二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【イナイレ】〜俺のサッカー〜『第七章・明かされる記憶』 ( No.302 )
日時: 2011/10/11 18:53
名前: まい (ID: nujUYaTi)

〜第10話〜「過去の決意」※少しアニメと違います※

試合が終わった俺達は、外に出てダイヤモンドダスト戦の反省をしていた。俺はキャプテン達から指摘されてないけど、未完成なまま必殺技を出してしまったのがダメだった。
あそこで成功すれば、追加点もとれたと思うし。
様々な思考を浮かばせて思わず深いため息をつく颯音。次の瞬間、耳に叫び声が響く。反射的に両耳をふさいで、目をつぶってしまった。

塔「なんで円堂がキーパーをやめないといけないんですか!?」
一「円堂以外に雷門のキーパーはいませんよ!納得できません!」

どうやら、監督は円堂に「キーパーをやめろ」といったらしい。別におかしいとは思わない。理由は二つ
一つは俺やアフロディ、豪炎寺先輩が動けない場合はキャプテンも攻撃に参加して必殺シュートを打つしかない。でも、それは G K であるキャプテンが前に出ると、相手に得点を与えるチャンスを与えてしまう弱点になるから。
もう一つは、最後のキャプテンがガゼルの<ノーザンインパクト>を止めた必殺技を使いこなせたら、強力な戦力にもなるから。
もし、キャプテンがフィールドに立つなら、リベロが適任だ。リベロっていうのは、基本的に「自由」な守備をしたり、チャンスの時は積極的に攻撃に参加したりする DF のことだ。キャプテンみたいな行動が激しい人にぴったりのはず。

瞳「貴方は、リベロになりなさい」
綱「リベロ?」
颯「知らないのか!?」

颯音はまず、悲鳴に近い大声をだします。かなり驚愕の表情です。上の説明通りに円堂に言いました。

綱「東條、よく知っているな!」
颯「先輩が無知なだけでしょ」

すっごく冷たい目で颯音は綱海を見ます。考えてみれば、綱海はサッカーを始めたばかりで知らないのは当然なのに気付かない颯音もしつれいです。
 それ以前に、颯音の口から「無知」という言葉を聞いたメンバーも驚愕の表情だったのも言うまでもありません。

木「じゃあ、キャプテンがリベロをやって誰がゴールを守るのさ?」
円「立向居がいる」
立「俺が、ですか?」

それは、全員納得が出来た。円堂以外の選手にGKを務められるのは<マジン・ザ・ハンド>を覚えている立向居しかいない。ここで、瞳子監督が段取りよく話を進めます。

瞳「練習は、明日よ。今日は休みなさい。各自、自由行動にします」

 自由行動、そう聞いた颯音は『イナズマ総合病院』へ足を運んだ。兄である暁を見るためだ。時間は夕方になって辺りが夕焼けで照らされていた。
中に入って真っ先に暁がいる個室に行く。そこには、眠ったままの暁がいた。看護師の話によると、気を失っているだけで体に異常にないらしい。カーテンが大きく揺れて、風が強くなる。近くにある椅子に腕を組んで座った。

颯「兄貴、ダイヤモンドダスト戦・・・・やっぱり、俺の力もまだまだ弱いよ。引き分けになったのがやっとだった。兄貴がいてくれたら、勝ったのかな?」

確かに、暁の洞察力があれば、勝っていたのかもしれなかった。だが、あの時に暁は倒れてしまった。運が悪かっただけか。そんなものじゃない気がする。ここで、颯音の脳裏にある記憶がよみがえった。

颯「覚えているか兄貴?壱松兄貴がいなくなって ——— 兄貴が人前で涙を流したくないって決めた時、あと、一人称が「俺」になった時」


5年前、壱松が死んで、泣いているばかりの時期が颯音にあった。だが、兄である直也の方は違っていた。直也はいつも通りに明るく振る舞って、サッカーをしていた。だが、颯音にとっては腹立たしく感じた。
 壱松が亡くなったというのに、平然としている直也の姿に。一度だけ、直也を殴ったことがあった。
あの日、直也は学校の友達と楽しく会話をしながら帰ってくる直也を待ち伏せた。
そして、頬を本気で殴った。ゆっくりと立ち上がろうとする直也に思い切り感情をぶつけた。

——— なんでなんだよ!?壱松が死んでもそんなにヘラヘラ笑えるんだ!?兄貴は壱松のことなんて、もう、どうでもいいのか!? ———

——— 颯音、僕は・・・・ ———

——— うるさい!もう、兄貴なんか知らない!!! ———

その場を走って立ち去る。この時、家に帰ったら「サッカーをやめる」って家族全員に言うと決めた。
帰り道で花を摘む。そして、摘んだ花を持って事故があった横断歩道に向かう。颯音は日課的に、お参りをしていた。喧嘩した後で、涙があふれ出して、目の前が少しぼやける。
 下をうつむいたまま横断歩道に着いた。ここは元々人通りが少ないから自分しかいない、そう思っていた。だが、颯音より先にさっき喧嘩した兄、直也が横断歩道の近くの電信柱に座っている。
 颯音は慌てて草むらに身を隠れた。遠くで、直也の声が聞こえる。


——— 壱松、さっき颯音に殴られた。しかも、『ヘラヘラ笑っているんだ?』って言われたよ ———


———『男は周りの人を不安にさせないために、どんなに悲しくても、涙を流さない』って壱松とおじさんの教えだよね———


全部、壱松に伝える言葉だった。この時、やっとわかった。なんで直也もいつも通りに明るく振る舞っていたのか、それは、周りの人に心配をかけさせないため。そう思うと、颯音は思い違いだったことを理解した。思い違いをしていた自分が嫌になる。


——— 僕は泣かない!これから先、どんなに傷つき、辛くて苦しくてもね。あと、強くなるため「僕」じゃなくて、「俺」として生きる! ———


決意を胸に直也は精一杯の笑顔をつくって言う。次の言葉を発した時、直也の声は震えていて涙声だった。


——— だから、これが最後の「僕」だよ ———


次に聞こえたのは、直也の泣き叫ぶ声だった。人通りが少なくて、幸い、海に近かった道だったため波音でほとんどの音がかき消された。この泣き声はおそらく、颯音と直也にしか聞こえない。
 その日から、直也は一人称が「俺」になった。顔つきも変わったような気がして、あの日から弟の颯音でも兄の泣き顔を見たことない
 颯音は直也と離れ離れになっても、ひたすらボールを追いかける日々が続いた。そして、偶然、兄と再会して現在に至る。


颯「たまたま聞いたあの兄貴の決意、もしもあの時、聞かなかったら・・・・俺、サッカーやめていたよ。ありがとう」

普段なら、必ず返事してくれるのに、今はなんにも答えてくれない。颯音の胸にぽっかり穴が開いた感じがした。本当は、泣きたい気持ちになったが、拳を握りしめて我慢した。
 ここに来る途中に咲いていた『萩(はぎ)』を一輪、花瓶に挿して颯音は個室を出て行った。