二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   Pure love 君とずっと君と  (テニプリ)  ( No.14 )
日時: 2011/03/15 16:25
名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: I7JGXvEN)
参照: どうしようもなく、ただ、どうしようもない。

002



 氷帝学園。
 東京では名の知れたお金持ち学校であり、そこに通う者もまた裕福な者が多い。スポーツや勉学に優れた者も多く、特に生徒会長兼部長の跡部景吾を筆頭に、テニス部は2年連続全国大会出場、と好成績を残している。
 そのテニス部は層が厚く、正レギュラー、準レギュラー、一般とレベルが分けられている。
 一度負ければ二度と使ってもらえない。そんな過酷な環境の中での熾烈な争いに勝利した者のみに与えられる正レギュラーの称号。先週にその仕来りを破り、レギュラーに返り咲いた男がいるが、彼は例外だったようだ。
 というように、年々レベルを上げている氷帝学園テニス部。それは跡部ただ1人で築いたモノではない。それは先代に遡る。



——————



「おにーぃちゃん!!」

 小南美波は、“505号室”のドアを勢いよく開けた。部屋へ入る美波に、跡部、左京が続く。
 部屋にいた少年は此方を向いて、ふっと微笑んだ。

「よー、美波。と、テニス部一同」

 間抜けな声が白い病室に響く。此処は金井総合病院だ。海が一望出来る病室で、黒髪の少年は笑っている。

「今日は一同じゃねぇ」

 跡部景吾は威圧の在る声で言う。だが少年に怯む様子はない。

「あり?? おぉ、美波とお前と、左京か」
「そゆことです。こんにちわ」

 左京が巫山戯た口調で挨拶をする。

「ほら、お見舞い」

 ドサッと置かれたのは、お菓子である。グミやらスナック菓子やら、種類は様々。立海の丸井でも連れてくれば喜ぶだろう。だが病人である少年には、身体に毒のようだ。

「お前さー それが病人へのお見舞いか?? スナック菓子はないだろ」

 少年はベットの上で膝を立て、その上に肘を置き頬杖をつく。不満そうな口調だが、表情は軟らかく楽しそうだ。しかし菓子の袋を開けようとはしない。
 スナック菓子の袋を開けたのは、少年ではなかった。

「前代の部長だからって、我が儘はいけませんよ。我が儘は。隼人部長は我が儘ですねー」

 小南隼人。彼こそが、氷帝学園前部長であり、まだ1年生だった跡部と共に氷帝学園を全国大会へ導いた男だ。
 部長とはいえ、実力上は跡部のほうが断然上だったため、大会の手続きやなんやらのために事務的に置かれた、正式には“仮”部長という名の肩書きなのだが。それでも、指示は的確で、試合での勝利率も跡部を除く部内でトップであった。
 そんな前部長も、実力者ではなるのに、どうしても跡部の影に隠れてしまい威厳のカケラもなく。こうして、準レギュラーで部の強化選手でしかない黒鳥左京に、馬鹿にされる羽目になっている。

「この野郎左京っ お前先輩への口の利き方がなってねぇな」
「跡部部長の受け売りです」

 その言葉を聞いた途端、隼人の目は跡部を睨むが、跡部は何も気にしてはいない様子。美波に椅子を持ってくるように指示している。レディファーストは、美波には当てはまらないらしい。
 美波はふくれっ面のまま、渋々跡部に椅子を用意し、自分は鼻を花瓶に生けた後、隼人のベットに腰掛けた。

「お前ら、練習は??」

 跡部は眉をひそめ、鼻で笑う。

「今日は寂しいお前のために、関東大会出場の報告をしにわざわざ此処までやって来てやったんだよ」
「おま、可愛げないなっ」
「んでも、跡部から行こうって言い出したんだよねっ」

 その場の空気を和ますつもりで、美波は笑う。
 跡部は美波に歩み寄ると、両方から頬をつまむ。

「美波余計なこと言ってんじゃねーぞ、テメぇ」
「えへへへへ、ごめんごめんってば痛い痛いいいいいっ」
「跡部部長大人げなーい」

 左京の声と同時に、跡部は美波の頬からパッと手を離す。
 隼人は笑った。

「跡部、なかなか嬉しいこと言ってくれるじゃねぇの」
「あーん??」

 意地でも認めないらしく、跡部は曖昧に会話を終わらす。
 
「んでもね、隼兄に言うことがあったのは本当でー」

 美波はニコリ、と笑う。
 隼人は首を傾げる。

「何だ??」
「今年の関東大会は、1回戦から青学です」

 左京が口を開く。自ら持って来た、スナック菓子を頬ばりながら。
 隼人は目をパチパチさせた。


「はぁあっ?! 青学?!」


「そうです青学」
「跡部のクジ運悪くって」
「むしろ幸運じゃねぇの。いずれ潰す予定だったんだからな」

 三者三様のコメントを付け足すが、跡部だけはポジティブだ。

「まぁ、青学になら、勝てるだろ?? お前らなら」

 隼人の脳裏には、昨年の対青学戦が思い出される。
 中学最強と言われる手塚率いる青学は、良いチームではある。実際自分は、昨年手塚に敗れた。だが、今年の氷帝メンバーを見ると、何ら遜色ない。むしろ勝っていると言える。
 不安があるとすれば———



「越前リョーマ、か」



 跡部は眉間に皺を寄せる。

「噂の超1年生[スーパールーキー]が気がかりか??」

 隼人はニヤリ、と口角を上げる。


「なぁ、————————————————————跡部」


 天然か、呆けているのか、適当か。
 それとも、計算か————

(小南隼人、)

 跡部は静かに、前部長を見下ろしながら眉間に手をあてた。
 前部長は無邪気な笑みを見せてはいるが、それは果たして

(どこまでも見抜いていやがる)

 本物か偽物か—————————