二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第5話 ( No.45 )
- 日時: 2012/09/17 22:52
- 名前: 雷燕 ◆bizc.dLEtA (ID: MbtYH2rf)
その指の先には、家というより小さな小屋がある。
「本当だ……トキワの森にこんなのあったっけ」
まあ、ゲームの画面はずいぶん簡略化されているから、ゲーム画面に無いものがこの世界にあっても、おかしくは無いのだが。
「あれ? カントーには来たことないんじゃなかったっけ?」
「あ、ああ来たことは無いんだけど」
お茶を濁す。この世界についての知識は、軽々しく口にしないようにしないと……。ポケモンマフィアのことやら、実際知ってたら危ないこともある気がする。
「行こうよ」
「は?」
「いや『は?』って……」ルイに苦笑された。「迷った人に道を教えてくれたり、軽くお茶とかくれる所かもしれないし」
「まあ……そうだな。行ってみようか」
ゲームでは建物があったらとりあえず入っていたが、実際に知らない人の家に突然ずかずか入り込むのは明らかにおかしい。故にルイの発言には驚いた。しかしトレーナーに対してこんなにも親切な世の中だ。休憩させてあげるのは常識なのかもしれない。
さすがに突然押し入ることはせず、扉をノックする。すると中から「どうぞー」と男の声がした。向こうも慣れっこなのだろうか。ルイが扉を押して、中に入った。レイアも続く。
ドアに玄関はなく、中は小屋のようになっていた。机と椅子、簡易なキッチンにベッド。本当にゲームに出てくるような、ワンルームの一軒家だ。
そしてそこにいたのは、見たことのある気のする青年だった。
茶髪で天然パーマのかかった髪。まさかと思ったレイアだったが、彼が喋ると勘は確信に変わった。
「今日も冒険お疲れやで。今お茶入れるき、まあ休んで行きや」
関西弁。間違いない、この人はマサキだ。初代の使いにくすぎるポケモン預かりシステムを作った、マサキだ。
「マ、マサキさんですよね!」
レイアが言った。
「ん、そうやけど、何で知っとるんや?」
「あ、いやあのポケモンボックスの開発者ですよね。どこかで見たことがある気がするんです……どこだったか忘れましたけど」
「あーな。確かにアレ作ったときは色々取材とかあったなあ。でも数年前の話やん。よう知っとんな」
「あはは……」
そんな会話を交わしているうちに、マサキがお茶を出してくれた。温かいレモンティーだ。ゆっくりと口に注ぐ。美味しい。
レイアは知っている人物に会ったのが嬉しくて、マサキとたくさん話したかった。知るはずのない知識は表に出さないよう気をつけながら。
「マサキさんの家はこの近くなんですか?」
実際は知っているのだが。
「いや、ジョウト地方のコガネシティや。カントーにはハナダシティをちょっと越えたあたりに別荘があってな。ちょうどそこに行きよる途中なんよ」
あのイーブイをくれる場所ですね。
「そうなんですか。ハナダシティって言えば、ハナダの洞窟がありますよね。あれの中ってどうなってるのか知ってます?」
「やっぱり真っ先にそういうところに目をつけるんだねえ」
ルイに笑われた。
「あーあそこなあ。数年前レッドっていう無茶苦茶に強いトレーナーが入って行ったらしいけど、わいは知らへんわあ」
「レッドさんと知り合いなんですか?」
マサキの口から「レッド」という単語が出てきたので、レイアはここぞとばかりに話題を持っていった。公式で最強のトレーナーとして出てくるほどだ。金銀版の主人公に敗れこそするが、そこは主人公補正ってやつ。レッド好きのレイアとしてはシロガネ山に何度も赴き打ち負かすたびにそう思っていた。
「自分で作った装置でえらい目にあって助けてくれたけん、イーブイあげたくらいやけどな。今はどこにおるか分かったもんやないけど、あいつならあのイーブイを随分と強くしてるんやろうなあ」
「レッドさんが今どこにいるかって、何も手がかり無しなんですか?」
「お、食いついてくるねえ」
マサキが笑った。
「せやな。グリーン君とは知り合いなんやけど、彼にも分からんらしい」
そうか。ならばやはりシロガネ山の頂上、又は最深部にいるのだろうか。
「そうですか。やっぱ全トレーナーの憧れ——」
ヒュオオオオ!
レイアがそう言いかけた時。小屋の裏側から、ポケモンの鳴き声がした。
「ラティオスや!」
マサキが叫んだ。こんな場所に、ラティオスだって?