二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 秘蜜〜黒の誓い〜 ≪ボカロ曲小説化≫ ( No.57 )
- 日時: 2011/11/27 21:51
- 名前: 夏茱萸 ◆2uA.rd.h2M (ID: lkF9UhzL)
第十五章〜禁断の過去〜 前編
「…殺して」
全てに絶望したような声音で、真っ赤な彼女が囁いた。
暗く澱んでいる瞳は最早目の前の女性を映してはおらず、只々遠くの方を見つめている。
血色の悪い真白な頬を、涙で濡らしながら…———
ルミカは教会の近くにある森で、日課である散歩をしていた。
白く裾の長いドレスに躓かないように、器用に足を進めていく。
————この森にも、大分緑が戻ったわ。
木々の間から差し込む眩しい光を見上げ、小さく微笑んだ。
暫く進んでいくと、まだ建設されて間もない美しい教会が姿を現した。
「相変わらず…素晴らしい出来栄えだわ。ここに来ると祈りすら掻き消されてしまうような…ま、私は祈っていくけどね」
独り言を明るく締め括ると、ルミカは教会の中へと足を進めた。最奥へ辿り着くと天井にある絵画を暫く見つめる。哀しいような、寂しいような眼差しで…
天使と悪魔が争っているようなその絵は、ルミカの胸を酷く痛めた。
「ッ…祈らなきゃ…」
焦ったようにその絵から目を逸らすと急いで目の前の肖像へと跪いた。
手を合わせ頻りに言葉をブツブツと呟く。
「主よ。どうか私のこの汚れきった心身を浄化しておくれ…私の過去を…犯してしまった罪を…どうか、許して頂戴…罪が消えないのはわかってる。未来に罰が待っているのも…けれど授かった命を…あの子の魂を、無駄にしたくないのです…!どうか…どうか…ッ!」
ハッとして顔を上げると、自分の取り乱してしまった様を思い出し酷く吐き気がする。
目頭を押さえながら立ち上がると、ルミカは教会を出て行った。
教会を去ろうとしたのだが、不意にルミカの耳に女性の悲鳴が聞こえたような気がした。
「…?何かしら…」
教会の裏へ行くにつれ、段々とその声はハッキリと聞こえてきた。
「…ろせ…!殺せぇぇ!!」
「!?」
耳に入ったその言葉にルミカは過剰に反応してしまった。走って教会の裏へ回ると、一人の女性が泣きながら何かを訴えていた。
「ちょっと貴女どうしたのよ!何があっ…!?」
近寄ってみると彼女の周りは血だらけだった。傍には最早性別の区別がつかない死体が、二人転がっている。返り血を浴びてしまったのか彼女自身もまた、血に塗れていた。
「これ…全部貴女がしたの?」
「だ…れ?」
「私はルミカよ。それより、これ…」
彼女は俯くと、声を震わせながら言った。
「…わからない。気が付いたら…こうなって…ッ」
血に塗れた手で顔を覆うと泣きながら彼女はルミカに訴える。
「お願い!私を殺して!嫌なの…一人は嫌なの!!」
暫く考えるような仕草をした後ルミカは彼女のようにその場に座ると、彼女の頬を平手で打った。
バチンッ
乾いた音がその場に響き渡り、不意に頬を打たれた彼女は唖然としてルミカを見つめた。
スッとルミカが立つと、一瞬彼女の肩がびくりと震える。そんな様子を冷めた目で見下すルミカを、怯えた目で見つめ返した。
「甘えないで貰えるかしら。死にたいのなら他人に頼らず自分一人で死になさい。関係のない私を巻き込むものじゃないわ。…それに、本当に命を絶ちたいのなら、本来は他人に頼まず一人でひっそり死ぬものよ。他人に相談する内は、助けてほしいって心の何処かで思っていたりするものなんだから」
まっすぐに見つめてくるルミカの目を見たくないのか、彼女はゆっくりと視線を逸らした。そしてそのまま小さく
「…死にたいけど、死ねないの…」
そう呟いた。
「…どういうこと?」
「そこに倒れている人たち、私の友人なの。…テナートっていう女性なんだけど…。彼女の恋人ね、私の愛していた人で…今日、テナートと喧嘩をしてしまったの。勿論テナートの彼のことで…私に何かを言う権利なんてないかもしれないけど、それでも彼のことが好きだったから…ッ!それで、暫く二人で言い争っていたんだけど…彼がここに来てしまってね。彼がテナートをあんまりにも庇うから、頭に血が上ってしまって…それで、気付いたら…こんなに…ッ」
途切れ途切れに言う彼女にルミカは暫く何も言わなかった。
…否。
言えなかったのだ。
だって、彼女がこうなってしまった理由が、あまりにも自分の過去に重なってしまったから…
「…きっと、私がテナートたちをこんな風にしたんだと思うわ。でも、覚えてないのよ!何を使って彼女たちがこうなってしまったのか、どんな気持ちで死んでいって、私がどんな気分で友人や愛する者を殺めてしまったのか!何も覚えてないのに、自分を殺すなんて出来ないのよ!」
「…でも、死にたいのね?だから他人を頼って死のうとしたのね?」
「…えぇ」
二人の間に沈黙が続く。
やがて彼女は静かに顔を上げた。
その頬は先程よりもさらに青白くなっており、涙が一筋伝っていた。瞳は僅かな希望すら残ってはおらず、すべてを諦めたような色をしている。血色の悪い唇を震わせながら発した言葉はたった一言だった。
「…殺して」
彼女は友人を殺し、想い人を殺した。
そして、その事実から逃れるように
自分を殺すことを願った。
決して救われることなどないのに、
救いを求める。
誰も助けてはくれないのに、
助けを求めた……————