二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 秘蜜〜黒の誓い〜 ≪ボカロ曲小説化≫ ( No.27 )
- 日時: 2011/03/28 22:04
- 名前: 夏茱萸 (ID: wJNgr93.)
第五章〜禁断の果実〜
「やっぱりここにいた」
「!?」
暗闇の森の奥、ルミカはある人物に話しかけた。
彼女は…否、彼はルミカの不意の登場に案の定とても驚いた顔をする。
「ルミカさん…どうしてここが?」
「別に?ただ、ミリアムの今日の様子を見てピンときただけよ」
「…落ち込んでましたか?ミリアムは…」
彼は困ったような泣きそうな顔をしてルミカに訊ねる。ルミカも少し顔を歪め、答えた。
「そうね、落ち込んでいたというより、心此処に在らずといった感じかしらね」
「そうですか…」
ルミカの返答を聞き、更に表情を暗くする彼は、手に一つの小さな果実を持っていた。よくみると彼の周りにはたくさんの果実の実がなった木々がある。それを見てルミカは苦笑いを浮かべ、少年に問う。
「最初からそのつもりで?…リアンちゃん…」
「…彼女に…ミリアムに会ったあの日から、決めたことです」
そう、彼の正体はあの美しい天使、『リアン』だった。
リアンはこの国中で恐れられている『禁断の果実』を口にしてしまった。天使という自分を捨て、『堕天使』となってしまったのだ…
『禁断の果実』とは、その果実一つ一つに悪魔が宿っており、それを口にした者は願いを一つ叶えてもらえる。だが代わりに、永遠に悪魔にとりつかれてしまうという恐ろしい果実なのだ。
「まさか堕天使になりたいなんてことを願うなんて…馬鹿なことをしたものね、リアンちゃんも」
「もう僕はリアンじゃありません。これからは『レオン』と名乗ります。…ミリアムには内緒にしていてくださいね」
「もちろん!私がわざわざそんな面倒なことするわけないでしょ?」
「フフっ、そうですね」
悲しみの帯びた目で微笑んだ後、レオンはルミカに近づき別れを告げた。
「きっと…ルミカさんに会うことは、ないんでしょうね…二日間、本当にありがとうございました」
「私はなにも礼を言われるようなことなんてしてないわよ…じゃあね、お元気で」
そう言ってさっさと帰ろうとするルミカの腕をレオンはとっさに掴む。
「…まだなにか?」
「最後に一つ聞いておきたい。ルミカさんは、初めから僕の正体に気づいていたんですか?」
「…えぇ、最初から分かってたわよ。…昔ね、あなたと同じような人に出会ったの。その人は今天界にいる。あなたの故郷と同じね…元は人間だけど、ある理由から天使になっちゃったのよ」
懐かしむような表情を見せるルミカに、レオンは一瞬見とれてしまう。それに気づき、ルミカはレオンに微笑んだ。
「その、ある理由って…?」
「それは言えないわ。知りたかったら自分でお聞きなさいな。誰のことか分かっているんでしょう?…もう無理か、人間になってしまったんだものね」
「…後悔は、していません。ミリアムのためなら、僕はどんなになったって構わない」
強気な顔を見せるレオンに、ルミカは困ったように笑うと、そのまま踵を返し歩いていった。一言だけ、別れの言葉を告げて…
「じゃあね、小さな天使さん。また会える日を…」
去ってゆくルミカの背中を見つめながら、レオンは静かに手を振った。背中を向けて歩いてゆくルミカには見えないだろうが、小さく小さく手を振り続けた。
「…さようなら…」
もう二度と会うことのない人の後姿を、レオンはずっと見送った。視界から完全に消え去るまで。そして、心の中でひたすらに謝った。ルミカともう一人、ガノムにも…
そのとき、その様子を一人の人物が木陰から見ていた。
「見つけた。とうとう、見つけた。リアン」
———さぁ、悲劇の物語の始まりだ。
レオンとミリアムの
運命の歯車は
廻り始めてしまった……—————