二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【クイズ】ボカロ曲を好き勝手に【企画】 ( No.267 )
- 日時: 2011/10/23 10:29
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
不吉な絶叫と共に、私は息絶えた。
#04 目の前を見たくない現実
目の前が見えない。考えられない。痛すぎて、何もできない。彼女が私の事を心配している様な素振りで、訊ねる。ああ、嘘つき。
「どうしたの、そんな空ろな目で体を震わせて。温かいミルクでもてなしてほしいの?」
私が望むのは、そんな事じゃないって、知ってるくせに。私は、首を振って意思表示をする。
「ふうん……痛かったの? 直して欲しいの? 全て元通りに?」
彼女の問いに、必死で頷く。彼は何をしているのだろう。ふとそんな事を考えると、彼女の声と溜息が聞こえた。
「おーけー、じゃあ全て元通りにしてあげる。ねえ、ちょっと来て」
「仕方ないな……」
二人が声を合わせた瞬間、私の意識はどこかへ飛んだ。
——十月三十一日。
皆が変装してお菓子を貰いに行く今夜は、うちにも沢山お菓子があった。無論私も変装して、出かける筈だった。友達と一緒に。なぜ夕方なのに変装もせずこんな森の中を彷徨っているのかと言うと、先程友達と喧嘩をして逃げてきてしまった。原因は……まあ、色々あるのだ。
森の中を歩いていると、空は既に暗くなっていた。…………どこかで見た様な光景。霧が広がっている森。少し、恐怖を覚える。いや——思い出す。
二人の男女に誘われて森の奥へ入っていった今夜の事を。私は不吉な予感がするので、走って元の道を辿る。私の記憶を頼りにして。
「お久しぶり。覚えているかな? 今日のハロウィンはどうだった?」
「最悪、よ……」
二人の男の人と女の人。紳士の様な振舞いをする男と、子供らしい、無邪気な女。頭に刻み付けられた恐怖が、鮮明になる。
「どうしたの、そんな目で体を震わせて。——ああ、温かいミルクでもてなしてほしいの? 大丈夫、すぐそこにあるから」
女の人は、見覚えのある小屋を指差した。逃げたくなるけど足が動かない。まただ。
男の人がドアを開けて、優しく声をかける。
「さあ中にお入り。ここはとても温かい」
「見返りは、そのポケットの中身でいいから」
胸ポケットを指差して、彼女は怪しげに笑う。私は怪訝に思い、ポケットの中を探っても、何も見当たらない。
「何もないわよ」
「ちょうだい、早く。ねぇ! ほら、今すぐに」
「trick and treat(甘いお菓子をくれたら、悪戯してあげる)」
やけに発音のいい、英語が聞こえる。男の声。
英語の意味を知って、私は身の毛がよだつ。二者択一だなんて、関係ない。その原則をかなぐり捨てた。……私は、いずれにしろ助からない。
もういいや。疲れた。まやかしで存分にもてなして。私の中の甘い蜜を吸い尽くして。抗う事に疲れた私は、二人に縛られる。
感じて感じて感じて感じて疲れて。でも、抗って。
「だめ。私にちょうだい。その心臓をよこせ」
「抗うな、ほら今すぐに」
二人の声が重なって聞こえた。
「ちょうだい!」
ぐさり。二度目の流血と悪戯を感じました。
end / trick and treat