二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ぼかろ。 ( No.8 )
日時: 2011/05/23 19:27
名前: リリ ◆lsaxZALrTI (ID: zQJPnDCy)

円尾坂の仕立屋


円尾坂の片隅で、須藤加代という若い女性が仕立屋を営んでおりました。
桃色の髪をした、気立てがよく、腕も良いので近所ではなかなか評判の仕立屋でした。
だけど、そんな彼女にも悩み事が一つ、あります。
愛する旦那が、酷い浮気性なのです。
「私という妻がいながら、家に帰って来ないなんて・・」
だけど、加代は仕事を一切怠りませんでした。
加代の商売道具は今は亡き母親がくれた裁縫鋏で、研げば研ぐほど、よく切れる良い鋏でした。

翌朝、加代は買い物をするために大通りへでかけました。
「ああ、今日も平和ねえ・・」
だけど、次の瞬間、加代のささやかな幸福感は一瞬にして吹き飛びました。
「あのひと・・・・」
青い髪のあの男は、紛れもなく加代の愛する旦那です。でも、その隣には見知らぬ茶色い髪の女がいました。
赤い着物がよく似合う、美しい女性は旦那と腕を組んで仲睦まじく微笑み合っていました。
「そんな・・・」
加代は気がつくと、二人に背を向けて走っていました。
「最近帰ってこない理由はこれだったのね・・・・」
加代はしばらく泣き続けました。
だけど、仕事は頑張らなければなりません。加代は、頬を涙で濡らしながら今日も鋏を片手に着物の縫い直しに精を出します。

その翌朝、加代は着物の生地や糸を買うためにでかけました。
けれど、町にはなんだか不穏な空気が流れています。
「・・さんの奥さんが・・ですって・・」
「娘さん達も悲しむだろうに・・」
「本当ねえ・・」
何か、事件が起こったようです。
「何があったのかしら・・」
でも、加代はあまり気に止めず帰路につきました。
すると、今日もあの人がいました。
なんだか落ち込んでいるようで、加代はすぐ駆け寄ろうとしました。
だけど、先に違う女性が旦那に寄り添いました。
美しい髪の、昨日の女性より若い娘です。
(あの娘、緑の帯がとても似合うわ・・嗚呼、貴方はそんな娘が好みなのね・・・)
だけど、仕事は頑張らなければなりません。加代は、赤く眼を腫らしながら今日も帯の修繕に精をだします。

その次の昼、加代はかんざしを買いに出かけました。やはり、仕事が忙しいとはいえ女性ですから、美しくいたいと思うのものです。
加代は、町がいつもより騒がしい事に気が付きました。
「・・・は・・の・娘さんが・・たって・・」
「まあ・・・も・・を失って、・・と・・さんも悲しむわねえ」
また、事件が起こったらしいのです。
西洋の方で話題になっている「切り裂きジャック」のように、無差別に人を殺す輩が出たのでしょうか。
「あら・・・?」
かんざし屋に、またあの人がいました。昨日よりも元気が無くなっているようで、こんどこそ声をかけようと加代は早足で歩きました。
「え・・?あの娘は、だれ・・?」
蜜柑色の髪の少女が、男に黄色いかんざしを頭に挿して無邪気な笑みを浮かべています。
「確か・・あの人に妹はいなかったはずよ・・・・あの人ったら、年端もいかない女の子に手をだすなんて、本当に見境がないのね」
今度は悲しみよりも怒りがこみ上げて、加代は二人に目もくれずに帰りました。
今夜も、加代は仕事に励みます。
「あら、この鋏、こんな変な色してたかしら?」

「はあ・・ようやく、仕事も一段落したわ。貴方が会いに来てくれないのなら、私から会いにいくわ・・ほら、貴方の好きな赤い着物に、緑の帯、黄色いかんざしを髪に挿して、あなた好みの女になったのよ。」
ド ウ ? ワ タ シ キ レ イ デ シ ョ ?

今日は、街中が大騒ぎです。
「大変よ!今度は、旦那さんが殺されたんですって」
「これで、家族四人全員殺されちゃったのよ・・」
「美人家族って、評判だったのにねぇ・・」
町は、この話題で持ちきりでした。家族全員が殺されてしまったのですから、次はどこの家族か・・なんて、不吉な予想をし始める人も出ています。
「それにしても、酷い人ねえ。『初めまして、こんにちは』だなんて。
まるで他人みたいじゃない。まるで・・他人みたいじゃあない・・でも、仕事は頑張らなきゃね。鋏、こんなに真っ赤になっちゃったけど・・・錆びたりしてない限り、使えるわよね」

さあ・・仕立てを、始めなくっちゃ