二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【クイズ】ボカロ曲を好き勝手に【企画】 ( No.254 )
日時: 2011/10/07 20:03
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)

 「ハート」と「ダイヤ」は紙一重。


#04 こんにちは


 君が取られた。いらつく。私から好きっていう言葉を言いたくなくて、それだけだったのに、いつの間にか狙う意味もない。
 早く言っておけば良かっただなんて、今更後悔。
 味がなくなったガムを噛むのに飽きて、ガムを捨てるように。私は君の事はもう見ない。悔しさも悲しさも、全部要らないから捨てる。新たな恋を私は探す。それが、私が私で居るための道理。格好良い女の人に私はなりたい。だから、失恋したらすぐバイバイ。
 パズルの凸凹は、意外にも『私とあなた』じゃなくて『クソヤロウとむかつくアイツ』でも嵌るようね。 
 ——って、開き直れる筈がなかった。心はどしゃぶり。降りしきる雨の中に私は、うずくまっている。誰かに縋りたくて、その相手は取られて。今までツクリモノで対応してきた人間なんかに、会いたくもないわ。こういう時って、誰に助けてもらうのかしら。嘘で人と関わると、本当に頼れる人が居なくなる。嘘のデメリットを頭に浮かべては、後悔に変える。
 止まるべきいかりなんて、とうに捨てたわ。ただ進むだけ。嘘を纏って、人を信じないで。誰が私の顔を覚えてる? 私は誰の顔を覚えてる? 覚えているのは、あの人と、ムカツクアイツと家族の顔だけ。

 ————人生は航海さ。広い広い世界の中を、船で旅に出る。けれど、旅に出たからこそ後悔する事もあるし、人と会う事で後悔する事もある。けれど、コウカイから学んでいく事もあるんだよ。

 誰かが、言っていた。言葉遊びが大好きなあの人の、言葉か——。いや、そのお父さんの言葉って、あの人は言っていた。
 携帯を開き、メールを送る。あなたに言わなかったたった一言。
 今まで遮るものがあったとするなら、私の心と、私の道徳と、私の法律。全部全部『私自身』がルールで、人の事なんて考えようともしなかった。
 数分後、携帯が発光した。メールの受信音。答えは既に分かりきってるから、怯えながら携帯を見る。
 『大好きだったよ』って打ったら、『ありがとう』って返ってきた。その後に謝罪が入っているのはともかくとして、私は、否定されなかった。それが嬉しくて、目に涙が溢れて零れる。

「失恋したのに嬉しいだなんて! おかしいじゃない!」

泣きながら笑った。
 
 翌日。仕事は昼からだった。仕事に出て、最初に目が合ったのはあの人だった。何事もなかった様に「こんにちは」と挨拶する。

「こんにちは」

……うそ。ちょっと壁を乗り越えたからって、こんなに変わっていくものなのかしら。彼の笑顔が嬉しくて、顔が紅潮するのが分かる。彼に顔を見せないように、会釈してすぐにそこを通り過ぎる。

 私の余計なプライドというお高い壁も、遠回りしてしまえば、人に否定されない、ツクリモノと私と同じ状況。
 信用を得るにしても、人付き合いを上手にした方がいいみたい。急がば回れって言うことわざもあるくらいだし。そこを飛び越えちゃったら、何かが代償としてくるのかもしれない。傷つかないように自分を大切にした結果、今の状況。振られたら嫌だから、告白しなかった。それで彼を取られた。しょうがない。

 Iとは何かと問われれば、それは当たり前に私自身の事で。愛とは何かと問われれば、それは私自身が抱く感情の事で。
 心は繊細で脆いけれど。ダイヤだっていずれ壊れる。失恋して、私は大丈夫とかって無理するよりも、泣いて泣いて、それを受け入れてまた頑張っていった方がいいんじゃないかと思う。
 ただひび割れしにくいだけだから、ダイヤなんていらないの。強い人なんて、ただの痩せ我慢。
 傷つきやすい私のハートも、傷つきにくいガラスのハートも、たいして違いはないものよ。



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