二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【ボカロ曲小説集】色蝶の行く先ぷらす*悪ノシリーズ連載中*  ( No.363 )
日時: 2011/05/29 17:39
名前: 藍蝶 (ID: 3i70snR8)
参照: バンザーイバンザァーイ!サクがスレを立てたぁぁ!!

ф第5話


私の複雑な気持ちも知らず、貴方はのん気に話しかけてきた。

「おぉ、咲。ここに来てたのか?お前にしては珍しいな」
「私だって女ゆえ、ここに来る事もありますよ」

作り笑いを浮かべて、そう答えた。
それなのに貴方は満面の笑み。何でなの?

「今日はこの子の簪を買いに来たんだよ」

そう言ってスッと手を伸ばしたのは、一緒に来ていた女の子。

「アタイ、鈴!今日ねぇ、兄ちゃんとアタイの簪買いに来たんだ!」

え……兄、ちゃん?
この子は、斬丸の妹?

「この子は私の妹だよ。結構歳が離れているから、父と子にも見えなくもないがね」

さっきまで嫉妬感を抱いていた私が馬鹿らしくなった。
この人の妹を浮気相手と決めつけ、嫉妬までしちゃうなんて。
先程までの違和感を持った笑顔は消し、普通に笑ってこう言った。

「そうなの。貴方に妹がいたなんて、知らなかったわ」

その子の目線までしゃがみこむ。
よく見るとかなり可愛い顔つきで、将来美人になれるんじゃないかしら。

「着物、とっても似合うわね。お星様みたいに輝いてる」
「褒めてくれてありがと!姉ちゃんは嬉しい事言ってくれるんだね!」

無邪気な笑顔。
愛らしくて、さすがこの人の妹だなぁって思う。

すると、いつの間にか簪を買っていた貴方が、再度話しかけてきた。

「ほら、鈴。これでいいかい?きっと似合うよ」

鈴ちゃんは早速薄茶の小包を開けて、目を輝かせた。

「わぁ!黄色い簪だぁ!可愛いなぁ!」

貴方が簪片手にはしゃぐ鈴ちゃんをなだめると、今度は私に何かが入った袋を手渡してきた。

「……何?これ」
「開けてみなよ」

少しの期待で胸躍らせ袋を開けてみると、鈴ちゃんと同じ(でも少し大きい)黄色い簪が入っていた。

「貴方、これ…………」
「あぁ、お礼だよ。鈴にはかまってくれたし、いつも迷惑かけてるしな」
「貴方……」

貴方のその言葉に、少し頬を赤らめる。

で も そ の 言 葉 は 本 当 の
                  も の か し ら ?


本当は、この子は浮気相手の子供で、芝居をうってるだけなのかもしれない。

本当は、この店の女主人に自分の優しい所を見せつけて、浮気をしようとしてるのかもしれない。

最初に思った事が本当なら、浮気相手は私なのかもしれない…………——————————!

私はそのまま簪屋を出て、家へと戻った。

今日もお仕事があるから。

鋏を片手に、一生懸命布を切っていく。


——————あら?鋏の色、こんなだったかしら?


銀色で黒光りする形見の裁縫鋏は、紅に染まり、光らなくなっていた。

……まぁ、いいか。

今日も仕事に精を出さなきゃ。









「やめてっ!やめておくれっ!アタイを殺さないでぇ!」

暗闇の中、揺れる提灯、二人の影。

     <ドサッ>

一人の女の子が誰かの家の壁際に、腰を下ろす。

「こ…………此処まで、追ってこないだろうね?」

        <ザッ>

「《ビクッ》」

「見ぃつけたぁ…………」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!!」


            <ドスッ……>

鈍い音が、響いた。


第5話 終わり