二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 秘蜜〜黒の誓い〜 ≪ボカロ曲小説化≫ ( No.24 )
- 日時: 2011/03/27 20:18
- 名前: 夏茱萸 (ID: wJNgr93.)
第四章〜禁断の伝え〜
ミリアムは未だに迷っていた。
リアンに言われたあの誓いの場に行くことを…
「どうした?何か考え事でもしているのか?」
「え?べ、別になんでも…」
たった今リアンの事を考えていたので、ガノムに声をかけられたミリアムは少し戸惑ってしまう。
「そうか、ならいいのだが…あ、それより!」
ガノムはいきなり大声を出すと、外に待機していた召使(ボディガード?)に何やら指示を出す。
一分ほどすると召使が大きな人型を持ってルミカの店に入ってきた。
———それは、美しい漆黒のドレスだった。
「ちょっとガノム!そんな大きいもの式場に運びなさいよ!うちのお店に運ぶなんて…もう!」
「まぁまぁ落ち着けルミカ。式場は今日別のカップルが使っておるのだ。それより、綺麗なウェディングドレスだろう?明日届く予定だったのだが、思ったより早く仕立てあがったらしい。着てみたらどうだ?」
叫ぶルミカを宥めると、ガノムはミリアムに聞いてみる。
ミリアムはコクリと小さく頷くと、ドレスを持って部屋へ入っていった。
もうすぐリアンと約束をした夕暮れになる。
今から教会へ向かえば間に合うだろう。だが、やはりミリアムは戸惑ってしまう。
リアンはとっくにルミカの店を出て、ラヴィアン教会へ行っている。
きっともう教会へ到着し、一時間ほど待っているだろう。たった今夫婦となったカップルの晴れ姿を見送りながら…———
途端、リアンを突き飛ばした日の出来事が頭を過ぎる。
リアンの自嘲じみた笑い顔、寂しそうに微笑む顔——
———…行かなきゃ!
ミリアムは漆黒のドレスを傍らへたたんで置くと、そのままリアンの待っている教会へと行くことに決めた。
「ルミカ、ガノム!少し出てくるから!」
いきなり部屋から飛び出てきたミリアムに二人は驚く。…だが、ガノムは驚きっぱなしだが、ルミカのほうはすぐに平静を取り戻しミリアムに言った。
「…リアンちゃんね?」
「…はい。行って来ます」
「えぇ、いってらっしゃい。夕暮れだから気をつけてね」
それだけを言うとルミカは店の奥へ消えていってしまった。
おろおろしながらもガノムはミリアムに
「い、いってらっしゃい…」
とだけ告げて、ルミカを追いかけて店の奥に入っていった。
さぁ、早く行くのよミリアム!!!
そう自分に言い聞かせるとミリアムは勢い良く店のドアを開け、走りながらリアンがまだあの場所で待っていることを祈った。
もうとっくに日は沈んでいる。
リアンはもう帰っただろうか…でも帰るといってもどこへ?
ルミカのお店に帰ってくるのであれば、ミリアムと必ずすれ違う。教会からお店までは一本道なのだから。
けれど今のところリアンどころか人っ子一人すれ違っていない。暗くなり、街灯もないので恐ろしいほど辺りは静まり、闇に包まれていた。
暫く走って行くと教会の象徴ともいえる大きな鐘が見えてきた。ここまでくればもうそんなに遠くはない。
「ッはぁ…!はッ!つ、着いた…!リアン!!」
教会に着くと同時にリアンの名を大声で叫ぶ。だが返ってくるのはこうもりの飛び立つ不気味な音と、自分の乱れた息だけだった。
「…リアン…」
小さく探し人の名を呟いたミリアムの頭に、一枚の白く美しい羽根が木の上から落ちてきた。驚いて見上げると、そこには高い木の上に腰掛けたリアンの姿があった。リアンはミリアムと出逢った時と同じ、あの白く綺麗な羽根飾りをつけていた。正確に言えば本物の天使の羽根なのだが。
「遅くなってごめんなさい、リアン」
「ううん。僕は、ミリアムがいくら遅れて来ても構わなかった…来るまで待つつもりだったから…」
「そんな…」
「ミリアムが、この場に来てくれたこと。それは、僕にとって最高に嬉しいことなんだ。ね?分かってくれる?」
泣きそうな表情のミリアムを見つめると、リアンは木から華麗に飛び降りた。背中の羽根で数回羽ばたき、地面に着地した後にリアンはミリアムに告げる。
「…僕ね、本当は人間じゃないんだ。この羽根だって飾りじゃない。僕、本当は…『天使』っていう天界の生き物なんだよ…」
瞬間、驚いた顔をするミリアムの手をそっと自身の手で包み込むと、リアンは静かに微笑んだ。
「またいつか、この場所で会おう?いつか、絶対に…」
「リアン?待って!どういうことなの?ねぇリアン!!」
「じゃあ、また会える日を楽しみにしてるね。ミリアム…」
次第に薄くなってゆくリアンの身体を捕まえようとミリアムは手を伸ばす。だがそれは意味のない行為だった。ミリアムの手はリアンの身体を突きぬけ、空中を彷徨う。
「リアン!どこへ行くの!?待ってリアン!!」
「…どこへ行くのかは…僕にも分からない…でも必ずキミに会いに来るよ。それまで…———」
その続きを言うことなくリアンの身体は透明となり、消え去ってしまった。
ミリアムはその後途方に暮れ、気づくとルミカの店へ帰ってきていた。どうやって帰ってきたのかも覚えていない。ガノムはもうすでに帰ったらしい。心配そうに迎えるルミカに、もう休むと告げてミリアムは部屋へ入っていった。
ルミカはあることを思い出したらしく、ミリアムを暫くそっとしておくことにした。
そしてルミカはミリアムの眠った後、ある場所へと向かった。
そう、リアンの今いるあの場所へと……—————