二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【ボカロ曲小説集】色蝶の行く先ぷらす*悪ノシリーズ連載中* ( No.396 )
- 日時: 2011/06/02 20:16
- 名前: 藍蝶 (ID: 3i70snR8)
- 参照: 僕は病んでなんかないぜ!
∞第3話
<バタンッ>
木製のドアが勢いよく開き、閉まった。
「はぁっ……はぁぁっ……はぁ……」
ドアにもたれ、切れそうな息を戻そうとするミクリア。
その両手には、紅い果実がしっかりと抱かれていた。
「ミクリア!おかえり、豪く遅かったじゃな……え?」
ミクリアの帰りを待ちわびていたカインが、ドアの傍に右足を引きずりながらかけてきた。
そこまでは、良かった。
彼は、ミクリアの抱える果実を見るなり、笑顔からとても悲しい顔へとなった。
その様子に気づいたミクリアは、原因が果実だとも知らず慰めようと話しかける。
「カイン!私ね、良い物を拾ったのよ!ほら!」
小さい子供が新しい玩具を見せびらかせるような感じで、抱いている果実をカインに見せる。
「……それ、何処で拾って……きたんだい?」
悲しい顔のまま、彼は言う。
「カインの言ってたガルヴィ様の千年樹よ!……えと、マイモスは無かったけど。でも、でも……!」
パァッとヒマワリのような笑顔をしてみせ、もっとよく果実を見せようとする。
だけど、カインはそれを制した。
「いいかい?ミクリア」
「なぁに?カイン?」
「僕達の子供はもう……既に、この世にはいないんだよ?」
次の瞬間、ミクリアの笑顔が、一瞬にして枯れた。
「え…………?な、なに……言ってるの?私達の子供は、ここに……」
二つの果実……否、”二人の赤ん坊”をミクリアは差し出す。
「違う、違うんだ。ミクリア。僕達の子供はもういない。この子達は、別の……子だろう?返してきて、あげなさい」
そう、ミクリア達に子供はいない。
正確に言えば、”死んだ”。
これは、3年前の出来事。
二人は、ウォーデン国に住んでいた。
『リリアっ!レリアっ!お母さんと追い駆けっこしましょう!』
ちょっとした広場。噴水があり、花壇もある。
そんな所に、スティール一家は今日も来ていた。
『うんっ!リリア、やる!お母さんに負けないもんねー!』
ミクリアの問いに、元気いっぱいの笑顔で了解する”リリア”という金髪の女の子。
『え〜、僕は、遠慮する』
こちらは妙に冷めた雰囲気の男の子、レリア。リリアと同じ金髪だ。
『ほぉ〜、レリアは走るのが遅いから嫌なのかい?』
そんなレリアをからかうカイン。
『ち、違う!じゃあ僕も走る!』
家族団欒。
その言葉がピッタリだったスティール家。
不幸せなどあり得ないと思っていた。ずっと、ずっと。
ましてや不死の国と言われるウォーデン国で……
その日の夜。
『二人は、寝たかい?』
カンテラが照らす部屋の茶色い椅子に、カインは座っていた。
『えぇグッスリ。可愛らしいわ』
まだ幼い二人を寝かせ、リビングにやってきたミクリア。<カタン>と音をたて、向かいの椅子に座った。
『そういえば、今日王女の城で何かが封印されるって、言ってたな』
『そうだったわね。何か、悪魔が宿れる魔力を持った器を宿られる前に封印するとかだったっけ』
『時間的に、もうそろそろ……』
<ドオォォォォン!!!!>
『な……何!?』
ミクリアが、突然椅子から立ち上がる。
理由は言うまでもない、さっきの爆発音だ。
カインが慌てて窓にかかったカーテンを開ける。
すると、みるみる内にカインの顔が青ざめて行った。
『早く、逃げよう!』
唐突な言葉に、ミクリアは驚きを隠せない。
『な、なんでよ!?』
そして、カインの信じられない言葉が率直に返ってきた。
『王宮が、爆破した!あの大きさ、王宮から離れたここにも、爆発が届いてしまうかもしれない!』
『そんな!じゃあ、あの子達も……!』
幼き二人の寝室に向かおうとするミクリアの手を、カインが掴む。
『何す『瞬間移動(テレポート)!』なっ……』
カインの発した言葉により、二人の体がみるみるうちに透けていく。
そんな中、ミクリアはカインを必死で揺らした。
『なんでッ!なんでよっ!?リリアとレリアが……!』
『すまない、でも、あの爆発はこちらに届くまで……もって後3秒だ!』
次の瞬間、その家から二人が消えた。
<パシュンッ!>
『きゃぁっ!』
『うわっ』
二人が落ちたのは隣国、クレットンレイ。
北方面に、大きな爆発が見えた。
ウォーデンの全てを飲み込んだ爆発が……
『いっ……嫌……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!』
その絶叫は、爆発音にかき消された。
第3話 終わり