二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 炎神暴君★リシタニア-銀魂×戦国BASARA-質問大会中 ( No.61 )
日時: 2011/03/25 18:56
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第5,5話 怖い話って案外怖くないんだよ。


 と言う訳で、少年の未練を断ち切らせてあげる為に、皆は考えを巡らせていた。
 正確に言えば、少年の未練については本人から聞けた。案外容易い条件で良かったと思う。
 その未練とは——『プリンを食べる事』である。
 プリンについては、昴が神の速さで買ってきてくれたが、大問題が発生。それは、幽霊の少年に、どうやってプリンを食べさせるかという事だ。
 ちなみに、翔が言うには『幽霊の実体化は無理』という事である。

「だぁぁああ! 実体化が無理なんだから、もう未練なんて無理だろうが! お供えか? お供えればいいんか?!」

 昴は頭をかきむしりながら、天井を仰ぎ見て絶叫する。
 お供えするにしろ、少年がどこで死んだのかも分からない。家がどこなのかも分からない——と。
 もう絶体絶命。断崖絶壁。

「……あのよー」

 皆が考えている最中、翔が突然口をはさんだ。

「幽霊の実体化についてなんだがな、」

「出来るのか?!」

 慶次が翔にしがみついた。
 翔は慶次の手を振り払い、重そうに腰を上げる。

「実体化は『力と時間と素材が必要だから』無理だと言っただけだ。別に出来ない訳じゃ——」

 全員が翔にしがみついた。もちろん、少年も。
 暑苦しそうだなぁ、翔。可哀想に。

「素材って何が必要なんだ?! 教えてくれ、何でもする!」

 慶次が翔をガクガクと揺らし、嬉しそうに叫んだ。訂正、何か必死そう。
 翔は慶次を蹴りあげ、たった一言、告げた。

「全員、ミンチになる覚悟はあるか?」

「「「「「————ハイ?」」」」」

 聞き返したので、もう1度。

「全員、ミンチになる覚悟はあるのか?」

 時が止まった————。
 直後、空を貫くような絶叫が、屯所の1室から響いた。

「何で実体化如きでミンチになる覚悟をせにゃならん?! 教えれ!」

 昴が翔の胸倉をつかんで、涙目で叫んだ。

「現実を甘く見るんねぇよ。世の中ってのはそういうもんさ。何でも上手く行くと思ったら大間違いだぞ」

 昴の手を振り払い、翔は炎神を少年に突き付けた。
 ビク、と怯えたように震えあがる少年。余程怖いのだろう。

「術に失敗すれば全員ミンチ。即刻お陀仏だ。それでもいいのなら、素材を発表しようと思う」

 全員の思考→ミンチだけは勘弁。
 でも、ここでやらなければ、少年の未練は断ち切れない。ならば、命を賭しても立ちきってやろうではないか。

「やってやるよ! ミンチでも上等!」

「……言うじゃねぇか。よし、素材の発表だ」

***** ***** *****

 素材とは、刀が1本。マヨネーズ。プリン。蝋燭。金属のアクセサリー。以上だった。
 それらを地面に置き、真ん中に馬鹿でかい魔法陣を描く。
 中央にプリンと少年を配置し、準備は完了。

「始めるぞ」

 翔の短い言葉で、その場に居る全員は目を閉じた。


『闇を駆けるは鴉。光を駆けるは梟————万物を今此処に、蘇らせよ』


 どこかの言葉だか分からない言語で、翔は唱えた。
 光が魔法陣から生まれ、少年を包みこんでいく。やがて、収まった時には実体化された少年が倒れていた。

「成功だぁ!!!」

 真っ先に嬉しがったのは、昴だった。少年を抱き起こし、歓喜の声を上げる。
 周りがうるさいので、少年はぼんやりと目覚めた。
 術は成功。未練を断ち切る事が出来るだろう。

「おい、そこ」

「は、ハイ?!」

 翔に名前を呼ばれ、少年は驚いた様に立ち上がる。

「早くプリンを食べろ。この術は違法でな、見つかるとヤバいんだ」

 それを先に言え。
 少年はプリンを掻きこむように食べ、未練をあっさり断ち切った。
 何か、翔が言うには幽霊が生き返るのは違法であり、その違法を使った死神は罰せられてしまうのだと言う。
 だから術は難しかったのか、納得。

「よし、食ったな。じゃ、空へ還れ!」

 炎神を振るい、少年を天へと導く翔。
 辺りが昼間のように明るくなり、空が割れる。1つの虹色の球体が、光を昇って行った。

「あの子、次は幸せに生まれてくると良いな」

 夜に戻った瞬間、燐菜が空を見上げながらつぶやいた。
 隣で聞いていた翔は、フイと視線をそらし、皆に『帰るぞ』と言った。

 少し悲しく思った、そんなある日。