二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【イナイレ】〜俺のサッカー〜『第七章・明かされる記憶』 ( No.337 )
日時: 2012/07/08 20:29
名前: まい (ID: .057oP6P)

〜第25話〜「大胆に」

円堂の叫びは会場に虚しく響き渡った。しばらくすると、円堂の目の前に長方形型の大きな画面が現れた。そこに映し出されたのは星二郎がいた。星二郎は円堂に言葉の意味を問いかける。

星『それは、どういう意味です?』
円「ヒロト達は道具じゃない!! ヒロトはお前のせいで、間違ったチカラをつけてしまったんだ!」
星『はて? 私はただエイリア石と言う偉大なるチカラを彼らに与えただけです。それのどこが間違いですか?』
円「チカラとは、皆が努力して身に着けるものなんだ!」

この時、円堂の頭は怒りで埋め尽くされていた —————— 許さない。
そのたった一つの想いが大きい感情がどんどん膨れていく。今までためてあった心のダムが溢れだし始めるのだ。その様子を見た星二郎は微笑して、更に挑発し始めた。

星『もしかして、忘れたのですか? ・・・・・貴方達もエイリア石でパワーアップしたジェミニやイプシロンと戦って強くなったということを・・・・エイリア石を利用したと言う意味ではジェネシスも雷門も同じなのです。
  雷門もすっかりメンバーも変わり、強くなりましたね。それは、道具を入れ替えたからこそ。ここまで強くなったということです。エイリア学園と同じく、弱い者を切り捨て、強き者を入れ替えることで ——————— ここまで来たのでしょう』

わざとらしく『弱い』と強調するため最後の方に間をおいて話し出す。普段の彼なら、腹を立てたとしても、それをあまり表に出さないだろう。しかし、この時は一気に血が頭に上りだして、冷静にいられなかった。

円「ふざけるな!!」
颯「きゃ、キャプテン! 少しは冷静になって! あんな挑発に乗ったら、相手の思うつぼだ!!」
円「離せ! 東條! 風丸達は弱くないんだよ!! あんな奴にバカにされて俺は!!」

円堂を止めようとした颯音の手はものすごい力で押し返された。バランスを崩して暁は尻餅をつく。ダメだ・・・・今の円堂は冷静になれない。とてもじゃないが、あれを今すぐ正気に戻すのは難しすぎる。普段の円堂とは違い、あの穏やかな面影はない。颯音は今の円堂がとても怖く感じて、ガタガタと体を震わせる。

星『いいえ、弱いからですよ・・・・弱いから怪我をする・・・・弱いからチームを去る。実力がないから脱落していったのです。彼らは貴方達にとって運用の存在』
円「違う・・・・・違う! あいつらは弱くない!! 俺が証明してやる!!」

星二郎は怪しく笑みを浮かべて、出されていた画面を消える。ボールを持っているのはグランだ。円堂はただ、怒り任せに相手へ突っ込んで行く。だが、そんながむしゃらに一人でボールを奪うのはジェネシス相手では通じない。グランは呆れたようにため息を吐いた。

グ「今のキミじゃあ、俺達には敵わないよ・・・・」

そう言うと円堂の頭上を越え、ゴール前へ一直線に走り出した。それを合図にウルビダとティムも動き出した。今まで戦ってきたエイリア学園は必ず、一つは合体技があった・・・・そのことに立向居が気付いた時には三人は同時に飛んでいた。

全く同じタイミングで飛んだ三人は一斉にバク中し、勢いづいた片足を同時に蹴り上げた。その瞬間、空間を切るような鋭い光のエネルギーが交差し、大地を切り裂く強力な力がボールに加えられる。

「<スーパーノウ゛ァ>!!」

そう叫んだ直後、目にもとまらぬ速さで立向居の目の前まで来る。踏ん張って止めようとしたが、技の威力が強すぎて、自分の体ごとゴールへ押し込められた。

これで点数は1−2 あんなに苦労して同点になったのに、逆転されてしまったのだ。立向居は直接受け止めた時の技の威力があり過ぎて、少し手がしびれてしまった。電光掲示板を見る暁は苛立っている。

暁「あぁ〜・・・・最高にムカつく」

そう呟いた直後に、前半終了のホイッスルが会場に鳴り響く。


ハーフタイムになり、各自水分補給などをしている。円堂は首にタオルをかけて、不機嫌そうにグランドに座っていた。

瞳「・・・・円堂君」

 今の彼は怒りの感情で頭が埋め尽くされていて、試合に集中していないのが前半で見受けられた。このままでは、確実に負けてしまう。そう思い、瞳子監督が動き出した・・・・・が、それを暁が押し退けて円堂の元へズカズカと歩いていった。

暁「おい・・・・円堂・・・・」

その声は恐ろしく低くて、周りで聞いた味方さえも鳥肌が立った。そして、よく見ると彼の手には普通、この時間には選手は欠かさず飲む自分用のドリンクがあった。暁はそのドリンクのふたを開けた。その中にはマネージャーがキンキンに冷やしていたスポーツドリンク、それもかなりの量が残っていた。

事も有ろうか、それを円堂の頭に向けて逆さまにする。重力に従い、バチャッと派手な音を立てて液体が落ち、すべて円堂の全身がびしょびしょに濡れてしまった。それを遠くで見ていた味方は血の気がサァーと引くような凍りつく感覚に陥る。わなわなと肩を震わせ、堪忍袋の緒が切れた円堂は掴みかかった。

円「なにすんだよ!!?」

暁「おーぉ 元気だな。さすが怒っているだけいつもよりも声が大きい。頭に血が上っている奴には冷たい飲み物を被れば、話を聞くことができるはずだ。本当は救急箱で殴って気絶させてやりたいところだが、自重して飲み物を掛けただけにした俺に感謝してほしい。あと、なんで注意したのにバカみたいに突っ走るのか訳分からん。そうなるとバカ以外になんもないな。敵の思惑通りになると分かってないからそうなるんだろ。おかげで作戦も実行に移せなかったじゃないか、この状況をどうするんだよ? 俺がせっかく考えた作戦も監督に伝えるのにメチャクチャ緊張したのに、俺の緊張感を返せ。 ついでにどうして颯音を突き飛ばすんだよ? 怪我でもさせたら、兄としてお前でも許せれないことだってあるからな。しっかりと覚えとけ。ここまで聞いてなにか問題でもあるか?」

(いや、色々と問題があるだろ。兄貴・・・・ん? 俺の心配してくれたの・・・か?)

