二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   Pure love 君とずっと君と  (テニプリ)  ( No.21 )
日時: 2011/03/27 09:28
名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ycpBp.uF)
参照: どうしようもなく、ただ、どうしようもない。

005



処変わって氷帝学園。



「転校生だぁ??」

 宍戸亮の面倒くさそうな声がテニスコートに響く。

「つーか、こんな微妙な時期に私立校に転校生って」
「細かいことは気にするなよっ 何でも、アメリカからの帰国子女らしいぜ!!」
 
 2人はコートの隣で軽く壁打ちをしながら会話を続ける。
 宍戸はふと思いつき、打つ手を止め左手で戻ってきたボールを掴んみ、岳人の隣で壁打ちを続けるもう1人の少年に声をかけた。

「おい左京。お前、アメリカ帰りっつてなかったか??」

 そんな言葉に、黒鳥左京はピタッと動きを止める。壁に当たったボールが、ポーンと音を立てて地面に跳ね返り転がっていく。

「・・・・・・?? 左京??」

 明らかに動揺している様子の左京に、岳人が不思議そうに尋ねる。

(俺なんか不味いこと言ったか??)

 宍戸は心中で、自分の発言を思い返すが特に引っ掛かるモノはない。
 もう1度左京の顔色でも窺おうと視線を戻すと、今度は彼はいつもどおり笑っていた。

「そうですよ宍戸先輩。ですけど、アメリカは日本じゃないですから。“お前も隣町から来たよな??”みたいに言うの止めてくれます??」
「なっ?!」
「日本でも行ったことないところあるのに、宍戸先輩たら」

 ニヤリ、と馬鹿にするような笑みさえ浮かべる左京。先程までの動揺した様子は、一体何処へ消えたのか。
 いつもの調子で宍戸をからかう左京に、一瞬でも彼の心配をした宍戸は腹を立て始める。
 いつの間にか、そんな2人の空気を悟り岳人はジローや日吉の元へ避難する。それと入れ替わるように、鳳とマネージャーである美波が、2人の仲裁をしようと間へやって来た。


「まぁ、でも、話くらいは合うかもしれませんね。その転校生とっ」


 左京はそれだけ言い残すと、「お先にあがります」と跡部に告げ、部室へと歩いていく。

「・・・・・・なんだアイツ」
「さぁ。 跡部、その転校生ってさ、女の子??」

 美波は宍戸を受け流し、跡部に尋ねる。
 跡部は静かに頷いた。

「あぁ。3年A組・・・・・・ つまり、俺たちの暮らすに編入してくるって訳だ」
「へぇ」

 “俺たち”とは、美波と跡部のことである。2人は、今年初めて同じクラスになり、現在隣の席である。

「んじゃ、良い友達になれそうだねぇ」

 美波はスコア表を片手に、大きく伸びをした。



——————



「あ、リョーマ??」


[何だよ、こんな時間に]

「ふふふ。でも出てくれるじゃない」

[俺はアンタの電話を無視するわけにはいかないんだよね]

「ふぅん。嬉しいこと言ってくれるじゃない」 

[煩いよ]

「私今、氷帝学園にいるの」

[知ってる。うちの先輩に、ベラベラ喋るの止めなよ]

「あぁ・・・・・・ 彼面白い人ね。あのノートには興味があるわ」

[そーゆーこと言ってるんじゃないんだけど]

「あら。でも別に全て話した訳じゃないわよ。————言ったでしょ?? 私は、“信用できる女”よ」

[それはもうどうでも良いよ。 ・・・・・・切るよ]

「あぁ、ちょっと待って」

[何]



「私の“彼”を見つけたわ」



——————


「今日は、転校生を紹介します。皆、仲良くするように」

 担任の教師がお決まりの台詞を言い、ドアの方へ手招きすると静かにドアは開けられ、1人の少女が足音も立てない柔らかな振る舞いで歩いて入ってきた。そして教卓の横まで歩いてきた彼女は、ふわり、とクラス全員に向けて笑顔を振りまく。その笑顔に、このクラスの何人の男子が目を奪われただろうか。美波の隣に座る跡部景吾は、興味のカケラも示していないようだが。
 担任が小さな声で出した指示に頷き、彼女は再度此方へ向き直る。

「Hello!! My name is harunamisao. It came from the United States. My best regards!!」

 クラス全員が、呆気に取られたのは言うまでもない。いくらお金持ちが多く集まり国際的である氷帝学園の生徒たちとはいえ、転校生がいきなり英語では、きょとんとしてしまうのは仕方のないことだ。聞き取れない程難しい内容でもなかったが、美波レベルではポカンと転校生を見つめるだけしか出来ない。
 彼女は笑顔のまま、セミロングの亜麻色の髪を窓から入ってくる風に靡かせる。日に照らされた肌は真っ白で白雪姫を連想させる。何処か浮世離れした、不思議な雰囲気を持つ少女だった。

「ほぉ」

 ふいに、跡部がニヤリと口角を上げる。

「跡部??」
 
 美波が声をかけた時は、もう遅かった。彼は立ち上がり、机に脚をかけ笑っている。
 自己紹介をした春名操緒は、跡部の立てた大きな音に反応し、彼を見る。


「Welcome to my hyoutei educational institution. We welcome you. Express gratitude」


 跡部は実に楽しそうに、口を喜びで歪めたまま言う。


「It is ..rough.. glad. Thank you. However, a little impolite expression」
「Be not unrelated. This conduct oneself is my kingdom. I am a king. Remember」
「Changeable person. It is interesting 」


 操緒が跡部に何かを言い返し、跡部もそれに応える。その会話を、美波は全て聞き取れた訳ではないが、跡部の表情とやっと聞き取れた“キング”という言葉で理解できた。おそらくはこの学園の王は自分だと、転校生に自ら教えているのだろう。
 美波は操緒を見つめる。美人、というのが正しいだろう綺麗な少女だった。

「・・・・・・変わった人だなぁ」

 彼女は楽しそうに跡部に言葉を返す。
 そして、初めに此方へ向けて笑ったのとは、別の笑顔をしてみせた。