二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【ボカロ曲小説集】色蝶の行く先ぷらす*悪ノシリーズ連載中*  ( No.321 )
日時: 2011/05/27 22:23
名前: 藍蝶 (ID: 3i70snR8)
参照: 蘭拓ハスハs(((((

第3話


部屋は常に静か。

汗の一滴が落ちる音まで、ハッキリと聞こえる。


「ふぅ」


私はそう言って針を山に刺し、掌で顔を覆った。

「あぁ、暑い。今年は特に暑い気候ね。中々捗らない………水でも、飲みましょう」

溜めていた水を手ですくい取り、飲む。
喉にヒンヤリとした感じが伝わり少し涼しくなった。

「さぁて、続きをしなくては」




2時間程、経ったろうか。
大分着物の修繕が終わってきた。
その途端、少しの安心と共に鈍く小さい痛みが私を襲った。

「痛っ………」

左手を見てみると、中指の先端から少し、血が出ていた。
咲は元々、不器用の部類に入る。
仕立屋の娘だから裁縫はそれなりに出来るが、不器用がゆえに針を指に刺す事が何度となくある。

「紅い………血………」

私は中指から出て来るその血を、じっと見つめていた。


 —————————————あの女を、紅色で染めてやりたい………————————


あぁ、私はなんて事を思ってしまったのかしら。
人を殺めるなんてしてはイケナイ。
デモ、何故カシラ。鋏ガ、母ノ形見ノ裁縫鋏ガ、私ニソット話カケルノ。

                  <—————欲望ヲ意ノママニ示セ—————>


そこで私は、首をブンブンと横に振った。

「(駄目、駄目なのよ。いくら妬ましくても、殺めるなんて恐ろしい事出来ない)」

私は涙を頬に伝わせ、着物を必死に縫い直し始めた。



夜、とある大通り———————


「貴方は………ウグッ!!……ケホッゴホォッ……ガハッ」


何者かが美しき”赤”の女を鋏で刺した。
見る見るうちに彼女の体は紅(くれない)に染まる。

「さ………さん………………」

女は倒れ込み、息を、引き取った。









     「さぁさ号外だよーっ!号外だよーっ!」


家の外が、喧しい。
瓦版売りの叔父さんは興奮しているのか、いつもより遠くまで来ている。
こんな町はずれまであの人は普通来ない。

  「まぁ、あの女の人殺されたんですって」
    「残酷ですね。鋏で何か所も刺されるなんて………」


まぁ、怖い。
ここ最近、人斬りなんて無かったものね。
これからいつも通る道でも夜は十分気をつけなきゃ。

     <カラッ>

戸が開いた音がした。
誰でしょう?
そう思って、包丁を掴み、裏口の方まで駆けて行った。
盗人だったら、追い返さなくちゃ………


「あぁ良かった。咲、居たのか」

裏口の所にいたのは、紛れもない私の夫、斬丸さん。

「斬丸さん!何処へ行ってらしたのですか?この咲、心配しておりましたゆえ」

薄く笑いを浮かべ、愛する貴方の元へ駆け寄る。
遅くなった理由はどうあれ、帰ってきてくれた事自体が嬉しかったのだ。

「そうか、すまなかったな。それよりも飯を作ってくれないか?晩から何も食っていないんだ」
「それなら、今出来てますよ。さ、上がってくださいな」
「………思っていたんだが、咲」
「はい?何でしょう?」

何を言われるのかと少し頬を赤らめ、尋ねた。

「お前の持っている、その包丁は何だい?」

スッと鞘から刀を抜こうとする貴方の目線の先にあったのは、私の持っている包丁………

「!!あ、その、コレ、は………いきなり戸が開いたものですから………盗人かも、知れないと………」

苦笑いをしてさりげなく包丁を後ろに隠す。
すっかり包丁を持っていた事を忘れていた………

「そうか、ならいい。私を斬ろうとしていたのかと思った」

そのまま彼は居間へと行ってしまった。

包丁を元の場所に戻し、ゆっくりと歩いて居間へと戻ると、貴方はさっそく朝飯を食べていた。

居間をパッと見回すと縫い直しを終えた紅い鮮やかな着物が目に入ってくる。

「貴方………あの、着物は?」

すると貴方は急に箸を止めて、着物の方を見上げた。

「あぁ、済まないな。取り消しになった………お前が、貰ってくれないか?」

そう、貴方とあの女は別れたのね!
なんて嬉しいのかしら。

「そう、じゃ、有り難く着させていただく事にするわね」

微笑を浮かべ、そう言う。

「ふぅ、ご馳走さん。次も遅くなるかも知れんが」

貴方は、そう言い残し出て行ってしまった。
あぁ、残念。あの紅い女の事を問いただしてやろう……そう、思ってたのに。

まぁいいわ。これから、布を買いにいく予定でしたから。

サッと銭入れを掴み、布屋へと、出かけていった。

第3話 終わり