二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: Pure love 君とずっと君と (テニプリ) ( No.15 )
- 日時: 2011/03/20 20:05
- 名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: I7JGXvEN)
- 参照: どうしようもなく、ただ、どうしようもない。
003
「ここって、立海大の幸村も入院中なんですよね??」
「“幸村”ってお前、仮にも年上だぞ・・・」
どれ程食べればそうなるのか。左京は口の周りにたくさんの菓子のカスを付けたまま隼人に尋ねる。
隼人は大きなため息をついて、呆れた声で後輩の無礼な言葉遣いを注意する。敬語くらいは身に付けて欲しいモノだと、つくづく思う。
左京は何も気にしてはいない様で、けろっとした表情のままなのだが。
「隣の病室だよ」
その言葉に反応したのは、左京でも跡部でもなく、———美波だった。
(え?? 立海が、隣、———隣??)
持っていた菓子袋を床へ落とす。中に入っていたスナック菓子が、数枚散らばった。
3人の視線が痛い。思わず、手が震えた。
「どうした美波。立海大に、知り合いでもいるのか??」
跡部の声なんて聞き慣れていたはずなのに、何故かいつもより低く、何処か怖く聞こえた。
「美波ー?? 大丈夫か??」
兄の声が、違う人の声に聞こえた。
「美波先輩、そそっかしいですねぇ」
左京の声が、遠くに聞こえた。
「あ、あっと、ごめんっ」
「大丈夫かよ。ほら」
「あぁ、ありがと」
跡部が散らばったスナック菓子を拾い上げる。なんだか合成写真のような光景だったので、いつもの美波なら爆笑していたところだが、今は違う。先程の隼人の発言に、未だに手が震えていた。必死に隠すが、岳人や宍戸ならともかく、この3人を欺ける気がしない。
(馬鹿、)
自分を自分で叱る。
(バレてる、確実に、“跡部”に勘づかれる———!!)
身体を強ばらせ、手をぎゅっと握る。
どうか誰も、不自然な態度に突っ込んできませんように。誰も、詮索しませんように———、そう祈りながら。
「わ、私・・・っ」
美波はドアの方向へ走る。
「外に、出てる、ね!!」
入ってきたときよりも勢いよくドアを開き、閉めることのないまま、全速力とも言える速さで少女は駆けだした。
残された3人は、それぞれに少女の変化を感じ取る。
(触れちゃいけないとこだったな・・・・・・)
兄は1人、状況を理解し、そして—————————————————嗤った。
——————
「はぁー・・・」
ため息。どうしようもなく、もうため息しか出てこない。
(馬鹿みたい。本当に、馬鹿・・・・・・)
美波は病院の屋上にあるベンチに腰掛ける。そこが幸村の指定席だと言うことに気がつかずに。
(幸村クン、病室変わったんだ。前は、もっと離れたところだったはず。だから、安心してたのに。まぁ、お兄ちゃんが仲良しだってことには、分かり無いんだけどね。それにしたって、近いよ・・・)
話しかける相手もいないので、彼女は自分との対話を続ける。自分の過去の思い出を、脳裏にフラッシュバックさせながら。最も、彼女にとって過去の思いでは懐かしい思い出ではあるが、必ずしも“良い思い出”とは言えないモノばかりなのだが。
ただ1つ誇れるのは、まだ幼いながらに正しい判断をしたということだ。
(もう、2年も経つ)
今でも、この“プリクラ”を引きちぎれないのはきっと、心の何処かで彼のことを待っているから。
(未練たらたらなのにね。跡部には、嫌われたくない————)
跡部と“彼”が、何度も脳裏に映っては消えていく。そんな我が儘な自分が嫌いだ。
「あ、やっぱりいた」
ふいに、澄んだ声が聞こえた。聞き覚えのある、懐かしくて綺麗で、何処までも優しくて、そして、どうしようもなく苦手な声。
自然に、身体は反応して震えていた。
「ゆ、幸村クン、」
美波のやっと発した言葉に、幸村精市は優しく微笑んだ。
優しい笑顔のはずなのに、どうしても苦手だった。別に嫌いな訳じゃない。彼の人柄自体は、むしろ好きであり尊敬もしている。それでも、こんな時の彼は、やっぱり苦手だ。
美波はきゅっと、唇を噛み締めた。
「隣、良いかな??」
「ど、どうぞ」
「立海以来だね。久しぶり。お兄さんとはよく会ってるけど」
「うん。ごめんね、その、お見舞いとかいけなくて」
そう言うと、「良いんだよ」と笑った。
美波は彼の顔色を窺いながら、恐る恐る尋ねた。
「何か、用??」
今までの2年間。美波が立海大を出てから、彼からは1度も、会うことはおろか連絡すらなかった。それなのに、今はこんなにも近くに穏やかな表情で座り、普通の会話をしている。何か用があるに違いない、と美波は思う。
(きっと、何か企んでる。何か、隠してる)
思い出の中の幸村と今隣にいる幸村を重ね合わせる。
俯いていた顔を上げ、彼の顔を直視する。やっぱり彼は—————笑っていた。
「ねぇ、美波」
“私だって、やだよ。やだ”
“こうする他、無いだろぃ。お前、これ以上アイツを苦しめるのかよ。1人にするのかよ!!”
“解ってるよ!! あの人、1人にしたら、きっと死んじゃう———”
それは、俺も同じだよ。
“解ってんなら、さっさと行けよ”
“でも、”
“さっさと、俺の前から消えろよ!!!!!”
「君はやっぱり、俺と話すのは苦手かい??」