二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 炎神暴君★リシタニア-銀魂×戦国BASARA-質問大会中 ( No.118 )
日時: 2011/04/16 18:17
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第10話 紅桜ってさ、案外怖い桜だよね。だって赤いもん。


 うっすらと目を開ければ、目前に広がったのは万事屋の天井である。
 意識を取り戻した翔は、動く範囲で首を横へ動かす。
 襖、壁に寄り掛かったり、床にダイレクトに寝たりしている武将達と、未だ目を覚ましていない怜悟の姿が目に映った。

「お前ら——?」

「起きたんだ」

 襖が少しだけ開き、雫が顔を出す。持ってきていた水を翔の横に置き、静かに隣に正座をする。
 翔は小さなため息を漏らし、上体を起こす。
 すると、肩に激痛が奔り、布団の上で悶絶する。死神同士の鎌で傷をつけられると、治るのに時間がかかるのだ。
 そんな翔を見て、雫は翔を布団の上に押しつけた。

「まだ寝てないとダメだよ。ね?」

「いや、俺はあいつを止めないとダメなんだ。誰が何と言おうと、この身を壊してでも止めないと」

 歯を食いしばり、起きようとする翔を雫は必死に止めた。
 だが、翔も翔で譲れないらしく、傷がついた体に鞭を打って起きあがろうとする。
 そこへ、凜が呆れたような表情を浮かべて入って来た。

「怪我をしたって言うから来てみたんだけど、元気そうね。何よりだわ」

「うるせぇ奴が来たぜコラ死ね消えろ帰れ冷やかしなら即刻帰れ」

 翔は動けない分、口で攻撃をしてきた。
 一方の凜は深いため息をつき、雫の横に正座をする。

「……私の兄が、申し訳ないわ」

「…………。やはりな。お前の兄は、俺に……いや、俺達に異常なまでの憧れを抱いていた」

 天井を静かに見据える翔。瞳の奥が死んでいるようにも見えた。
 何も言えなくなる凜は、うつむいて黙りこむ。

「それで? 兄が迷惑をかけましたって言いに来たのか? それなら気にはしていない、どうせあいつは死ぬ」

「分かっているのね」

 落ちついた声で、凜は返答した。
 フン、とつまらなさそうに鼻を鳴らした翔は、ゴロリと横に寝がえりを打つ。

「人工死神を造ったところで、それで何になるんだろうな。どうせ死神の力が体に大きな負荷をかけてすぐに死ぬんだろうが」

 独りごとのようにつぶやく翔。
 その言葉を聞いて、凜は唇を噛み拳を作った。

「お願いがあるの」

 震える拳の上に涙を落としながら、凜は言う。

「蘭を……、兄を助けてあげて」

 いつもの凜からは想像出来ない涙声。綺麗な漆黒の瞳からは、綺麗で透明な涙が溢れている。
 翔はチッと舌打ちをして、傍に控えている雫に「炎神を渡せ」と命令した。
 理由が分からない雫は、とりあえず言われた通りに炎神を翔に渡す。

「んな事はしたくねぇが……。やるっきゃないよな」

 ひとりごち、翔は自分の指に炎神を少しだけ滑らす。切られた指の先からは、自分の血が流れ出てくる。
 その血を、翔は何も言わず舐めとった。
 すると、心臓が大きく跳ねるような「ドクン」という音が聞こえ、翔の切られた傷が見る見るうちに回復して行く。

「え、何——」

 何が起きたのか分からない雫は、口をパクパクと開けて座りこんでいた。
 翔は体を起こし、炎神を担いで死神装束を羽織る。包帯をはぎ取り、そこら辺に寝ていた幸村、政宗、家康を蹴り起こした。
 思い切りけられたのか、激痛で無理矢理起こされた3人は、相当不機嫌そうだった。

「凜。よく聞け」

 ボサボサだった黒髪を手櫛で梳かし、髪紐で左下に結う。
 いつもの姿に戻った翔は、凜に向かって親指を突き出し、そのまま下へ持って行く。「死ね」のジェスチャーだった。

「俺は蘭を許す気はない。あいつの記憶を改造されるのは覚悟しておけ」

 それは、翔達「死神」にとっては最大の譲歩である。
 死神同士で傷つけあう事は、どちらかが必ず死ぬ。だが、今の翔はそんな事は一言も言っていなかった。
 言葉が意味する内容——「殺しはしない」である。

「だからお前も協力はしろよ。体力バカ」

「えぇ、分かってるわよ。自分の兄ですもの」

 涙を拭い、凜は立ちあがった。

***** ***** *****

 曇天の空。風が吹き荒れ、少年の髪を大きく乱す。
 彼方を見据える翡翠色の双眸——その目下にあるのは大きな船だった。
 少年は小さく笑みを浮かべ、そしてつぶやく。

「まったく、高杉晋介の野郎には呆れるねー。俺に一体、どうしろって言うんだ。鬼兵隊になんて、死んでも入りたくないし」

 薄い紙で作られた手紙を粉みじんに引き裂き、少年は笑う。高く高く、どこまでも響く笑い声で。
 やがて、その笑い声は止まり、1人の少年の名前をつぶやく。

「東、翔。どこに居るのかなー」

 また笑う。今度はクスクスと、声を漏らして。