二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   Pure love 君とずっと君と  (テニプリ)  ( No.55 )
日時: 2011/04/01 20:42
名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ycpBp.uF)
参照: あぁ、こんなに懐かしいのに。

009



“俺を1人にしないで……!!!!”


(ほっとけない、やっぱり、ほっとけないっ だって、似てる)


“お願い、美波っ”
“……ごめん、ごめんっ でも、”


(お兄ちゃんと—————————っ)


“俺は、やだよっ”



「さ、きょうっ 待って、」

 あぁ、もっと早く走れないのか。
 美波は自分の運動神経の無さを恨む。いつもは気にしないようにしているが、彼女の運動音痴は学年で知らない者はいない程だ。体育祭では、派手に転け、リレーをやっても必ず抜かれ、玉入れもままならない。そんな彼女の全力疾走など、当てになるはずもなく、前を走っている左京との差は、開くばかりだ。
 それでも、見失ってしまう訳にはいかない。広い敷地だ。それに、校外へ出られてしまっては、もう見つけることが出来ない。

「左京!!」

 美波が大きな声で彼を呼んだその時だった。明らかに彼の脚が縺れるのが解った。刹那、左京は盛大に芝生に向かって転んだ。

「え、嘘?!ちょちょちょ、左京?!転けた?!」

 美波は一人で騒ぎながら、左京が消えた芝生へ走る。彼女がたどり着いたときには、既に左京は身体を起こし、俯いて座っていた。彼がどんな表情をして何を思っているのかまでは、美波には解らなかった。

「え、っと、大丈夫?? さっき、転んで、」
「美波先輩こそだいじょーぶ?? 走るの苦手でしょ??」
「え」

 振り返った左京は、ニッと笑う。いつもより弱々しかったとは言え、笑っていることには変わりない。
 思った以上にいつも通りの対応をされた美波は、ハッと我に返る。無我夢中で追いかけてきたが、そんな必要なかったのではないか、と少し恥ずかしくなる。そんな時、左京の擦り剥いた膝が目に入る。
 左京は、そんな美波の胸中を察したのか、自分の左では出し、

「絆創膏、ちょーだい」

と微笑みながら言った。
 
「あ、うん。……大丈夫??」
「擦り傷だし。捻ったりはしてない、と思う」

 美波はホッと胸をなで下ろす。追いかけてきたのは無駄だったかもしれないが、この絆創膏は無駄にはならなかったらしい。
 左京に、訊きたいことは沢山ある。あんな風に叫んで、逃げ出すほどの何かが、操緒とあったはずなのだ。だけど、左京があまりにも“頑張って笑う”ので、美波はどう突っ込んで良いか解らない。というより、こんな時は突っ込んで欲しくない、という気持ちを美波は1番解っている。
 
(訊かないほうが、良いよね)

 追いかけてきて何だが、美波は何も言わないことに決めた。彼の笑顔が、あまりにも“自分”と重なったから。

「……美波先輩??」
「ふぇ、」
「戻らなくて良いんですか??」

 「あ!!」っと、美波は大声を出す。練習をほったらかして、マネージャーが何をやっているんだ。

「戻らなきゃ、左京も!!」
「あ、俺は後で。まだ、ちょっと」

 左京は気まずそうに目を逸らす。気持ちが解らなくもない。

「でも、」

 美波が説得しようと口を開いた時、ブブブブブ、と携帯のバイブ音が響いた。慌てて携帯を開くと、“アホベ”の文字が。美波は露骨に面倒くさそうな表情をする。

「……跡部。何??」
[何、じゃねぇ。すぐに戻れ。今どこにいる]
「ごめんごめん。大丈夫、学校の敷地内だから」
[早くしろよ。……もう、あの女は帰った]
「そっか」

 操緒の笑顔が浮かぶ。跡部も何処か混乱している様に感じるのは、自分だけだろうか。きっと、彼もまだ状況を全て把握出来てはいないだろう。

[そっちの様子はどうだ]

 美波は、跡部の問いに左京のほうを横目で見た。膝を気にしているようだが、特に変わった様子はない。……ように見えるだけかもしれないが。

「うん、今は、大丈夫みたい」
[それなら、とっとと戻ってこい]

 相変わらずの命令口調に思わず顔を顰めるが、それはそれで、跡部なりの気遣いなのだろうと解釈する。何はともあれ、これで左京を説得出来そうだ。

「戻って来いってさ。行こう??」
「はぁ」

 左京は途端に不安そうな表情を出す。
 
「ねぇ、左京」

 美波は、左京と目線を合わせるため膝をついた。

「先輩??」

 左京はきょとん、と眼を丸くする。

「えっと、私、上手く言えないけどっ 悩みがあっても大丈夫、だよ!!私だけじゃなくて、あのアホも、味方だしっ」

 何を言えば良いのか解らない。だけど、左京の抱えているものは、自分と同じ匂いがする。自分の抱えている傷と、きっと同じ———

「だから、ねっ」
「アホって、跡部部長のことですか??」
「え、あぁ、そうそう」

 美波の言葉に、左京は思わず笑った。



——————



「美波」

 帰り道。ミーティングを終え解散した後の事だった。名前を呼ばれ振り返る。

「跡部。どうかした??」
「これから病院か??」
 
 質問を質問で返されたが、良くあることなので特に気にせず会話を続ける。
 昨日、跡部と左京も一緒にお見舞いへ行ったばかりだが、美波は首を縦に振った。手には、お見舞いの品らしき物を持っている。

「うん。跡部も良く知ってるでしょ?? 私以外に、あの人の世話出来る人いないし」
「そうだったな。……乗れ」
「え」
「早くしろ。俺様が送ってやる」

 強引な台詞に拒否権を奪われ、言われるがままに車へ乗せられる。

「跡部、も、行くの」

 戸惑いながら尋ねると、跡部は少しだけ口角を上げた。