二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

無神論少女と逆ハー少女。壱【傍観夢/長編】 ( No.2 )
日時: 2011/04/08 17:48
名前: 緋舞 (ID: 6Q1uGoC5)

「……あ、阿久津美加です! 宜しくお願いします!」

 阿久津美加。聞いたことのない名前だなぁ、なんて思いつつ美加と名乗った少女を見やる。正直、とても綺麗な容姿をしており、照美より勝るんじゃないかと錯覚。だけど、それは“かみさま”と名乗る変人に貰った容姿なんだって、と誰かが言っていた気がする。
 でも、気取る性格でもぶりっ子でも無い、本当に可愛らしい少女だと僕は思う。だから、彼女が愛されるのは当たり前だと思う。イナズマイレブン、というゲームの世界に僕と同じくトリップしてきた少女。そんな事実を突きつけられても頑なに神を信じない僕は自分でも馬鹿だとは思う。

「宜しくな!」

 そんな彼女の自己紹介に笑って手を差し出す円堂に、口々に挨拶をしているサッカー部員。
 今日からサッカー部のマネージャーになるらしい彼女をグラウンドの片隅で眺めていると、生徒たちの不審げな視線が此方に向けられた。
 まぁ、彼女が愛されようが疎まれようが、——ましてや僕の大切な人が盗られようが僕はどうも思わない。感情が無い、っていうわけじゃなくて、心から興味が無い、だけ。
 さらさらと視界の端で自分の黒髪が揺れるのを見て、風が強くなってきたなぁと関係のない事を考える。

「あ、あの、!」
「……何」

 どれだけぼうっとしていたのか。ふと阿久津サンに声を掛けられて僕はやっと意識を此方側に向ける。
 彼女はその綺麗な顔に心配そうな表情を浮かべて僕に問いかけた。

「大丈夫ですか……?」
「全然、平気」

 彼女の言葉に軽く頷いて、まだ心配そうな彼女に背を向ける。こんな純粋な子と僕が喋ってていいのかな。サッカー部員に何か言われそうだ。

「じゃあね、ありがと」
「あっ、……」

 ひらひらと手を振って僕はそこを立ち去る。言って置くが、僕はサッカー部の見学に来ているだけで雷門中の生徒などでは無い。僕は最近、尾刈斗中学校が好きになってきた。だって、幽谷が優しいんだもん。まぁ、御影専農も嫌いではない。改と啓も可愛いからね。
 ま、僕の学校は秘密ってことで。ばらすのも面白くないもんね。
 暫く歩いて、人気のない場所で彼を呼ぶ。

「不動クーン」
「あ?」
「……相変わらず柄悪いよねー」
「うっせ、……」

 ま、これでわかったと思うけどね。あの潜水艦ね。
 クスクス、と止まない笑みを止めようともせず、僕はぎゅ、と不動クンの手を握る。僕より大きい手に安心しつつ、僕と不動クンとでのんびり歩を進めた。僕が向かうのは僕の家。——僕は総帥の作品じゃないからね、サッカーはあんまやらないし。

「じゃあまた明日」

 ひらひらと手を振れば、不動クンはふいっと帰ってしまう。
 素直になれない不器用な彼も、嫌いでは無いなぁ。



無神論少女と逆ハー少女。壱/*
( さり気なく愛されてると良い。 )