二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   Pure love 君とずっと君と  (テニプリ)  ( No.9 )
日時: 2011/03/13 17:25
名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: I7JGXvEN)
参照: どうしようもなく、ただ、どうしようもない。



 君はいつでも、何処か遠くを見ているね??




001



「気合い、入ってるねぇ」

 思わず口から言葉が零れる。それほどまでに、此処、氷帝学園テニス部テニスコートは緊迫した空気が流れていた。その証拠に、いつも寝ているだけの芥川慈郎がぱっちりと目を開いていて、向日岳人がいつも以上に飛ばしていた。
 マネージャーであるが故、練習を間近で見ることが許されるが、取り巻きである女子達はそうはいかない。押し合いぶつかり合いながら少しでも前で見ようと必死だ。
 今日はそんな声も、どことなく大人しく、選手達を見守るような雰囲気だ。

「そうだね。結構皆、緊張してるんじゃない??」

 隣に現れた少年はニコリ、と笑顔を貼り付けている。そして皮肉を交えて言う。

「左京ー」
「おはよう、美波先輩。爽やかな朝ですね」
「・・・・・・朝練に遅れて、よくそんな物言いが出来るね??」

 笑顔に笑顔で返すモノの、彼の笑顔に勝てる気はしない。女である自分だが、片眼だけの笑顔は、女以上に魅力の在る、可愛らしいモノだと感じる。
 黒い髪を風に靡かせ、少年は長く伸びた前髪が上がらないように手でしっかりと押さえた。癖のないストレートの髪は、これもまたそこら辺の女子には負けない質の良さだ。少なくとも、美波の茶色い癖毛とは比べものにならない。

「良いじゃん。俺はレギュラーじゃないし」

 楽しそうに言う台詞ではないが、彼は楽しそうに、コートで練習する選ばれた選手達を見つめながら言う。

「ま、あそこで宍戸先輩が大人しく外されてりゃ、レギュラーは俺だったんですけどねー」
「日吉だよ」
「いやぁ、アイツには勝つ自信ありますよー??」
「性格の悪さもね」
「んー、その点宍戸先輩には負けてますかね、俺。あの人バカ正直だし」

 眉を器用に動かし、多彩に表情を変えながら言葉を紡ぐ左京。百面相のその表情は、彼の整った顔と優しげな笑顔を引き立たせる。言っていることは、かなりの自意識過剰でかなりの毒舌なのだが。
 左京は先週、監督で在る榊から、宍戸の復活がないようならレギュラーとしてユニフォームを着る覚悟をしておけ、と遠回しな言い方でレギュラー入りの予告をされていた。悔しいが、テニスの腕はシングルスならばかなりのものだろう、とマネージャーの美波は把握している。

(でも結局、榊監督は宍戸先輩を“信じてた”ってことだよね)

 監督の意中を読み、口角が自然と上がる。

「誰がバカだ」

 ふいに、左京の頭に軽い衝撃がやってきた。青い帽子の少年が、ラケットで頭をコツン、と叩いたのだ。

「痛、」

 美波は宍戸の近づく姿に気がついていたのだが、あえて言わなかった。左京を挟んで、宍戸と目が合う。

「宍戸ー ・・・・・・ふ、」
「てめぇ何時まで笑うつもりだ」
「ごめんごめんふふふふふふふふっ」
「おいコラ」

 見慣れない、の一言に限る。1年の頃からずっと長髪で、女子よりも髪質が良いと噂だった筈の男は、今、目の前で短髪に変貌している。青い帽子を被り、以前とは似てもにつかない姿になった。似合ってはいる。女子の間では「今の方が良い」と、評判の髪型だが———、見慣れない、の一言に限る。
 宍戸は毎回笑うマネージャーが不服の様で、眉間に皺を寄せていた。

「ッチ ・・・・・・つーか、お前ら相変わらずひっついんな」
「そうですか??」
「おぉ」
「仲良いからですかねぇ」
「・・・・・・」

 宍戸は眉間の皺を更に増やすが、左京は笑顔に磨きを掛ける。美波は2人の遣り取りの意味が解らず、完全にコートへ注意を逸らしていた。
 見えたのは、王[キング]の姿。
 
「跡部ーっ おはよー」
「美波、お前そんなところで何してる」
「え」
「こっちへ来い、仕事だ」
「えぇー」

 跡部は美波を自分の元へ引き寄せ、宍戸と左京に嫌味な笑顔をしてみせる。ふっと鼻で笑い、側に寄った美波の肩に手を置いた。

「な・・・っ!!!」
 
 美波は何か仕事を頼まれている様で、跡部の行動に何ら疑問や違和感を感じてはいないようだ。とことん鈍感で無防備なヤツ、だから跡部に遊ばれるんだ、何て、宍戸は日々苛々を募らせている。
 それに加え、左京のからかい。
 
「へぇ、跡部部長やりますねぇ」
「おい左京、見てないで止めてこい!!」
「その命令の意味が解りませんね。美波先輩が好きなら、自分で「黙れぇぇぇええええ!!!!」煩いです」
「もう良い!!」

 宍戸はそのまま走って行ってしまう。左京はその方向を見つめながら、やはりふっと笑った。
 その後、テニスコートにはメンバーが集まり、跡部の指示があり、強化選手である左京もレギュラー同様扱かれる結果となり、朝練は幕を閉じた。



——————


 暗い部屋。

「ねぇ、良いよね??」

 そんな甘い女の声が響いた。

「良くはないね。ていうより、駄目」
「えぇー、良いじゃない。私は、“信用できる女”よ」
「自分で言う??」
「言うわ。本当のことだもの」

 ふぅ、とため息をついた。もはやこの少女を止める手立てはないらしい。何を言っても、右から左へ受け流しだ。心へは響かない。
 少女は少年の顎に指をかけ、クイっと上を向かせる。心底嫌そうな表情の少年を見て、損そこ楽しそうに嗤った。

「あのさ、“アイツ”にももう、新しい仲間がいるんだよ」

 最後の忠告だ。

「アンタが行ったトコロで、何も変わりはしない。アンタが壊したモノは何をやっても治らないモノだったんだよ」

 少女は目を見開いた。だがすぐに表情を戻し、先程と変わらない笑顔を作り出す。
 少年の言葉の意味が理解出来ないわけではない。ただ認めたくないがために、彼女はその言葉を受け流す。何も聞かなかったふりをする。

「だから、もうアンタの役目は終わった。アンタが行く必要ない。 ————アメリカへ、帰んなよ」

 かつての親友に、自分はこんな酷い言葉をかけられるのか。

「・・・・・・へぇ」

 年上の彼女は、ニコリ、と笑った。

「悪いけど」

 顎から手を離し、今度は手を握って頬に軽くキスをする。
 一応日本人である彼女だが、アメリカ育ちな分、どうも行動は大胆な様だ。

「やめろよ」

 すぐにワイシャツで頬を拭く。
 そんな仕草を見ても、彼女は嗤ったままだ。


















「私じゃどうしようもない?? じゃ、貴方がどうにかできるのかしら??」