二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【イナイレ】〜俺のサッカー〜『第七章・明かされる記憶』 ( No.334 )
- 日時: 2012/05/02 18:19
- 名前: まい (ID: louOLYa3)
〜第23話〜「みんなの声」
グランドの片隅で吹雪は怯えている目をしていた。せっかくグランドに立ったが・・・・必殺技が通用しないことで戦意喪失。自力では復活が不可能だったのだ。そんな吹雪の様子を見て、豪炎寺は息を大きく吸い、眉間にしわを寄せながら怒鳴りつけた。
豪「本気のプレーで失敗するなら良い。だが・・・・やる気のないプレーだけは絶対に許さない! お前には聞こえないのか? あの声が!」
吹雪は、なんのことを言っているのか分からなかった。しかし、目の前にいる豪炎寺の瞳が真っ直ぐ澄んでいて、何かを自分に伝えようとしているのはすごく伝わってきたのだ。
試合再開のホイッスルが鳴り、ジェネシスのスローインから始まる。ボールは M F のコーマがトラップし、空中へ上げる。ティムがヘディングでウルビダへつなげた。そして、グランがゴール前まで走って来た。それに気づいた暁が木暮達に指示を出すが、遅かった。ボールはグランの頭上に来てしまったのだ。
グランは飛び上がって<流星ブレード>を放った。怯えている立向居の目の前に、さっきまで前に出ていた円堂が現れて<メガトンヘッド>を発動する。技と技のエネルギーがぶつかり合う。思い切り踏み込んでしぶとく喰いつく円堂のパワーの方がわずかに上だったようだ。ボールは押し返され、高く弧を描いた。そして、センターライン辺りにいる吹雪の胸へ行った。
——————————————— 吹雪!!!
ボールを受け取った瞬間に不思議と聞こえた。皆の声・・・・皆の込められた想いが聴こえた。
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途端に心の中が澄んでいるように見える。今までは真っ暗で何も見えない空間に一人ぼっちでいたはずなのに。目の前に太陽のような明るい光の柱が差し込んだ。その光の中から手を差し伸べるキャプテンが見えて・・・・その温かい手を握って光の中に吸い込められる。そこには、雷門イレブンの皆が僕の周りで笑って、待ってくれていた。どれだけ、ココが温かい所だろう? 自然と笑いがこぼれる。
その時、誰かに手を引っ張られた。後ろを振り返れば、あの時のままの幼いキミが僕の手を握っていた。目線を合わせるために屈むと、キミは安心したかのように無邪気に微笑んでいた。
『兄貴は一人じゃない! もう、俺がいなくても大丈夫だな・・・・・・』
そう言ったキミは僕に力強く抱き着く。顔は見えないけど、涙を流しているように感じた。
ああ、そうか。答えはもう、知っていたことだったのに・・・・どうして今まで気付かなかったのだろう?
父さんが言っていたことは自分がアツヤになるんじゃない。仲間と一緒に戦うこと・・・・・仲間と一つになることだったんだ・・・・・。
でも、キミがいなかったら、僕は雷門イレブンにも出会えなかったのかもしれない。キミがいなかったら、ここまで来られなかった。キミがいなかったら、今の僕はいないんだ。
強引で生意気で、ちょっと皆に勘違いされやすいけど。それでも、世界で一人だけの僕の弟なんだ。僕はキミを誇りに思えるよ。幼い背中に手を回せば、僕の目から一粒の涙が頬を伝った。
———— 吹雪先輩!!
東條君の声だ。後ろを振り向けば、さっきの太陽のような光よりも目を開けられない程に眩しい光の柱が立っていた。多分、ここを走り抜ければ、現実に戻れる。それと同時に、キミとお別れすることになるんだ。
『ほら、行けよ。仲間が呼んでいるぞ』
「嫌だ。まだ行けないよ。まだ僕はキミに・・・・アツヤにちゃんと僕の気持ちを伝えてないから!」
そうだよ。この時間がキミと過ごせる最後の時なんだ。気持ちを伝えないでどうするの? ここで、何も伝えられないでお別れを迎えるのなら、キミも僕も未練が残るに決まっているじゃないか。
そんなの、おかしいよ ———————— だから、最後に僕からの感謝を込めた言葉を聞いてね。
「さようなら・・・・・・そして、今までありがとう。アツヤ」
不思議と涙は出てこなかった。
本当に、キミという弟がいて僕は幸せだった。キミと過ごした日々は一生忘れないからね・・・・・アツヤ。
その時、アツヤの顔は今までで一番、最高の笑顔がそこにあった・・・・。僕はその顔を脳裏に焼き付けて、ゆっくりと離れた。そして、仲間の声がする方向へ走り込んだ。アツヤに見送られながら。
『さよなら、兄ちゃん・・・・・ありがとう』
最後に聞いたその言葉が僕の心を突いた ————————— 。
