二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【イナイレ】〜俺のサッカー〜『アンケートとってます!』 ( No.327 )
日時: 2012/03/24 15:21
名前: まい (ID: a2VLYb41)

〜第21話〜「試合、開始」

試合の準備を済ませ、暁は一人で控室から出た。しばらく試合会場に続く廊下を進めば、見覚えのある茶髪でロングヘアーの冷たい黒い目をしている少女が壁に背中を預けて腕を組んでいた。こちらの足音に気が付いたのか、笑みを浮かべ目の前に立つ。

ティ「お久しぶりね」
暁 「ティム・・・・・いや、お前は海夢だろ」

【海夢】の名前を聞いた瞬間にティムは口角を更に上げて暁の右肩を掴み、壁の方に押し付けられる。空いた手で顎を掴んで引き寄せられた。不意に起こったので力が入らない。身長差があるので暁が少しかがむようになった。視線を外そうとすれば指に力を込められて強引に視線を合わせられる。自分を見る黒い瞳がまるで、玩具を欲しがるような目で見つめられた。
退かそうと思えば出来るが、相手が女性なだけに気がひけてしまう。仕方なく抵抗せず大人しくした。

ティ「やっと思い出してくれた・・・・今の人格は氷空なの? それとも、まだ暁 直也?」
暁 「・・・・・俺は暁 直也だ。氷空はこの試合で出すわけにはいかない。負担をかけたくないからな」
ティ「氷空に負担をかけたくないのは嘘でしょ・・・・・だって、アンタは私の事を思い出した。ヒロトや風介、晴矢も、お日さま園のみんなもね。氷空の人格を出せばジェネシスと雷門イレブンは確実に混乱する。それを避けるために出さない。違うかしら?」

図星だった。名前を言ったということはすべてのことを思い出したのだ。試合中に氷空の人格を出して<シャインウ゛ィオ>を放った瞬間に氷空の技だと一瞬で見抜かれてエイリア学園側が混乱する。そして、雷門イレブン側に、過去にエイリア学園と接触があったことを知られたら確実にマズイ。ティムは目を細め、暁の耳元に近づき、独り言のようにささやいた。

ティ「いいわ。アンタを潰せって、さっきお父様から命令が来たの。気を付けた方がいいわね」

冷たくささやかれることは残酷なものだ。だが、それはさっき怒鳴った時にもう覚悟していたことだった。あれだけ怒鳴りつけたんだ。確かに潰すよう、命令されるな ——— 。
どうでもいいように頭の隅に置けば、不思議と恐怖がなくなり、むしろ闘志が燃える。

暁 「心配するな。俺はこの試合、氷空を出すつもりは全くないから」
ティ「・・・・・そう」

暁は出来るだけ精一杯に笑った。きっとそれはティムを安心させるための笑顔だろう。ティムは眉間にしわを寄せて不機嫌そうに暁から離れた。外の光がさす試合会場へ一人で向かった。

今の会話を聞いたティムは暁の後ろ姿を確認すると、近くの部屋に行き。誰にも気づかれないように警戒しながら、前もって用意していた折り畳み式の携帯を開いて、ある電話番号を打ち始める。打ち終わって耳元に携帯を当てると5コールくらい鳴ったら電話の相手が出てきた。

「もしもし、正治さん。今すぐ富士山麓まで来てください。雷門とジェネシスが対戦します。詳細はメールで送ります・・・・・・・はい、そうです。彼はやはり氷空の人格を使う気はありません」

その声はさっき暁と会話していた時より、穏やかで優しい雰囲気がした。彼女の目的は一体 ————— ?





試合会場は天井に青白いライトが照らされ、2本のアーチが頭上にある。近未来的な構造したスタジアムだった。
 待ち受けていたのは、グラン率いるジェネシス。陽花戸中で会った時より重い雰囲気がある。

グ「とうとう、来たね。円堂君・・・・俺はこの試合でジェネシスが最強の戦士であることを証明してみせる」
円「最強だけを求めるサッカーをして楽しいか?」
グ「それが父さんの望みだから。俺は父さんのために最強になる。最強でなければならないんだ」
暁「・・・・・・ヒロト」

グランの瞳はまるで、すべてをこの試合にぶつける覚悟を持った瞳だった。口だけではグランが間違っている道を進んでいることに気付いてもらえない。やはり、試合でそのことを証明するしかない。そう、暁と円堂は痛感した。


フォーメーションはF W 豪炎寺、リカ、颯音に土門。M F には鬼道、塔子。D Fは綱海、木暮、暁、円堂。最後にGKは立向居となった。ボールはジェネシスからだ。

颯「これが、最後の戦い・・・・」

そう感じれば今までの戦いや特訓を回想してしまう。長かったような、短かったような日々を鮮明で脳裏に焼き付かれていた。審判がホイッスルをくわえて試合開始を待っている今だって時間がゆっくりと、そして体中の細胞が活性化されて心臓の鼓動が自分に聞こえるほどドキドキしているのを感じる。

