二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 秘蜜〜黒の誓い〜 ≪ボカロ曲小説化≫ ( No.38 )
日時: 2011/04/01 22:07
名前: 夏茱萸 (ID: wJNgr93.)

第六章〜禁断の姿〜

ミリアムは、リアンと離れてから五日経った今も、まだ部屋に篭りっぱなしだった。
式は明後日だというのに…と、ルミカもすっかり呆れてしまっている。

ガノムは店に来てはオロオロし、ルミカに怒られて帰っていくという日々を送っていた。

「ミリアム…本当にもう式まで時間がないのよ?いつまでそうしてるつもりなの?」

「…ごめんなさい、ルミカ…でも、リアンのことを考えると、式なんて挙げていいのかって、どうしても思ってしまうの…」

「そう…とりあえず式場の下見だけでもしてきたらどう?気分転換くらいにはなると思うわよ」

ルミカがいつもと違う優しい声でそう言うと、ミリアムは部屋の扉をそっと開けた。そして少しだけ痩せてしまった顔で微笑んでみせると、ルミカに言った。

「ありがとう、ルミカ。行ったらまたリアンに会えるかもしれないわ。私、式場に行ってみる」

「その気になってくれて良かったわ」

ルミカも微笑み返すと告げた。

「今日はガノムは来られないらしいわよ。急な仕事が入ったんですって」

「そう…構わないわ」

困ったように笑うルミカにそう言うとミリアムは、自室のクローゼットから漆黒の美しいドレスを取り出した。
それはガノムがミリアムのためにと持ってきてくれた、式用のウェディングドレスだった。

「それを着ていくの?」

「慣らすのに丁度いいと思って。それに式場まで一本道だから、誰にも会わないでしょ?」

「そうね、いい機会かもしれないわ。手伝いましょうか?」

「お願いするわ」

背中の紐をうまく処理できずにいるミリアムに、ルミカはいたずらっぽく笑いながら声をかけた。案の定苦笑しながらミリアムはルミカの手を借りることにした。

「さ、出来たわよ。鏡を見てみなさいな、すごく綺麗だから」

「フフ、お世辞は結構よ」

そう微笑みながら言うとミリアムは鏡に映る自分の姿を眺めた。
その瞬間、目を見開いて絶句してしまった。

「ミリアム?どうかしたの?」

「…悪魔…」

「え?」

「私…まるで悪魔みたい…心まで全部、黒色に染まってしまったみたい…っ」

頭を抱えながらしゃがみ込むミリアムの様子を見て、ルミカは背中をそっとさすってやる。

「大丈夫よ、あなたは美しいまま。黒に染まってなんていないわ」

「嘘…ッ」

「私が一回でもミリアムに嘘をついたことがあった?」

ミリアムは涙に濡れた顔を上げながらルミカに聞く。

「…本当に?私、大丈夫…?」

「当たり前じゃない。さ、式場に行ってきなさい」

「うん…!」

ルミカに急かされながら玄関に行くと、とてもきれいな青い空が広がっている。
久しぶりに見上げる空に、ミリアムはふっと顔を綻ばせた。

「それじゃあ、行ってくるね!」

「いってらっしゃい、気をつけてね」

「うん!」

お店の外まで送ってくれたルミカに、太陽の様な綺麗な笑顔を向けると、ミリアムは少し小走りで森の奥に消えていった。

「あんなに焦らなくてもいいのに…ねぇ、ガノム?」

「い゛!?」

木陰から覗いていた紫の髪を思いっきり引っ張ると、ルミカの思っていた通りの人物が半泣きになりながら顔を覗かせた。

「痛いたいたいたい!!ルミカ!痛いってば!」

「覗きなんて最低よ?いつからいたのかしら、ん?」

「分かった!話すから髪を離して!!」

「ふん!」

乱暴にガノムの髪を離してやると、ルミカはさらに問い詰めた。

「いつからいたの?」

「…さっき仕事が終わって…で、来てみたら二人が玄関で青春中みたいな感じになっていたから…出て行きにくかったというか…」

「へぇ〜?ま、その選択は正しかったわね。出てきたら半殺しにしてやるところだったわ」

ルミカの言葉を聞いて、ガノムは息を呑む。元々白い顔が更に青白くなってしまった。

「とりあえず帰りなさい」

「えぇ!?そんな〜…」

「ミリアムがいないのに、ここにいる意味なんてないでしょう?」

「…ミリアムはいないけど、ルミカはいるぞ?」

「私なんかといても青痣が増えるだけよ。それでもいいの?」

「いい、ルミカなら許す」

「変な奴」

いきなり真顔になり、不思議なことを言い出すガノムにルミカは訳の分からないといった顔をした。
ガノムはそんなルミカをよそに一人、顔をポッと赤らめてみたり、困ったような表情になってみたりと百面相を繰り返している。

「気持ち悪いわよ、ガノム」

「へへっ」


こんなほんわかしたあったかいルミカたちとは反対に、ミリアムの方は最悪の状況に陥っていた。



ルミカたちがそれを知るのは



まだ、もう少し先。



そして



そう遠い日でも、ない……—————