二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: Pure love 君とずっと君と (テニプリ) ( No.1 )
- 日時: 2011/03/10 19:20
- 名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: I7JGXvEN)
- 参照: 嘘とか嫌なんだ、つまんないこと言わないでね。
小さく言えば、君は小さく返してくれる。
それをどれだけ待っただろう。どれだけ、嬉しかっただろう。
——————1年前、アメリカ
「ねぇ、」
男とも女とも言えるような声、だった。
振り返れば、白い帽子を深く被った少年が、上目遣いに見える生意気な瞳で此方をじっと見つめていた。
「俺??」
態とらしく、自分に人差し指を向ける。
——あぁ、そうだ。さっきの試合の相手だ—————
結構ねばり強い相手で、というより、単純に凄い強い相手だった。フォームが綺麗でボレーが上手かったな、なんて先刻までなかった記憶が舞い降りてきた。久しぶりに汗を掻いたな、なんて。侑士じゃないが言ってみる。
彼との試合は数十分前。常人なら忘れるはずのない時間。だが、そもそも覚えていない人間にとっては、関係のないことだ。目の前の少年は記憶していてくれたらしいが、此方はというと、カケラも脳味噌へ入れちゃいなかった。
さすがに失礼だったな、と愛想の良い笑顔をした振りをした。
「しらばっくれないでよ」
どうやら相当自身があるらしく、自分の記憶が相手にあること前提として話を進める少年。否、この数十分で、忘れられていると思う方が可笑しいか。そうなると、彼はそんなに自身かではないのか・・・・・・。まぁ、どっちだって良い。
「ごめんね」
面倒は嫌い。だから、謝った。会話も、長く続くと面倒だ。立ち去ろう。
「アンタさテニスしてて楽しい??」
そんな言葉が、脚を止めた。
やっぱり、少年は笑っている。
「初対面、だよな」
「さっき試合したじゃん」
「あぁ、そうか。・・・・・・んじゃ、話すのは初めてだな??」
「そうだね」
少年は背負っていたテニスバックを地面に置く。あぁ、そうか“越前リョーマ”か。カタカナだったな。テニスバックに書かれた文字を見て思い出す。
夕日に照らされるテニスコートは、さっきまで大会で賑わっていたというのに、無人で寂しい。少しだけ汗ばんだシャツが風邪に乾かされて、肌寒い。
視線を少年に戻した。
「質問に答えてよ??」
質問。あぁ、そうだったな。
「んー・・・・・・ 何だろうねぇ」
答えにくいなぁ。
「逆に聞こう。何でそれ、俺に聞くの??」
「アンタのテニスが変だったから」
「へぇ・・・・・・、って、えぇぇ?!」
マジで。おいおい、マジかよ。一応、氷帝学園で部長をしてるんだけどな。この小学生、無知なんだよな。きっと。そうだよな??
「変だった??」
若干傷つきながら、訊き返す。
「うん」
「へぇ、何で」
「さぁね。でもアンタ、負けたのに悔しがらないし。変だよ ——————俺の知ってる奴と、似てるテニスだった、てのもあるけどね」
——あぁ、確かに。そういや負けたな、俺。この子に。決勝戦だったか。
記憶していないため、曖昧だ。負け癖ついてんのかなぁ、なんて、ある男の顔を思い浮かべながら思った。
「越前リョーマクン、」
フルネーム。覚えておこう、彼は中々面白い。
それに、
「その話はまた今度、ね」
今は答えてあげられそうにない。彼の問いに、答えてあげられないよ。
「ちぇ、」
少年は舌打ちをして、また生意気に笑う。きっと彼は、もっともっと上へ行くんだろう。
俺の胸にはただただ寂しさが残るだけなんだ。熱くなった心は一瞬で冷え、このテニスコートの様に閑散とする。
「おにいちゃーんっ」
聞き慣れた声が飛んで来た。
「おぉ」
「何で気ぃ抜いたの?! 勝てそうだったのにっ」
「悪い悪い。肩の調子悪かったみたい」
「嘘つき」
「え、」
「跡部に言いつける。見知らぬ小学生に負けたって」
「えぇえええ、やめて、優勝したって言っといて」
「やだ、嘘は嫌いよ」
「ごめん、美波ちゃんごめんなさいっ」
俺の心が、寂しい理由は何だろう??
あんなにも夢中になれたテニスは、奪われちゃいないのに。
——考えなくても、解るんだけどさ。
ふと脳裏を過ぎるのは、黒髪の少年の姿。
「お兄ちゃん??」
「お、何だ??」
「別にぃ。メールそーしんっと」
「ぁあああああっ」
彼はもう、テニスはしないのだろうか。
そんなことは解るはずもなく。俺はただ隣にいる少女に、寂しさを感づかれないように笑う、笑う、笑う、笑う。
「次は、頑張るって」
『うるせぇ、氷帝学園の恥さらしが』
「お前さぁーっ、もっと言葉遣いをだな」
『仮部長の分際で生意気なんだよ、王[キング]を倒してから言うんだな』
「む」
メールを見たのか、すぐに着信があった。へぇ、携帯って海外にもかけれるんだ??、なんて思ったのもつかの間、後輩に説教と罵声を浴びせられる。
テニスは好きだ。だけど、どうも楽しいわけではないらしい。俺は答えを見つけられるだろうか。生意気な少年の純粋な問いに。それから、俺の“変なテニス”は、正常なモノに出来るのかな?? ———出来る日が来れば良い、そう思う。俺が好きなのは、テニスだ。
答えを見つけるまでに、時間を掛けすぎない方がいい。
俺のように、一生見つからないことになっちゃうかもよ??