二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 秘蜜〜黒の誓い〜 ≪ボカロ曲小説化≫ ( No.4 )
- 日時: 2011/03/24 21:56
- 名前: 夏茱萸 (ID: wJNgr93.)
第一章〜禁断の出会い〜
雲の上に存在する、美しい天使の国『天界』
ここは天国のように青い空が広がり、白い雲にのんびりと笑い合う天使たちの姿がある。…本来ならば。
いつも美しいこの天界も、先週から一人の天使がいなくなってしまったことにより大騒ぎを起こし、神を怒らせ灰色に染まっていた。
「なんてこと…リアンがもし人間界に迷い込みでもしたら、ここの存在がバレてしまうじゃない!すぐにリアンをお探しなさい!先週から探しているのにどうして見つけられないの!?」
怒り狂う天使の名前は「メイサ」という。天使の中のリーダー的存在だ。いなくなった天使の名は「リアン」といって、情報収集係を任されていた。リアンは人間界に出向いてから一向に帰ってくる気配がないのだ。いつもは2〜3日で帰ってくる、優秀な天使なのだが…
「申し訳ございません。何としてでもリアンを探し出してみせます」
メイサに跪き、そう謝る青い天使の名は「カイナ」という。カイナとリアンともう一人の天使、ラグミナは同じ情報収集班であった。
「大体あんたたちとずっと一緒にいたんでしょ!?どうしてリアンだけがいなくなるの!?」
「リアンは皆と比べて、好奇心旺盛。どこに行ったのか、見つけるのは至難の技。私たちでも、無理」
無感情な声でそう語るのは黄緑の髪の「ラグミナ」だった。メイサにこのように敬語を使わないのはラグミナただ一人だ。
「相変わらず無感情ね、機械みたいだわ。…ラグミナ、カイナ、もう一度だけ人間界へ行って探してきてちょうだい。くれぐれもバレないようにお願いね。私も天界をさがしてみるわ」
「御意」
*
その頃のリアンは———
慣れない人間界の空気を吸いすぎて、既に虫の息だった。
天使のリアンには人間界の空間さえも自身を傷つけてゆくものだ。狭いし、もう既にこちらでは夕陽のオレンジ色の日が射す時間帯なので、リアンには孤独と不安だけが押し寄せてくる。
「ここ…どこぉ…?カイナ〜、ラグミナ〜…」
しゃがみ込み、泣きそうな声でリアンはパートナーである二人の天使の名を呼ぶ。
そのとき、リアンの目の前が急に暗くなった。
驚いて見上げてみると、そこには一人の小柄な女性が立っていた。
「どうしたの?こんなところでしゃがんだりなんかして…」
緑色の綺麗な髪に、漆黒の服を纏った彼女は逆光のせいで顔までははっきりと見えない。
——しまった!僕天使の姿のままだッ…あぁどうしよう…メイサさんに怒られる!
「あ、えっと…す、少し向こうを向いて…」
「ねぇ、その背中の羽ってなぁに?変わった飾りね。まるで天使みたい!」
「あ…そう!これは飾りなんだ!き、綺麗でしょ?」
彼女の飾りといった言葉に乗っかって、リアンはそう誤魔化した。
「えぇ、とっても!」
彼女はにこりと笑みを浮かべる。リアンはフラっと立ち上がると、彼女の顔が見えるよう向き合った。
奇麗な瞳をもった、美しい顔立ちの女性だった。
こんなに美しい人間を見たのは初めてなので、リアンは少し戸惑った。
不意に彼女がリアンと目を合わせ、爽やかな笑みを浮かべ、手を差し出してくる。
…心臓が、トクリと跳ねた音が聞こえた。
(なんだろう…心臓がすごい速く鳴ってる。顔も熱いし…病気?)
初めての感情に驚き、差し出す手を握ろうとしないリアンを不思議そうに彼女が見つめる。
「どうかした?」
「え?あ、いや…」
焦りながらもリアンは彼女の手を握る。触れたところから彼女の体温が伝わってきて、ますます心臓の音が大きくなる。
「私はミリアムよ。ミリアム・ハーロイド。小さな天使さん、あなたの名前はなぁに?」
「僕の、名前…リアン、です」
「フフ、さっきからよく噛むね、どうしたの?」
「別に…」
ミリアムはリアンの手を離すとリアンの身体をつま先から頭の先まで見渡してきた。
「傷だらけじゃない!大変!ねぇ、私の働いているパン屋へ来ない?そこで手当てしなくちゃ」
「パン屋?…でも」
これ以上人間界へいると…どうにかなってしまいそうで…
先程とはまた違う苦しみが加わったことにより、リアンはさらに気分が悪くなっていた。
「早くしないと死んじゃうよ!さ、行こッ」
早くと手を引くミリアムは、かなり焦っていた。天使は傷を負ったくらいでは死にはしないが、人間界にいる方がよほど死に近づいてしまう。
そのことを知るはずもないミリアムは、リアンの意見を聞こうとはせず、そのままリアンの手を引いて走り出してしまった。
「は、走るの〜!?」
「すぐ近くだから!ほらあそこよ!あの赤レンガの家!」
「はぁ…はァ…ッと、遠い…!」
意識が遠くなったり近くなったりしながら、リアンは一生懸命赤レンガに向かって走った。
そしてミリアムに気づかれないようにそっと天使の象徴である羽を隠していった。これは時間に限りのある技だが、メイサが特別にリアンに教えてくれたとっておきだった。好奇心旺盛な情報収集さんだけに、と。
『もしバレそうになったときは、この方法で逃れなさい。いいわね?』
…逃れられるだろうか…
このミリアムという女性から。
きっと…無理だ。
もう既に、
禁忌の箱を開けてしまったとも知らず、
リアンは手を引かれるままに
彼女の背に、ついていってしまった…
無意識に
彼女を求めて……————