二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 秘蜜〜黒の誓い〜 ≪ボカロ曲小説化≫ ( No.13 )
日時: 2011/03/25 14:20
名前: 夏茱萸 (ID: wJNgr93.)

第二章〜禁断の恋〜前編


1〜2分ほど走り続けているので、リアンの方はもうクタクタだった。
もう虫の息というより微生物の息という方が正しいのかもしれない。目を白黒させながらひたすら走った先に、一軒のオアシス…ではなくパン屋が見えてきた。

「ここよ!…大丈夫?」

「はぁ゛ッ…だ、大丈夫ッ」

顔を覗き込むミリアムは、一つも息を乱していない。
同じ距離を走っても天使と人間じゃ、全く違う。普段、のんびりするか悪戯をするかのどっちかしかしないリアンはとくに差があるようで…

「さぁ早くお店に入って!傷の手当をしなくちゃ。…あら?背中の羽根飾りはどうしたの?」

「え?あぁ、ポケットにしまったんだ。邪魔になるでしょ?」

「あんな大きな飾りをどうやって?…まぁとにかく入ってちょうだい」

木造りの扉をミリアムはそっと開ける。中からふわんとしたパンのいい香りが漂ってきて、リアンの鼻をくすぐった。

いつかの情報収集をする際に、パン屋さんにこっそり忍び込んだことがあったっけ…

そんなことを考えているとミリアムが背中をぐいっと押してきた。

「突っ立ってないでお入りになって?」

ミリアムが扉を閉めたのと同時に若い女性の声が店内へ響いた。

「いらっしゃい!…あら、ミリアムじゃない。さっき帰ったと思ったら…なにか忘れ物かしら?」

桃色の髪をなびかせながら、女性はいたずらっぽい顔で微笑んだ。

「違うのルミカさん。お店の近くにこの子…リアンが倒れてたの。それに傷だらけで…手当てをしてあげるために連れてきたんだけど、いいかな?」

ルミカはリアンの全身を見回した。そして静かに笑うと、リアンに手を差し出した。

「私の名はルミカ・マグリットよ、よろしく。リアン…ちゃん?くん?」

「もう、ルミカさんったら〜!からかわないであげて、リアンは女の子よ?ごめんね、リアン」

「あ、いや…どっちでも構わないから…よろしくお願いします」

性別のない天使のリアンには、あまり触れて欲しくない話題だった。もしかすると、そのことでミリアムにバレてしまうんじゃないかと思って…

バレてしまったら最後、天界に縛られ、二度と人間界へ行き来できなくなってしまう。それが天使たちの決めたルールなのだ。
そうなるともうミリアムに会えなくなってしまう。どうしてだか分からないが、ミリアムに会えなくなるのはとても苦しい。今以上に…

「どうかしたの?リアンちゃん」

「え?な、なんでもないです!」

「そう、じゃあさっさと手当てしちゃいましょう」

不思議そうな顔をするルミカをなんとか誤魔化すと、彼女は興味のなさそうな顔をして救急箱を奥の棚から出してきた。

「ミリアム〜!リアンちゃんの手当てをお願い!」

「は〜いっ、今行きます!」

ミリアムはルミカに返事をすると、小走りで奥の部屋から出てきて何やら液体の様なものを皿へ注いでリアンの前へ置いた。

「これは?」

「これは?って…スープよ?今食べられる?」

「スープ…」

人間界の食物だ。それはリアンが決して口にしてはならない物だった。天界の生き物であるリアンが人間界の食物を口にしてしまうと、天界に縛られるどころの罰じゃない。『堕天使』という、天使にとって最悪の状態になってしまうのだ。


(でも僕は、彼女のために堕天使になっても構わないんだけどなぁ)


「食べないの?冷めてしまうわ」

傷口へ包帯を巻く手を止めずにミリアムが聞いてきた。

「な、なんだか食欲がなくって…」

「そう、残念ね…とってもおいしいのに」

茶化しながらルミカが言う。この女性は、なんだか普通の人間とは違うような気がする…リアンはルミカを疑っていた。リアンの容姿は明らかに女の子に近いのに、ちゃん付けか、くん付けかを聞いてきた。これはからかっていたわけではない、知っていたのだ。おそらく…

「さ、終わったよ!どうする?もう遅いし、うちに泊まっていく?」

「ミリアムの家へ?お店に泊まらせなさいよ。大歓迎だから、ゆっくり休むといいわ」

「あ、ありがとうございます、ルミカさん」

「どうも」

「私のいつも使っている部屋を使う?一緒になるけど」

「僕はどこでも構わない。…でももう…」

天界に帰らなくては…

                        〜後編へ続く〜