二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: Pure love 君とずっと君と (テニプリ) ( No.36 )
- 日時: 2011/03/28 11:56
- 名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ycpBp.uF)
- 参照: なんだかとっても、君は滑稽な生き物だ。
006
「そう言えばこの前、美波に会ったよ」
幸村精市の言葉に、小南隼人は動きを止めた。
「は??」
隼人の間抜けな声に、幸村はクスクスと笑う。
「だから、君の妹さんに会ったって、言ってるんだよ??」
「否、それは解る。それくらいは把握出来ている」
隼人は自分の髪をくしゃっと掻き上げる。彼が呆れている時にする仕草だ。幸村はそんな仕草を見て、ニコっと感情の読めない微笑みを浮かべた。
「俺が言いたいのはだな、」
幸村に向き直り、隼人は呆れた表情そのまま言った。
「——————————何でアイツに近づいた??」
声を少しだけ低くする。
これで、自分の真剣さを解ってもらえると助かるんだが、と心中で呟く。重たい空気も真剣な眼差しも、今の隼人にとってもっとも苦手とするものだからだ。自分からそんな空気を持ち込むようなことはしたくない。
実際、幸村は“会った”のではない。“近づいた”のだ。そんなことを見抜いての、隼人の問いだ。張本人である幸村なら、察して答えてくれるだろう。
隼人の胸中を知る由もない幸村だが、微笑し言葉を紡いだ。
「何でって言われてもね。理由は、俺の勝手だろう??」
「・・・・・・その、“俺の勝手”を教えろっつってんだろ」
深いため息をつきながら、隼人は言う。
やはり通じなかったのか、それとも彼のワザとか。それは解らないが、今の幸村に“勝手”を答える気はないらしい。
「そもそも、どうして理由が気になるんだい??」
自分から“美波に会った”と言い出したのにもかかわらず、随分な物言いだ。幸村は余裕の表情で笑っている。
隼人は小さく舌打ちをした。
(俺を、試してる、のか??)
幸村の胸中が掴めず、眉間に皺を寄せる。
仕方なく、口を開いた。
「お前は、美波の立海時代、1番仲良かったから、だよ」
隼人はふてた子供の様に吐き捨てるように言う。
幸村はその言葉で、数ヶ月前の出来事を思い出す。
「・・・・・・ふふふ、大丈夫だよ。俺は“アイツ”じゃない」
「煩せぇ」
「懐かしいなぁ 美波がまだ、そっちに転校する前の話だね」
幸村はやはり感情の読めない微笑みを浮かべたまま言う。隼人は、不機嫌そうにそっぽを向いていた。
——————
氷帝学園3年A組は、いつもとは違う空気に見舞われていた。というのも、つい先程インパクトの強い登場をした春名操緒に、皆が興味津々になっているからである。操緒は、すぐにクラスの面々に取り囲まれ、お約束の質問攻めにも笑顔で応じる。美波はそんな姿に、以前の自分を重ねていた。
(転校生って、大変だな)
なんて、思う。自分と決定的に違うのは、操緒が大人びていて美人であるということだ。
「へぇ、あれが転校生か??」
忍足侑士が廊下から窓を開け呟く。隣には向日や宍戸、芥川、滝の姿まであった。どうやら、噂の転校生を見に来たらしい。
宍戸は面倒くさそうにため息をつくが、珍しく芥川は目をぱっちりと開き、楽しそうに笑っている。
「忍足、皆も。珍しいね、揃って」
「そこで一緒になったんや。何や、岳人がどうしても、言うからな」
「ふぅん。良かったね岳人、転校生美人さんだよ」
「どーゆー意味だよっ」
岳人の反論をスルーし、美波は隣に座っている跡部に目を向ける。
「春名さんて素敵な人だよね。 ね、跡部??」
転校してきてすぐの彼女に喧嘩を売るような歓迎をした跡部は、フン、と鼻で笑った。
「まぁ、顔は合格点だろうな」
「うっわー 跡部って人をそんな風に見てるんだ??」
2人の会話が口喧嘩に発展しそうになった頃———、彼らの話題であった、操緒が此方へ近づいてきた。
「こんにちわ」
可愛くて無邪気な、それでいて優しい声だった。
「何だ??」
「初めましてー 春名さん」
2人はそれぞれ別の対応をする。
「初めまして」
美波に対しても、操緒は変わらない笑顔を向ける。
テニス部の面々は、初めてお目に掛かる転校生の少女に釘付けとなっている。操緒はそんな視線に気がついたのか、彼らに向けて少しだけ微笑む。忍足は意味ありげにそれに対して微笑みを返し、岳人は少しだけ頬を赤らめた。
操緒は跡部に向き直る。
「ねぇ、跡部くん??」
口角を上げ、形の良い唇を動かす。
跡部は興味なさそうに操緒の言葉に耳を傾けていた。
「何だ」
「そんなに怖い顔しないで」
「用件を言え」
そんな会話を隣で聞いている美波たちは、決して表情には出さないがハラハラしながら見守っていた。
跡部の冷遇を受けながらも全く動じない彼女に、尊敬してしまう。
「えっとね、単刀直入、のほうが良さそうだね」
操緒はやっぱり、笑顔を崩さない。そんな姿に、美波は先日会った立海の少年を思い出す。
「黒鳥左京——— 彼と話がしたいの」
刹那、その場の空気が凍りつく。
その場にいない少年が脳裏に過ぎる。今朝、知り合いのはずないだろう、と否定した少年だ。
「黒、鳥・・・・・・??」
跡部が彼女の言葉を復唱する。
「何が目的だ」
左京の笑顔には人を惹きつけるモノがあり、美波が知る限りではファンも多数、テニス部レギュラー陣に次ぐ人気だ。学校でも、そこそこ有名であるだろうし、告白されているところを目撃したこともある。だから、跡部に女子がこういった話を持ちかけることも何度かあった。だが———、春名操緒は違う。本当についさっき、知り合ったばかりである。
そして、彼女の瞳は、取り巻きの少女達とは似ても似つかなかった。
だからこそ、跡部は危機感を感じた。
「それを言わねぇつもりなら、会わせる訳にはいかねぇな」
操緒はきっと、この跡部の問いを装うしていたんだろう。
彼女はやっぱり嗤ったまま。
「それじゃぁ、仕方ない」
「は??」
「うん。跡部くんに頼るのは止めておくわ」
「何だと??」
跡部を挑発しているのか、忍足はそう考えるがどうも違うらしい。操緒は本当に諦めているようだった。
「ごめんね?? ———自分で探すわ」
彼女の後ろ姿は、妙に儚く見えた。でもそれは、決して綺麗なモノではなくて———
「何だ?? アイツ」
宍戸が放った言葉で、やっと沈黙が破られる。
「・・・・・・さぁな」
この後、跡部は深く後悔することになる。