二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第3話 ( No.24 )
日時: 2011/07/01 16:23
名前: 雷燕 ◆bizc.dLEtA (ID: /D2iNz78)

「うん、いいものを見た」

 花畑から出たレイアは上機嫌だった。シェイミといえば、裏技か配信かでしか手に入らない、珍しいポケモン。それを、この世界に来て早々に見られるとは……。
 それに、目を閉じてあの色とりどりの絨毯を思い浮かべ、快い風と花の香りを感じるだけで、あの感動が蘇るようだ。ああいう素晴らしい景色が、この世界にはたくさんあるのだろう。もっと見て回りたい、と思った。元の世界にも絶景と言われる場所はたくさんあるが、行ける気がしない所も多い。しかしこの世界ならば、ポケモンと一緒ならば、どこへだって行ける気がする。

 よし、行くか、とヒトカゲに声をかけて、レイアはソノオタウンを後にした。

 ソノオタウンとコトブキシティの間には、荒れた抜け道、という所がある。小さな洞窟だ。204番道路のトレーナーや野生のポケモンとバトルをしながら進んでい行くと、抜け道の入り口に行き着いた。炎タイプのヒトカゲは岩タイプが苦手だからポケモンが出ないといいな、と思いつつ、洞窟の中へ入る。足の裏が痛かった。

 ここを通るトレーナーのためなのか抜け道内には明かりが付けられており、中は割と明るかった。抜け道自体は短く、階段を下りた先に出口は見えるのだが、その前にある石が通行の邪魔をしていた。屈強なポケモンが壊そうとすれば壊れそうだが、ヒトカゲでは無理そうだ。というかヒトカゲにできるなら自分でもできる気がする、とレイアは思った。

 とにかくここを通らなければコトブキシティに行けない。ソノオタウンではモンスターボールも何も買わなかったから、ポケモンを捕まえることもできない。どうしよう、秘伝技のいわくだきを使えなければならないのか……?

 レイアが考えていると、向こう側の入り口から人が入ってきた。
 白いニット帽に赤いマフラー、ミニスカート、ピンクのブーツという格好の少女。先程モミが話していた人物、シンオウリーグチャンピオンシロナに打ち勝った人物……ヒカリだ。

「あ、そこの人、ちょっと離れてて! 出てきてゴウカザル、マッハパンチ!」

 彼女が投げたモンスターボールから出てきたゴウカザルは、目にも留まらぬ速さで岩を砕いた。人が楽々通れるくらいのスペースが開く。辺りに石の欠片が飛び散ったが、レイアにもヒトカゲにも当たらなかった。

「ありがとう、戻って」
 ヒカリはゴウカザルをボールに戻した。
「もしかして、怪我したりしなかった?」
「あ、大丈夫大丈夫。えっと……ヒカリ、ちゃん?」

 彼女がレイアを心配して言ってくれたので返事をして、一応確認をする。本や画面で何度も見た顔に服装なので、間違えるはずは無いと思うのだが。レイアはヒカリの方へ歩み寄った。
 案の定、彼女は質問に肯定をしてくる。

「あ、うんそうだよ。何で知ってるの?」
「モミさんって知ってるだろ? さっき一緒にハクタイの森を抜けたんだけどさ、君のこと話してたよ。今は多分ソノオタウンにいるから、会ったらどうかな」
「そうなんだ? ハクタイの森とモミさんかあ、懐かしいな。うん、会いに行くよ」
「喜んでもらえると思う。ところで、今どこに行ってるんだ?」
「ハクタイシティにオーキド博士が来てるって連絡があったから、会いに行ってるとこ。コウキももう行ってるって言ってた」
「ああ、コウキならハクタイシティ側の205番道路で玉砕されてきたよ」
「本当? じゃあもう着いてるかな。ちょっと急がなきゃ。じゃあね! モミさんのこと、ありがとう!」
「ああ!」

 お互いに手を振って分かれた。
 ——待ってろよ、いつかそこに登りつめて見せるから。
 さっきのゴウカザルを思い浮かべながら、心の中で呟く。「いつか」が来る前に帰れるのが一番喜ばしいことなのだが。さらにできれば、この世界に愛着が湧く前に。