二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【リク】ボカロ曲を好き勝手に【募集】 ( No.147 )
- 日時: 2011/07/19 21:18
- 名前: 紫 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
また、逃げ出したけれど。
#04 世界は、残酷で優しい
どこだ、ここは。
手を繋いでいた幽霊の姿もない。ぼくは立ったままで校舎に居た。この校舎は案外古いので、幽霊の姿も見えるはず……なのだが。ぼくには見えない。
ぼくは——幽霊が見えるはずもなくましてや幽霊になってるわけでもなかった。靴箱で立ち止まって、立ったままで眠りについていた、ただの、間抜けでちっぽけな中学生だった。
しかし、あの女の子はどこかで会った事のある人。名前、名前が思い出せない……。最近亡くなったぼくと同じぐらいの知り合い。友達は居ないから、妥当なのは親戚辺り、だろうか。
けれど居ない。あの子は誰だ。夢のあの子…………ユメ?
それは、昔の事だった。ぼくは夢の中で女の子に出会った。その時だってぼくは虐められていた。ふでばこ取られたり文句言われたり。そんな時、優しい笑みを浮かべて、不思議な世界にふわふわと浮遊している女の子の姿——それが、『ユメ』だった。
名前はぼくが名付けた。なんてネーミングセンスだと今更思うが、それでもユメはそれが大切だったんだと思う。幼いぼくが名付けた、その名前が。
だけど、ぼくは成長した。悪く言えば、色んな事を知りすぎた。そのせいで、忙しくて、怖くて、恐ろしくて。それで、依存できなかった。夢に。ユメに。依存したら嫌われそうで。味方は、子猫だけと思っていた。
だけどユメは悲しかったんだ。ぼくに依存されない事が。そして何より、ぼくがユメを感情で埋め尽くした事が。
懐かしいユメに惑わされて。ぼくは目が覚めていた。気がつけば靴を持って上履きのまま走り出していて、逃げ出した。眠りから覚めても、人生はまだ続く。嫌な時は、まだ終わらない。でも、立ち向かう諦めと、あいつらに向かっての苛立ちと、人生への、ちっぽけな希望を抱えて、今日も明日も、子猫とユメに慰めてもらおう。
————おはよう。
優しい少女の声と、可愛い子猫の声が夢現だったぼくに聞こえて、ようやく目が覚める。ああ良かった。ぼくはいつだって独りじゃない。
また今日の始まりを見て、きらめく埃を欠伸で吸い込んで。寝ぼけた頭上を、——夜空の向こうなんかでミサイルが飛んでく。
しかし、平和で優しいこの国は、そんな事関係ない。そんな事関係なく、眠たそうに体を伸ばして鳴く子猫は、こんなにも可愛いのだった。
end / ユメネコ