からか久坂の声が聞こえた。
「ぎんときー、お前、甘いもんつくるなよ」
「わかってらぁ」
銀時の声は優しい。闇夜に溶け込む其の声のぬくもりに、醒めた目がじんわりと熱を生む。
「ほら、ヅラ、ちび助。おめーらも」
呼ばれた名にお決まりの文句を返すことさえ忘れて、俺は高杉の手を引いて立ち上がった。
ありったけの食材で作った飯は決して美味くなかったけれど、皆喜んで喰らいついた。先生の飯の味を思い出してまた胸の穴が広がった。此れが、長い夢だったらいいのにと、何度思ったことだろう。
空が明けてきて、闇を纏った陽の光が部屋に差し込む。故郷のぬくもりが身に染み込む。
隣で高杉が長く息を吐いた。俺もゆっくりと呼吸をする。やっと、息ができるようになった。銀時は静かにゆらゆらと此方へ近寄ってきて、俺と高杉の肩に手をかけた。そして、ぎゅっと其の腕に力が込められる。身体がくっつく。冷たい熱が寄り添った。
そして其の冷たさが少しずつぬくもりを纏ってきた頃に、銀時は腕を解いた。
繰り返す呼吸は、混ざり合う。そして銀時は口を開いた。
「————行こうか」
「皆で、な」
高杉が途切れた声を紡ぐように呟いて、俺たちはにやりと笑みを浮かべる。萩の悪童と呼ばれ育った餓鬼の笑みだ。
失われた熱を取り戻す為に朝が生まれた。いざ行こう、まだ幼い拳が交じり合った。