二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 152章 過去の幻獣 ( No.315 )
日時: 2011/07/21 20:34
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: /LylQYeE)
参照: http://pokegai.jp/

「…………」
ミキは吹っ飛ばされ、戦闘不能になったドリュウズをボールにも戻さず、ただ立ち尽くしている。
「……どうやら、ゴチルゼルのエネルギーに当てられて、何かを視ているようね」
ゴチルゼルが天体ポケモンと呼ばれる由縁は、強力なサイコパワーの影響で空間がねじれ、何万光年も遠くの星空が映るからである。また占星術のように星の配置や動きから未来を見通したり、トレーナーの寿命を見たりもする。
そしてことカトレアのゴチルゼルは特殊というか強力で、離れた場所や未来だけでなく、過去、平行世界(俗に言うパラレルワールド)、別世界なども移してしまう。カトレアが推理するに、それはサイコパワーの質が違うらしいが、そんな事は関係ない。
「問題は、この子が何を見ているか。遠い場所なら良し。未来もまあまだ良い方。……でも、平行世界や別世界だと、恐ろしいものを視る恐れがある……」
カトレアは別にミキが嫌いなわけではないので、ここで妙なものを見て気が狂ったり発狂したりしては困る。
しかしそれらは杞憂だった。なにせミキが視ているものは、自分の過去なのだから。



1つの街が——いや、町というべきか、そのくらいの小さな町が、炎上していた。町の名前はセッカシティ、イッシュ唯一の湿原地帯で、龍螺旋の塔という古代建造物があり——ミキの故郷である。
そのセッカシティが、炎に包まれていた。
「ザキ。ミキを連れて今すぐ湿原の方へ逃げろ。あそこは湿気が多く、火も回らない。だから行け」
「父さんと母さんはどうするの?」
これは5年前のセッカシティ。この時、プラズマ団の大規模な強襲があり、セッカシティは混乱の渦に巻き込まれた。
「父さんも母さんもPDOの一員だ。だからプラズマ団から町の住民を守り、戦う義務がある」
「あなたたち2人はまだ子供。危険だから、早く避難して」
当時PDOセッカ支部統括だったザキのとミキの父、そして統括補佐だった母。ザキのミキはこの2人を尊敬し、敬愛していた。
「…………」
ザキはミキの手を握り、立ち尽くしている。
「早く行くんだ」
父が催促し、ザキは決心したように顔を上げる。
「……分かった」
そう言うとザキは、ボールからポケモンを出す。赤紫色の巨大なムカデのようなポケモン、ペンドラーだ。
ザキはペンドラーに乗り、ミキも乗せようとするが
「おとーさんとおかーさんは?」
「2人は戦わなくちゃいけないんだ。だから行くぞ、ミキ」
ザキはミキの腕を引っ張るが、ミキは動こうとしない。
「ミキ」
その時、ミキの母は慈愛に満ちた顔でミキに語りかける。
「お母さんたちは必ず帰ってくるから、それまで待って頂戴。大丈夫、あなたにはポケモンがいるから」
そう言ってボールを1つ、ミキに握らせる。
「それじゃあミキ、お母さんたちは行ってくるわ」
そう言ってミキの母親は、父親とともにプラズマ団と戦いに出た。
そして、母親だけ戻ってくる事はなかった。



「…………」
ミキは今だ固まったままだ。というか、うつ伏せに倒れている。
「もう10分以上こうしているわね……大丈夫かしら……?」
カトレアは暇そうに——心配そうに欠伸をする。



「お母さん?」
イリスとミキが出会った日の夜。2人はポケモンセンターの宿舎にある2段ベッドで会話をしていた。
「はい、お母さんです。私は、5年前にお母さんを失いました」
「それって……」
イリスは気まずそうな顔で口を開くが、ミキの表情は明るかった。
「死んじゃったというわけではないと……思います。でも、5年前にプラズマ団がセッカシティを襲ってから、私はお母さんと会っていません」
イリスは何気なく何故ミキがPDOに加入したいのかを聞いてみたが、重そうな話になってしまった。
「えっと……つまり、ミキちゃんは母親を見つけるためにPDOに入りたいって事?」
「はい。PDOならプラズマ団に関する情報が入ってきますから、探しやすいかな、と」
「成程ね……」
イリスは得心いった顔で頷く。
「でも、ちょっと不安ではあります」
ミキの表情が、途端に暗くなる。
「私は、まだ弱いですから。不安で……」
ミキの顔が沈んでいく。
「だったら強くなればいいよ」
「え?」
イリスは何という事もない、という風に言った。
「弱いなら強くなれば良い。僕だって強いとは言えない。だから強くなろうとするんだ。強くなりたいんだ。だから——」
イリスは一拍おき、口を開く。

「一緒に強くなろうよ。仲間と一緒なら、より一層僕も強くなれる」



「……思い……出した……」
ミキが昏睡してから15分。ついにミキは目を覚まし、立ち上がった。
「私も、一緒に強くなる。そして、お母さんを、見つけるんだ……!」
ミキは決意のこもった顔で、そう言った。
「……どうやら、ゴチルゼルの力が良い方に働いたようね。アタクシからすれば、悪い方なのかもしれないけれど」
カトレアがそう言う傍、ミキはドリュウズをボールに戻し、次のポケモンを繰り出す。
「出て来て、メブキジカ!」
母が最後に託したポケモン、シキジカ。そのポケモンは、仲間とともに成長し、進化を遂げた姿を現す。



今回はバトルなしの回でしたね……ミキの過去はいつか書こうと思っていて今回になりましたが、ぐだぐだの上に長ったらしくなってしまいました……。まあ、気を取り直して。次回はミキVSカトレア、決着です。お楽しみに。