二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 秘蜜〜黒の誓い〜 ≪ボカロ曲小説化≫ ( No.39 )
- 日時: 2011/04/05 18:46
- 名前: 夏茱萸 (ID: wJNgr93.)
第七章〜禁断の賭け〜
ミリアムは着慣れないドレスに何度か躓きながらも、小走りで教会へ向かった。
「こんなに走りにくい物だとは思わなかった…」
そして、教会の大きな鐘が見えてきた頃、近くにあった木造りのベンチに腰掛ける。普段着ではそんなに疲れないのだが、多少重くも感じられるこのドレスでは教会までの道のりも長く思えてくる。
ミリアムはフゥっと溜息をつくと、大きな青空を見上げた。
「まるで、絵の具をこぼしてしまったよう…」
静かな森の中の空間は、ミリアムを安心させ、そして不安にもさせた。
いつかミリアムがまだほんの幼子の頃、ルミカが言っていた。
『ミリアム、あなたはこの森を見て、なにかを感じたことはある?』
『う〜ん、まだ分かんないけど…とってもきれいだな〜って思った。はじめてここに来たときに』
『そうね、とっても綺麗…でもね?この森も、昔は本当に恐ろしいところだったのよ』
『どうして?』
『…私は生まれていなかったんだけど、大昔この森では天界の者たちと下界の者たちとで戦争があったらしいの。まぁ、天使と悪魔っていったほうが分かりやすいかしら?…古い言い伝えだけどね。で、それを見ていた神様が、あまりの醜さに嘆き悲しみ 下界の者は地上よりもずーっと下へ、天界の者は空の遥か彼方へと分けられたの。それ以来戦争はこの森では起きなかったけれど、近いうちにまた最悪なことが起きるでしょうね…』
『難しいからよくわかんないよぉ、ルミカ〜』
『そう?ま、要するにあなたさえ気をつけて生きていけばこの森は平和が続くのよ』
『どうして私なの?』
『私の勘よ』
『変なの〜』
『フフ、そうかしら?』
あの時はまだ、ルミカの言っていた意味がよく分からないでいた。けれど、今ならなんとなく分かる気がする。私があの子と出会ってしまったから…
ミリアムはそこまで考えて、首を軽く左右に振った。
まさか、ね…
ドレスに躓かないように気をつけてベンチから立つと、また小走りで教会に向かった。
といっても教会はすぐそこなのだから急ぐことはないのだが。
教会の門を門番に開けてもらい、式を挙げる予定のメイン会場へとミリアムは歩いていった。
「…変わってない…何もかも…」
リアンとの最後の日から、なんにも…————
途端に暗い気持ちになるミリアム。メイン会場に入ろうと、大きな扉に手を掛けたが、そんな気になれずに会場の裏へとまわった。
そこは木々に囲まれただけの小さな空間であったが、ミリアムの先程までの気持ちを落ち着かせてくれる、神秘的な場所だった。
「綺麗なところ…」
「でしょ?僕のお気に入りなんだ」
「!?」
突然どこからか男の子の声が響き、ミリアムは身を硬くする。
少年の姿はどこにも見当たらない。
「誰なの!?出てきて頂戴!」
昼間から幻聴か?とも思ったが、そうではなさそうだ。
木の陰から美しい金色の髪をした少年が顔を出した。
「安心して、僕悪い人じゃないから」
「あなたは…誰?」
一瞬ミリアムは彼のことをリアンと勘違いした。あまりにも顔が似ていたので…だがリアンは女性だ。(ミリアムから見て)そして目の前にいる彼は自身やリアンとは異なる性別だった。
少年がミリアムとの距離を縮めて、ふっと哀しげな笑みをして言った。
「僕の名はレオン。よろしくね」
「私の名は、ミリアムよ」
「知ってる。ミリアム・ハーロイドさん…貴女の事は、色々知っているんだ」
レオンは先程からミリアムと目を合わせようとしないでいた。
それは、きっと…
「どうして私を知ってるの?」
「…見ていたから。貴女だけを…」
そう言ってレオンは静かに顔を上げた。ミリアムの目をじっと見つめて、儚い、今にも消えそうなような笑みを浮かべた。
ミリアムはレオンのその瞳から、目を逸らせないでいた。そして、初めての感情に戸惑っていた。
たしかこれは…この感情は…いつかルミカが言っていたものに近い気がする…そうだ!
これは、きっと…『恋』というもの。
ドキドキして、心臓がどんどん早くなってゆく。
心なしか顔も少し熱い。
「覚えておいて、ミリアム。僕はキミのことがずっと好きだった。初めて貴女を見たときから、ずっと…」
「…私もきっと、レオンのこと 好きだと思う」
「ッ!本当に?」
「えぇ、レオンを見ていると、なんだかドキドキして…これが恋ってものだって、私のお姉さんが言っていたの」
「お姉さん?ミリアムにはお姉さんがいるの?」
「正確に言えば本当のお姉さんじゃないわ。存在的に、ね」
いたずらっぽく微笑むミリアムに、レオンは少々見とれてしまった。
「…そうなんだ…その人の名前って、ルミカ?」
「ええそうよ。どうして…」
驚いた表情の彼女に、今度はレオンがいたずらっぽく微笑み、言った。
「言ったでしょ?貴女の事は、色々知っているって」
しばらく二人で色々な会話に花を咲かせ、笑い合っていた。すると突然レオンが笑うのを止め、真剣な顔つきでミリアムに話し出した。
「ねぇミリアム。僕のこと、好き?」
「へ、変なこと聞かないでよぉ…すき…よ」
「じゃあ、僕と逃げよう。どこか遠く、キミの婚約者の目の届かないところへと」
いきなりのことで、ミリアムは驚きを隠せないでいた。その顔に、そっと手を当て、レオンは呟いた。
「お願い…キミのことが…ミリアムのことが好きなんだ。どうしても他の人のとこへは行かせたくない…ッ」
そう言って顔を苦しそうに歪めるレオンの瞳には、今にも零れ落ちそうに涙がたまっていた。
ミリアムはその様子を見ているのがとても辛い。好きになってしまった。彼のことを苦しませたくはない。
ミリアムは悩んだ末に、答えをレオンに告げた。
「…いいわ、一緒に遠くへ逃げましょう」
そう、これがミリアムに与えられた、
人生最大の選択。
苦しみから逃れたいふたりが
選んでしまった 最悪の答え…————