二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 秘蜜〜黒の誓い〜 参照400突破企画実施中♪ ( No.54 )
日時: 2011/06/05 19:00
名前: 夏茱萸 (ID: ncyYlurw)

第十二章 〜禁断の友人〜


カイナは初めこそ声の続く限り叫んでいたが、
やがてゆっくりと立ち上がると、静かに天界へと飛び立った。

そのカイナの存在を、ミリアムは知らなかった。

ただただ、リアンが残していった漆黒の羽根を頬に寄せ、
ポロポロと涙を落としている。


「リアン…っ!…私だって…リアンのことッ好きだったのに…ッ」


———どうして自分の姿を偽ったりなんてしたの…?



「ぅッうぁ…ひっくッ…リアン!」



…違う。


リアンは、私を愛してくれたの。


あれは偽りなんかじゃなかった。


じゃあどうして、姿を変えたんだろう…





それは、私が本当のリアンを拒んだから。





それなのにリアンは

レオンになってまで、

仲間を捨ててまでも私のことを愛してくれた。


なのに、私は…



「リアン…私ね、また会えたら伝えたいことがあるの。それを言うまでは絶対に貴方を愛したままでいるから…。…この、黒の羽根と私に誓って」


そう言うとミリアムは、羽根を見つめ
そっと唇を寄せた。

その瞬間に、ふわっと花畑を風が渡ってゆく。
ミリアムは自身の指で揺れているシロツメクサの指輪を見て、ふっと微笑んで見せた。


リアンはずっと、見守ってくれている。


そう思ったミリアムは、スッと立ち上がると
美しい緑の髪をなびかせながら、花畑を後にした。




*   *   *   *   *   *




「まったく…無茶をするようになったものね、リアンったら…まぁ、元からか」

そう溜息交じりに嘆くのは、天使まとめ役のメイサだった。
天界にやっとのことで帰ってきたラグミナと、放心状態で帰ってきたカイナは、今はメイサの前に跪いている。

「リアンはもう、戻らない。でも、魂は此処に生きている」

ラグミナがメイサにそう言うと、カイナはぎゅっと手を握り締めた。

「そうね…一人だけ、リアンの魂を救ってくれる人を知ってるわ。その人に頼んでみましょうか」

「それって…誰ですか」

不思議そうな顔をしているカイナにメイサは


「古い友人よ」


そう短く答えて人間界へと降りていった。



*   *   *   *   *   *



〜ルミカのパン屋にて〜



「それで?天使の長が一人の天使のために、ここに降りてきたってわけ?」

「久しぶりに会ったっていうのに、挨拶もなし?相変わらずね、ルミカ」


桃色の髪をいじりながら呆れたようにメイサを見るルミカと、それに溜息で返すメイサ。

彼女たちは昔から仲の良い友人同士だ。

「ねぇルミカ。お願いよ、リアンの魂を救えるなんて芸が出来るのは、貴女くらいなんだから」

「って言われても…ま、いっか。リアンちゃんだし。魂が救われることでパートナーだった二人や、ミリアムの心が少しでも晴れてくれるんなら、やったげるわよ」

「本当?ありがとう、感謝するわ。ルミカ」

嬉しそうな顔をするメイサににっこりと微笑むと、
ルミカは椅子から立ち上がり、ミリアムのいる部屋へと歩いていった。


コンコンと木造りの扉を数回叩き、中にいるミリアムにルミカは声をかけた。

「ミリアム、少しだけリアンちゃんを貸してくれないかしら?」

ルミカの呼びかけにミリアムはゆっくりと扉を開く。

「…リアンの羽根のこと?」

「そうよ。でもその羽根はリアンちゃん自身だから、粗末に扱っちゃダメよ」

「…え?」

「あら、知らなかったの?」

意外そうな顔をするルミカを、軽く睨みつけながらミリアムは言った。

「リアンの羽根かと思ってた…」

「そう。…その羽根使うから少しだけ貸してくれないかしら?」

「いいけど…何に使うの?」

「リアンちゃんを救うのよ。何ならミリアムも見る?運がよければ、リアンちゃんに会えるかもしれないわよ」

「…本当!?」

困ったような顔から一転して明るい表情になったミリアムを見て、ルミカはクスッと微笑んだ。

「さ、行きましょう。表で友人を待たせてあるの。リアンちゃんの上司でもある人だから、軽く接しちゃ嫌な顔されるわよ」

「そう、なんだ」

———少し怖いかも…

そう苦々しく思いながらも、表情には出さなかった。




「あ、来た。じゃあルミカ、さっそくやってもらえるかしら?」

待ちくたびれたと言わんばかりに腕を組んで、店の外でメイサが言った。

その様子を見たミリアムは、ルミカに聞いた通り、軽くは話せないなとすぐに悟り、一人苦笑をした。

「フフ、分かってるわよ。ミリアム、それを貸してもらえる?」

ミリアムの持っている羽根を指差しながらルミカが指示する。

そしてメイサやミリアムにテキパキと指示を出して、ルミカ自身も忙しく地面になにやら書き込んでいた。




始まるのだ、ルミカの儀式が…





人と天使。


出逢ってはいけなかったのだろうけど


もう、遅い。


きっとふたりは何かで結ばれていて


再び巡り合う運命だったんだと


その場にいる誰もがそう思った……—————