二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   Pure love 君とずっと君と  (テニプリ)  ( No.118 )
日時: 2011/06/05 19:23
名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: V26UOF89)
参照: 俺が護りたいモノは、

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「氷帝!!氷帝!!氷帝!!氷帝!!」
「勝つのは氷帝!! 勝つのは氷帝!! 勝つのは氷帝!!」
「氷帝!!氷帝!!氷帝!!氷帝!!」

 煩いくらいに響く氷帝コールが心地良い。その中心に立ち、全身で、全部員の気持ちを受け止める、この瞬間が好きだ。何とも言えない、王[キング]だけの特権である。
 手を大きく掲げ、ジャージを脱ぎ捨てる。そして、スナップを1つ、ならす。
 そうすればほら、全ての視線は、俺の所有物だ。

「勝つのは、俺だ」

 その一言で、空気を変える。
 何も気にしない。気にならない。敵など、眼中にすらない。ただこの目が写すのは、自分自身だけだった。
 そんな俺に、いつも1つだけ、気になるものがあった。


「氷帝っ氷帝っ」


 なれない氷帝コールを、一生懸命叫ぶ女。
 ただ、彼女が笑っているかどうか。それだけが、どうしようもなく気になった。
 アイツは、ちゃんと笑っているか?? この状況を楽しんでいるか?? 俺を、見ているか??
 いくら格好つけても、いくら強がっても、いつもそんな事が気になって、俺は後ろを振り返るばかりだった。


——————


「俺は、アイツの楯に、なってやろうじゃねぇの」


 ありきたりな言葉だと、自分でもよく解っていた。それでも、今の跡部の素直な気持ちは、この言葉でしか表せない。

「あの莫迦が、いつでも莫迦みてぇに、笑えるようにしてやるよ」

 ただ、俺の後ろで笑っていればいい。笑ってさえしてくれれば、彼女に、何でも与えてやれる。

「俺はアイツを護る———」

 それは跡部の優しさであると同時に、彼自身の願望でもあったのかもしれない。
 思い返せば、自分が美波の事をどう思っているのか、驚くほど冷静に理解できた。彼女が自分にとってどんな存在であるのか、彼女にどうして欲しいのか。跡部にははっきりと理解できた。その気持ちに、嘘も偽りも存在しない。自分の答えに自信を持っていた。
 そして——— この“答え”が、正しいものだと、信じて疑わなかった。

「そうだ。答えたぜ?? 丸井」

 それ故、跡部は口角を上げ、ブン太に問いかける。
 返ってくる言葉を、想像もせずに。


「……バっカじゃねぇの」


 冷たく、軽蔑を込めた声だった。

「あーん??」

 小さく呟かれたブン太の言葉に、跡部は眉を顰める。

「もう1度言ってみろ」
「だから、その命令口調止めろっての」

 ブン太は盛大にため息を1つ付いた。

「だから、バカだっつってんだよ」

 今度は、跡部は相槌を打たなかった。


「楯になる?? 笑っていられるように?? 護る?? ———笑わせんなよ」


 ブン太を取り巻く空気が変わったことに、跡部は瞬時に気がつく。だが、ただ黙って、彼の言葉に耳を傾けた。

「美波なんか、わざわざ楯を用意しなくたって、護らなくたって、いつでも笑ってるぜぃ。そうだろ?? 現に、アイツは氷帝[ソッチ]ではヘラヘラ笑ってるだろぃ」

 言葉を紡ぐ彼の瞳は、確かに跡部を貫く。正確に言えば、跡部の“自信”を、だ。
 信じていた自分の“答え”はいとも簡単に、目の前の男に砕かれる。

「お前は何も解ってない」

 ブン太は吐き捨てる様に言った。

「美波を、見ていない」

 何を言ってるんだ、と。
 お前は莫迦か、と。
 笑わせるな、と。
 出来れば、今し方彼に言われた台詞を、全て、何倍にもして彼自身に返したい気分だった。
 だが、跡部は黙ったままだった。

「忠告しとくぜ。もう、お前みたいな奴と長々と話す機会なんて、ないだろぃ」

 ブン太は、珍しくガムを出していた口に、新しいガムを放り込む。いつも通り、グリーンアップルだ。

「泣かせてみろぃ」

 ブン太は、背を向けながら言った。



「美波を、泣かせてみろよ」



 “結構手強いぜ??”
 そう言った彼の背中は、薄暗くなり始めた病院の闇へ消えていった。


——————


“美波、”

 幼なじみの声は、耳に残って離れない。

“そろそろ、アイツにちゃんと会ってあげなよ”

 無理な話だ。美波は、何度もそんな淡い思いを握りつぶして、この1年間を過ごしていたのだ。無理な、話だ。


「お兄ちゃん、遅くなってごめんね」


 当然、兄が起きているものと思い、そんな言葉をつぶやきながらドアを開く。どう考えても、花瓶の水を換えに行っただけにしては、時間が掛かりすぎているので、美波はどう言い訳しようか考えながら病室へ足を入れた。
 ところが、隼人は点滴を打ちながら寝ていて、そこに座っていたはずの跡部の姿はなく、ただ樺地が立っているだけだった。

「あれ、樺地くん。跡部は?? それに、お兄ちゃん……」

 点滴なんて、一体どうしたのだろう。
 美波の頭は、疑問だらけになっていく。

「ウス、」
「ははは。ウスじゃ解んないよ」
「すみません……」

 樺地が次の言葉を発しようとしたその時———

「美波っ」

 505号室の扉が勢いよく開けられ、そこには王[キング]の姿があった。
 焦った様子で、額には汗が浮かんでいた。

「あ、跡部、何処行ってててってちょ、ふぇええてててて、あひょべ?!」

 真面目な顔のまま、美波の前までやってきた跡部は、突然美波の両頬を引っ張った。幼稚な遊びの様に、縦と横へ引っ張ってみる。
 やられた美波自信も、いつも平常心の樺地ですら、驚きの表情を浮かべていた。

「跡部?! 何するのっ」

 耐えかねた美波は、跡部の手を振り払う。
 そして、跡部の表情を見て——— 目を疑った。











「泣け」


*