そこには、目の輝きが全くないに等しい瞳で円堂を軽蔑し、マシンガンの如く話し続ける暁がいた。文句を言おうとしている円堂も口を噤(つぐ)んでしまうほどの威圧感があったのだ。これまでに何度か暁が怒っている姿を確認したことはあるが、弟である颯音も心の声を黙秘する程、ここまで冷たい怒り方は見たことない(途中、弟を心配した発言をしたような気がするが)正確には怒りを通り越して呆れの気持ちが爆発したと言うのが正しいかもしれない・・・・。

暁「まず、何を証明するために戦っているのか分かっているか?」
円「風丸達をバカしたアイツに弱くないと証明を ————— 」
暁「一切周りを見ずに一人で突っ走った奴が風丸達は弱くないことを証明する? ・・・・笑わせるなよ」

そう言って暁は円堂の胸倉を掴んで自分の方へ引き寄せた。その眼を見た円堂は身震いしてしまう。暁は円堂の様子など気にせず、淡々と続ける。

暁「大体、ボールに怒りをぶつけてプレーするのが間違いだ。それじゃあ、簡単に次の動きを読まれて、相手に抜かれてしまう。それはチームにとって致命的な弱点にもつながることくらいお前は知っていただろ?」

円「そ、それは・・・・」
暁「あいつらが強いことを知っている仲間がココにいるのを忘れるな。キャプテンのお前だけが怒っていない・・・・あと、この試合はお前だけの戦いじゃない。俺達、雷門で戦っているんだ。それを忘れてどうする?」

この言葉でなぜ今まで気が付かなかったのかを痛感させられた。周りを見れば、皆は真っ直ぐに澄んだ瞳で自分を見つめていた。冷静に考えれば、自分でもバカだな・・・・とも感じられた。円堂は自分の頬を思い切り叩いた。

円「ごめん・・・・俺、大切なことを忘れていた」

その映る瞳はもう、迷いなどなかった。それを確信すると、鬼道達は自然と笑顔がこぼれる。強めに背中を小突くと暁は大きく息を吸って、皆を集める。

暁「みんな、円堂も落ち着いたところだし、そろそろ反撃をしたいと思う」
鬼「何か手はあるのか? 知っての通り、これまでの敵よりスピードは全く違う。ティムとグランにボールを集めてシュートを決めるのがあいつらの戦法だ」
暁「だが、そんなの分かりきったことだ。そこで、立向居。お前がアイツらのシュートを止めたら、速攻で一気にたたみかける」

立「そ、それって・・・・俺がシュートを止める前提で話していますよね?」
暁「そんなの当たり前だろ。何を言っているんだ?」
立「で、でも、ジェネシス相手にその作戦で本当に行けますか?」
暁「さぁ? 多分、なんとかなる」
颯「へ!? ちょっと待って!!」

いつもなら、色々と理論とかつけてやる暁がテヘッとわざとらしく笑っているが、その笑いには絶対に裏があると読めるメンバーは身震いを覚える。絶えず、後ろにいた颯音は人混みを手でかき分けて暁の腕を掴んだ。

颯「兄貴、そんな大胆にいっていいのか? それに、兄貴がこんな作戦にするなんて見たことない! 頭でも打ったか?」

暁「俺は至って、大真面目だ。この作戦にした理由は・・・・長い付き合いの中、大胆な作戦の方がお前達に合っていると結論がついたからだ。お前達に細かいことを言う必要はない・・・・サッカーは進化し続けられる。俺をその事に気が付かせたのはお前達だ。この際、雷門流の全員サッカーで勝利する。そうすれば、グランや大仏野郎にも間違った考えを改めさせられるはずだ!」


————————— それに、お前達が進化する成長ぶりは司令塔である俺でも予測不可能に近いし


と、続けたかったがそれを言ったら綱海辺りが調子に乗る確率があるので。最後の本音だけは言葉に出さなかった。しかし、それを聞いた雷門イレブンはそれに同意し、声を上げた。それは、勢いづけた本人も驚いてしまう程の士気だった。

円「全員! この作戦にしていいか? 俺は賛成! ゴチャゴチャ考えるより行動するのが大切だからな!!」
塔「あたしも賛成! 雷門のサッカーでジェネシスの奴らを倒そうぜ!」
颯「打倒ジェネシス! こういう展開、大好きだ!! 燃えてきたぜ!」

円堂と塔子それに颯音と次々と賛成し、いつしか全員頷いていた。本当はこの作戦にするか迷っていた。苦しい展開だが、戦力的に倒そうと思えば、別の作戦も何通りも考えていた。だけど、星二郎の様子を見たらどうしても放っとけなかった。あの夢で見た星二郎の姿じゃないからだ。きっと戦略だけだと星二郎に間違った考えだと伝えられないだろう。だからこの作戦にした。ボールを夢中に追いかけていたあの頃と同じやり方で ————


———— とは言っても、まさかここまでやる気になるとは・・・・・やっぱり、このグループはサッカーバカの集まりだなこりゃ


心の中で暁は微笑した。