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暁「吹雪!!」
暁がもう一度叫んだら、吹雪は瞬時に高く飛ぶ。その姿は、迷いを捨てきった新しい吹雪 士郎がそこにいた。答えを見つけ出した吹雪は肌身離さずつけていたマフラーを投げ捨てる。
着地して立ち上がると、その顔つきは今までと違っていた。たれ目だった目は若干釣り目になり、さらには、髪も逆立っている。まるで、アツヤと吹雪が統合したような容姿になっていたのだ。
チームのみんなも唖然とする中、暁、颯音と豪炎寺だけは薄く笑みを見せる。
暁「そのまま豪炎寺とゴール前まで進んで決めろ! 今のお前なら出来る!!」
颯「一発かまして、先輩の雷門魂をジェネシスに見せ付けてください!!」
二人の声援を受けた吹雪はトップスピードで上がっていく。目の前にディフェンダーがいたが、同じタイミングで上がっていた豪炎寺にパスをつないで、先に進んでいく。さっきまで怯えていた同じ人物とは思えない。
吹「これが、完璧になるための答えだ! <ウルフレジェント>!!」
ドリブルでスピードに乗った吹雪は思い切り踏み込んで、空中で狼の爪で引っ掻かれたように鋭い回転をボールにかける。黄色い満月のようなエネルギーが発生する。雄叫びと同時に背後から狼が現れる。そして赤に変わったエネルギーが矢のように速いシュートがゴールに向かった。
ネロはすぐに<プロキオンネット>を発動するが、力の差は圧倒的だった。いとも簡単にネロの技が破れ、ゴールに突き刺さった。
この瞬間、一人のサッカープレイヤー・・・・吹雪 士郎が復活・・・・いや、覚醒した。
円堂達が駆け寄って喜び合う姿を少し遠くにいる暁は唇を尖らせている。
暁「なんだ、思ったよりも早く復帰したじゃないか。心配したのが無駄だったみたいだな・・・・・まぁ、俺にはあんまり関係ないけどよ」
そう言いつつ、暁は一人、瞳子監督の元へ走って行った。
その頃、フィールドを見渡せるほどの高さにあり、120度くらいガラス張りにされている白い、楕(だ)円型の特別ルーム。そこに星二郎は肘掛で革張りのオフィスチェアに座って茶を啜りながら試合見物していた。隣には研崎が立っていた。
目の前で起こったことが信じられなくて研崎は焦っていた。一方、星二郎は別に焦っておらず、落ち着いていた。
研「まさか、このような展開になるとは・・・・」
星「ジェミニやイプシロンを倒した雷門です。考えられないことではありません・・・・・ですが、これは単なる偶然。二度と起こりません」
星二郎の視線の先には瞳子監督と暁が話合っている様子だった。薄く開いている瞳は何を思っているのだろうか?
ベンチに行った暁は身振りをつけながら思いついた作戦を瞳子監督だけに伝えていた。話に区切りがついたところで監督は少し間をあけて、人さし指を口元にもっていく。
瞳「それで、うまくいくのかしら?」
暁「さぁ? 俺はただ、勝つために考えた結果・・・・仕掛けるなら今しかないと判断しただけです。あの案は賛成ですか?」
瞳「・・・・・分かった。貴方を信じてみましょう」
暁「ありがとうございます」
愛想笑いを浮かべて暁はグランドに戻った。瞳子はその背中を心配そうに見つめていた。
ジェネシスからのボールで試合再開する。すると、ジェネシスは速攻を仕掛けてきた。グランがスピードに乗ったまま突き進んでくる。あっという間にゴール前まで来てしまい、飛び上がる。
グ「<流星ブレード>!」
流れ星のように流れる眩い強力なエネルギーがゴールに向かう。立向居は身震いが、先ほどの吹雪のプレーを見たら、忘れかけていた本来自分が持っていたものを思い出した。 G K はゴールを守る重要な役割、ゴールを決められてはいけないプレッシャーは半端じゃない。その心に打ち勝つには大切な何かが必要だった。その大切な何かとは・・・・諦めない心だ。
立「俺も・・・・俺も雷門の一員なんだ! <ムゲン・ザ・ハンド>!」
立向居の<ムゲン・ザ・ハンド>に変化が起こった。今までは4本の腕が現れたのだが、四方八方に分かれる腕が6本に増えたのだ。<流星ブレード>の力を凝縮し、力をねじ込める。やがて、勢いが止まり、立向居の腕に収まった。
暁「究極奥義に完成なし。その真意は必殺技を繰り出すプレーヤーの諦めない心がある限り、進化し続けるってことだったようだな。だったら俺も・・・・・手品でも魅せるか」
敵が唖然としている間に手を挙げて合図を送る暁に立向居はパスを送る。反撃と言う劇だろうか。暁は今までにないほどのスピードを出してどんどんジェネシス側に攻め上がっていた。
その頃、星二郎がいる部屋では、研崎の携帯電話が鳴る。研崎はその音に気付いて少し遠くに行って電話を取った。電話の相手は機械のように冷たくて低い男の声だ。
『研崎様、 エリア D に侵入者です。どうなされますか?』
その男は更なる混乱を招く警告が告げた。