グ「ジェネシスと戦うことになって怖いの?」
颯「確かに怖いさ、ここまで来ると」

お互いFWのため距離が近い颯音の異変に気付いたグランは余裕の笑みで話しかけてきた。颯音は口角をゆっくりと上げて笑顔でそれに答えた。

颯「こんなに心臓がバクバクなのに、すごく落ち着いている自分自身が怖いんだ!」

言い切った瞬間にホイッスルが会場に鳴り響く。グランがボールを蹴ると、その合図でみんな一斉に動き始めた。さすがにパス回しが早いジェネシス。ドリブルも速いが、雷門イレブンは食らいつくことが出来てブロックしに行く。
陽花戸中で試合した時は全く見えなかったスピードだが、今でははっきりと見る。それほど雷門イレブンの成長スピードが早いのだ。前回では、一人でドリブルする選手が多いが、厳しいマークを振り切るため、パスを回す回数が増えたのを感じる。

ウルビダがゴール前にいるグランにロングパスをしようとした瞬間、目の前に颯音が立ちふさがった。軽く舌打ちをしたウルビダはすぐに振り切ろうと突っ込む。颯音は落ち着いて、フェイントするために一瞬だけ出来た隙を見逃さなかった。素早く足をすべり込ませて奪い取って前線に走り込んだ。

暁「颯音! リカがノーマーク!!」

DFにいる暁の指示がしっかりと届き、綺麗な弧を描いてリカにセンタリングをする。

颯「浦部! <つうてんかくシュート>だ!!」
リ「言われなくても分かっとるわ!!」

ボールを受け取ったリカはそのまま、力は豪炎寺の必殺シュートよりは衰えるがコントロールとスピードが売りの<つうてんかくシュート>を放った。狙いは左下のコース。一瞬だけ入ったような気がした。が、ネロは顔色一つ変えないで素早く移動し、両手でしっかりと止めた。やはり、威力が足りないようだ。暁は見開いてネロを観察する。
すぐにボールが上げられた。すると、豪炎寺がジャンプしてパスカットする。そして、必殺技を発動させた。

豪 「<爆熱ストーム>!」
ティ「・・・・・・ネロ。それくらいは止められるよね?」
ネ 「<プロキオンネット>!」

氷のように冷たい声がネロを奮い(ふるい)立たせる。すぐに目の前にデルタ状の白いエネルギーネットを展開させ、ネットに掛かった豪炎寺のシュートは威力が相殺し、ネロの片手にボールが収まった。止めた瞬間にネロは不気味に口角を上げる。
 観察した暁は頭の思考をフル回転させ、どうしたらゴールを奪えるのか。考えをまとめ上げる。

暁 「リカだとパワー不足で、ゴールを奪えない。豪炎寺の<爆熱ストーム>でも不可能。だとすれば、同等の威力である颯音の<プラズマアロー>でも不可能だ。だったら ————— 」
ティ「よそ見していいの? 今度はこっちの番よ」

考えていることに夢中で敵の動きを見るのを忘れていた。高速で移動しているティムがゴール前に来ていることにも気づかなかった。ネロはボールを置いて勢いをつけた後、蹴り上げる。そのボールは長い距離で頭上へ上がった。敵の狙いが分かった暁はティムの元に駆け込む、しかし既に遅かった。ボールはティムの真上に来てしまったからだ。

ティ「<アクアセドーナ>」

片手を上に振り上げると水柱が周りに立ち、ティムの頭上にハープを持った青色の髪をした美しい人魚が現れる。ボールが目の前に来ると人魚がハープを鳴らす。次の瞬間、水柱がボールのエネルギーとして吸収され、蹴りを入れれば高速回転しながらゴールに向かった。

立「<ムゲン・ザ・ハンド>!!」

対応するため。究極必殺技を出すが、タイミングが合わなかった。想像以上の威力のシュートで踏み込みきれない。やがて、ゴールラインを越えて自分ごとゴールに押し込まれてしまった。

ティ「この程度でGKを任されているなんて・・・・・かわいそうね」

黒い瞳を持った少女は呆れたように見下していた。その言葉が立向居の胸に突き刺さる。これで、先制点はジェネシスだ。奥歯を噛みしめて暁は再び思考を回転させるが、まだ答えが見つからなかった。
今のシュートはきっとグランの<流星ブレード>と同じくらいの威力。<ムゲン・ザ・ハンド>が更にパワーアップしない限り止められない。今の雷門イレブンではいい勝負は出来るが、勝てない。それだけが答えだった。近くに来ていた颯音が心配そうな目で話しかけてきた。

颯「兄貴、この試合は勝てると思うか?」
暁「俺達自身が進化しない限り、勝てる確率は0%に近い。とだけ言える」
颯「よし、俺はどんどん攻める! そうすれば、少しは進化出来るだろ?」
暁「・・・・・お前、生意気を言うようになったな」

少しイラついたので颯音の額に思い切りデコピンすれば、両手で抑え込みながら、頬を膨らませた颯音がいた。その姿を見た暁は鼻で笑って文句を言う颯音を置いていったらしい。


——————— さてと、早く突破口を見つけ出しますか。


気合をもう一度入れて、自分のポジションについた。果たして、円堂達は進化することができるのか?