二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 秘蜜〜黒の誓い〜 ≪ボカロ曲小説化≫ ( No.18 )
- 日時: 2011/03/27 21:29
- 名前: 夏茱萸 (ID: wJNgr93.)
第三章〜禁断の想い〜
翌日———
一人の男がルミカの店を訪れてきた。
「いらっしゃい!…ガノムかよ。何の用?またミリアムに会いに来たのかしら?」
「(ガノムかよって…!)…あぁ、僕の大事なフィアンセだからね。ミリアムはどこにいる?」
ガノムと呼ばれたこの男。
紫色の長髪を頭の上の方でまとめている。顔立ちは意外と整っており、女の様な外見だ。
そして、ミリアムの婚約者————
「ミリアムなら奥の部屋で寝てる」
「じゃ、起こしてきてくれ」
「OK。リア〜ン!!ミリアムを起こしてちょうだいッ!」
「リアン?新入りか?」
「ま、そんなとこよ」
ミリアムの部屋で寝ていたリアンは、ルミカの大声で飛び起きた。
そして素早くルミカの用意してくれていた人間用の服に着替えようと腕を通す。
…が。
大きな羽根が邪魔をして、服を着ることができない。
「もう!どうしていっつもこうなるんだよ〜!!…いいこと思いついたかも…!」
リアンの頭にポッと浮かんできたその考えは、天界でよくやっていた悪戯と同じ方法だった。
「リア〜ンッ!!!いつまで寝てんのよ!起きろッ」
「今行きますよ〜だ!」
お店の表に出てきたリアンを見て、ルミカとガノムは目を丸くした。
「おはようございます!ルミカさん、紫さn…?誰?」
「失礼な子だな、今紫さんと言おうとしたろう?」
ガノムの言葉を無視してルミカはリアンに言う。
「どうしたのその格好。私が用意してた服はどこいったの?」
「切ったんです」
「????」
リアンの着ている服は、ルミカが朝用意してくれていたものとはかなり違う形をしていた。短パンの方はどうにもなっていないが、問題は上の服にあった。
時季が時季だというのにリアンの服はへそ出し状態になっている。天使の羽根がちゃんと出るように背中の方にも切込みが入れてあった。
ルミカはリアンの発言に驚いていたが、すぐに何かを思い出したように落ち着いた。そして少し怒ったような顔を作り、リアンに言った。
「ミリアムは?お客さんがミリアムを待っているの。早く起こしてきて」
「ふへ?ほひゃふほはほふほほほは?(お客とは僕のことか?)」
「何勝手に店のパン食ってんのよ!!」
茄子の焼き立てパンを頬張るガノムをルミカは思いっきり殴る。
その様子を笑いながら見たリアンは、ミリアムを起こすべくルミカの寝室へと歩いていった。
———昨日の今日でどういった顔をして会えばいいんだ…
気まずさを隠し切れずに寝室の扉をノックする。
すると中から弱々しいミリアムの声が聞こえてきた。
「ルミカ?」
「…リアンだよ」
「…入って」
思わぬ答えに内心で驚きつつも、リアンはそっと扉を開いた。
扉の先には、きっちりと髪をツインテールに結い、用意された服をきちんと着こなしたミリアムの姿があった。
おそらくリアンが起きるずっと前から、ミリアムは起きていたのだろう。
「…何か用事?リアン」
「えと、ミリアムにお客さんが…」
リアン、と自分の名を呼んでくれたことに、リアンはとても嬉しかった。たったそれだけのことだけれど、本当に嬉しい…
けれどその喜びにミリアムが現実を衝きつけてくる。
「じゃあ行くね。お客さん、きっと私の婚約者だから…」
ミリアムはリアンと目を合わせようともしない。
ましてや婚約者の部分を強調するように言われたのだ。リアンの心はもうボロボロだった…
けれど…
「ミリアム待って!!」
「!!!??」
扉を開けかけたミリアムの手を強く掴むと、リアンはミリアムと無理矢理目線を合わせ、言った。
「今日の午後、日が沈む時に、ラヴィアン教会の鐘の下で待ってる。お願い、絶対に来て」
それだけを言い終えるとリアンは掴んでいたミリアムの手を離し、哀しげに微笑んだ。
「…待ってるから…」
「ッ!」
静かにリアンは部屋から出て行く。
ミリアムはそれを黙って見つめていた。ラヴィアン教会は、ガノムとミリアムが誓い合うはずの場所だ。
(リアンは、知ってたの———?)
ミリアムはリアンが出て行った後も、動けないでいた。店の表でルミカの怒った声が聞こえてくる。ガノムまでがとばっちりを受けているようだ。これ以上は可哀想なので、怒られている二人のためにミリアムは寝室から出て行った。
「ごめんなさい、ルミカ、ガノム、リアン」
「まったく、いっつも早く起きてくるのに…どうかした?」
「心配したぞ、ミリアム」
「うん、ちょっと色々あってね…」
心配そうなガノムとルミカ。それに対してリアンは微笑んでいた。
不思議そうに見ている三人に、リアンはわけを静かに話す。
「…ミリアムがさっき謝ったでしょ?その中に、僕の名前も入ってたから…」
「不思議な子ね、当たり前でしょ?」
ルミカの言うことはもっともだ。
だけど、どうしても嬉しさを隠すことができない。ミリアムだけはその訳を知っていた。昨日のことがあったせいだ。
「そうそう。微笑ましいところ悪いのだが、ミリアムに話があったのを思い出したよ」
ガノムが今思い出したという顔をして手をポンと叩く。
「結婚式の日取りが決まった。今日から丁度一週間後にラヴィアン教会で式を挙げる。ドレスは明日の午前中にでも届けよう」
その言葉を聞き、リアンはことの全てを悟った。
この男がミリアムの婚約者
この男がミリアムを奪った
こいつさえいなければ
僕はミリアムに拒否されることはなかった
…違う
この男のせいじゃない
悪いのは僕
そう、僕のこの容姿のせい
だからミリアムに拒まれた
そうか…外見を変えてしまえばいい
そのためにはどうすれば…
そうだ、僕が…
『堕天使』に なればいい……—————