二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: Pure love 君とずっと君と (テニプリ) ( No.81 )
- 日時: 2011/04/16 14:47
- 名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ycpBp.uF)
- 参照: 小さな頃の、些細な思い出
012
(本当は、解ってるんだ)
兄が自分を、部屋から出した、本当の理由くらい。聞けないのは、自分自身の弱さ故だ。
(きっと、大切な話、なんだろうな)
待合室で、自販機で買ったジュースを飲みながら窓の外を見た。すぐ前には馬が見えて、前に済んでいたマンションのことを思い出す。
頼まれた花瓶の水を換える作業を終えたが、隼人と跡部の“大切な話”が終わっているとも思えない。もうしばらく、こうしてゆっくりしていった方が良いだろう。気になるけれど、聞いてはいけないような気がする。空気を読める人間にならなければ。
白い花、名前は美波には解らない。水を換えれば、さっきよりも元気があるように思えた。
「誰が持ってきてくれたんだろう……」
跡部にも言った通り、美波以外に隼人のお見舞いへやってくるのはテニス部のメンバーか、高校の友達くらいだ。とは言っても、テニス部は美波と一緒にしか来ないし、友達は忙しい人たちばかりだ、と隼人自身が言っていた。
(久しぶりに、来てくれたのかな。リサさん)
“リサさん”は、隼人の幼なじみとも恋人とも言えるような存在であり、昔はよく遊んだ女の人だ。小さかった美波は彼女の事をよく覚えていない上、引っ越してしまって、最近は此処へ訪れていないらしい。そんな彼女がやって来てくれたのだろうか。
ジュースも飲み干してしまい、暇になってくる。もう、帰っても大丈夫だろうか。
(……宍戸たちも、誘えば良かったなぁ)
誰か居れば、話が出来るのに。
知り合いなんて居ないことくらい理解しているが、何か面白いことがないかと廊下に目を向けた。当然、忙しそうに廊下を行ったり来たりする看護士ばかりで、面白いことも何もない。
小さな子供なら、珍しいものが多い病院の待合室ともあれば、テンションが上がるのだろうが、さすがの美波ももうそんな歳ではない。それに、この風景は見飽きた。むぅっと、頬を膨らませる。
「あら、美波ちゃん??」
白衣の女性が、此方へ近づいてくる。美波はそれが誰か解った途端、先程までとは打って変わって笑顔になった。
「名倉さんっ」
「久しぶりねーって、私が出張に出て以来だから、そうでも無いわね」
「えへへ、会えて嬉しいです」
名倉、という女医は美波の言葉にニッコリと微笑む。セミロングの黒髪をポニーテールに結び白衣を身に纏っており、眼鏡の奥の瞳は優しく笑う。美波も信頼している、隼人の主治医、といったところだ。
「どうしたの、今日は隼人くんのところに行かないの??」
名倉は首を傾げる。確かに、病室にも行かずこんなところで時間を潰しているというのは、不自然なものだ。
美波は苦笑いをする。
「後輩と、話し込んでみたいで、ね。私は散歩中、です」
「ふぅん?? そうなの??」
名倉はそれほど気にして居ないようで、不思議そうな表情のままだが返事をした。それから、今度は安心した様な表情に変わる。
「名、倉さん??」
「昔から、隼人くんて入院してもあんまり面会しなかったでしょ?? だから、話し込むくらい仲良しな後輩が出来たんだなぁーって」
「あぁ…」
美波の脳裏に、幼い頃が映し出される。名倉の言葉通り、兄はいつも独りで病室のベッドに座っていた。
“ねぇねぇおにいちゃん、”
“何だ??”
“どうしてだれもこないのかなぁ”
“リサが来てくれただろ??”
寂しいとか苦しいとか、一言も言わなかった。誰かに側にいて欲しいなんて、隼人は一言も言わなかった。何故かは知らないが、笑っていた。
入院は、今回が初めてではない。生まれつき弱かったらしく、小学校の頃から何度も入退院を繰り返していた。氷帝の中等部へ入ってからは、アメリカにまで行って試合をするほどテニスが上達するくらいに回復していたのだが卒業間際に倒れたのだ。
それからだ。隼人の病室に、沢山の人が来るようになったのは。
“美波、ごめんな??”
そんな事を言われたのは、何時だっけ。
「美波ちゃん??」
名倉に覗き込まれ、ハッとする。
「あ、すみませんっ」
「良いの良いの、私が変な事言っちゃったから。……隼人くんてナースさん口説いたりして遊んでたでしょ?? だから、ね。心配してたの」
笑いながら言う名倉に、美波は同意する。
確かに、友達が少ない割には社交的で女の子が好きだった。
「それじゃ、私は行くわね。また今度ゆっくり会いましょ」
名倉は手を振り、廊下を歩いていく。
美波はその名倉の姿を見送ると、時計に眼をやった。大分時間が経った。もう帰っても良いだろう。
「すんませんっ 此処何処ッスか?!」
立ち上がった美波の前に現れたのは、黒髪のワカメ頭の少年だった。
「はい?!」
「何でも良いから助けてくれよ!! 迷っちまって、病室に帰れねぇんだよっ」
「えぇっ」
泣きそうなのか怒っているのか、とりあえず物凄く焦った様子の彼は、美波の両肩を持ってグラグラと揺らす。美波は状況が把握できず、眼が点になったままだ。
「えっと、君は……??」
少ずつ落ち着きを取り戻してきた彼に、尋ねる。よく見ると、制服を着ていた。
(————————!! 立海……!!!)
見間違うはずもない、懐かしい制服を身に纏う少年。
「切原赤也ッス!! お願いだから助けてくださいっ」