二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ボカロ曲を好き勝手に解釈してみた ( No.30 )
日時: 2011/03/26 00:32
名前: 紫 ◆v9jt8.IUtE (ID: 6sz9.CTE)

 人生の三分の二は忘れるもんだよ。


#01 いつか忘れちまうから


 いつか、ここで生きていた事の記憶は忘れてしまうから。今ここにある大切な宝物を話題にして、げらげらと大きく笑うの。母さんと。

 「もう出てくんだなー。嫌な事も色々とあったなー」
「成人過ぎても育てた親に感謝の言葉はないの?」
「感謝の言葉はシャイガールには無理だからお酒をどうぞ」
「シャイガールなもんかねぇ」
「いやー、ありがとうなんて素直に言える日はきっと遠いよ、天国だよ」

私が酒瓶を注ぐ用意をすると、お母様が私の事を馬鹿にして笑う。それと同時にガラスのコップをセット。私はコップにお酒をこぽこぽと入れてあげた。
 いつか、この家で甘える為に演じてた弱さも忘れるんだろうな、彼氏さんと同棲したら。なんて、考える。今までこの二十一年間、ずーっと母さんに甘えてばっかだったな、と振り返る。

 「私より早死にしてどうすんの」
「お葬式はとにかく明るめに」
「こっちの願いだよ」

母さんは、コップの中の酒を一気に飲み干して、私の話に突っ込みを入れてくる。全くその通りです。母さんが空のコップを差し出してきたので、私も酒瓶を持ってこぽこぽしながら話を続ける。
 酒気を帯びた会話は、ふざけているものでもどこか悲しい様な雰囲気が漂っていた。名残があるのは私も母さんも、同じ様で。

 「アンタもやっとこの家を出てくのねー」
「いやー名残惜しいからもうちょい居たかったなー」

母さんが空を見上げて一言。ドラマでお馴染みのそれか。まあそう言いたい気持ちも分かるんだけどさ。ドラマではここは出て行く奴が「そうだねー」と相槌を打つが生憎そう言う会話は好きじゃない。
  
 「春だねえー」
「だねー」

今年の春が来るのを否定する様にも見えるが、優しい笑みで母さんは空に言い放った。
酒気を帯びたまま、適当に私も相槌を打って泣いてみた。ここでずっと母さんの世話になる訳にもいかないよ。肴を食って、空を見上げる。