二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【ボカロ曲小説集】色蝶の行く先ぷらす*悪ノシリーズ連載中*  ( No.307 )
日時: 2011/05/22 17:50
名前: 藍蝶 (ID: 3i70snR8)
参照: http://www.youtube.com/watch?v

ф第1話


「ご注文のお品は、これで宜しかったでしょうか」


そう言って、深緑の男物の着物を年配の男性に両手で差し出す女性、”咲”。
勿論営業スマイル付きでだ。

「おう、ありがとよ、お嬢ちゃん。こりゃ丁寧に直されてる。また大切に着させてもらうぜ」

銭を差し出してきた手はよれよれで汚いと言われても仕方のない手だったが、
咲は迷わずその手に乗せられた銭を慣れた手つきで受け取った。

「有難うございました。また敗れた時は、お待ちしておりますよ」



これが、普通の日常だった。



今日は休業日。
店が休みだから、頼まれている仕事を一気に片づけるのだ。

<パキッ>

「あら、針が折れて………あ、糸も………」

ふぅ、と一つ溜息をつき、銭入れを手に取ると町のとある店までやってきた。

「あらいらっしゃい。お咲ちゃん、どうしたの………と聞くまでもないね。はい、いつもの針と糸」

にこやかな笑顔で迎えてくれたお婆さんは、ここ”万屋”の主人だ。
優しそうに見えて、お金に厳しい。

「有難うございます。えと、お金………あら?」
「どうしたの?お咲ちゃん?」
「どうしましょう……財布、落としたのかしら。ちょっと探してきますね」

袋に包まれた針と糸を持ったまま探しに行こうとしたが、

「あっ、咲ちゃん、針と糸、置いてっておくれ!」

ピタっと止まるとあ、そうでしたね、と言って近くの机に袋を置いた。











随分探した。

なのに、全然見つからない。

あの中には針と糸を買う銭くらいしか入ってないのに………

よほど、生活に困った子供か誰かが持っていったのかしら………

少々諦めぎみの私に、誰かが話しかけてきた。


「ねぇ、この銭入れ貴方の物でしょう?」


振り向いた先にいたのは、とてつもない美人だが、
女の命とも言える髪をバッサリ切っている変わった人だった。
でも、この人の来ている紅い着物はとても鮮やかで、それでいて彼女の美貌を更に際立たせていた。

そんな彼女は手に持っていたのは、紛れもなく私の落とした銭入れ。

「あっあっ……有難うございます!何とお礼したらいいか……でも、どうしてこれが私の物……だと?」

すると彼女は上品にふふ、と小さく笑って、

「この銭入れの模様、貴方の仕立屋が施す刺繍と似ているんだもの。有名ですものね、貴方は」
「あ、言われてみれば………後、お褒め頂き、有難うございます」
「いいのよ。あ、あたし待たせてる人がいるの。また、会えたらいいわね」

彼女はニコッと笑ってくれた。
だから私も小さく礼を返した。

頭をあげて、前を見た途端信じられない光景が目に入ってきた。


先程の美人な女と、私の夫………斬丸が、仲むつまじそうに、手を繋いで歩いていた。

第1話 終わり