二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【ボカロ曲小説集】色蝶の行く先ぷらす トリノコシティ連載中  ( No.444 )
日時: 2011/07/25 08:28
名前: 藍蝶 (ID: UgVNLVY0)

∮第11話

激しい痛みが体中を回る。
殴られたのは、頭。視界がぼやける。力が無くなってく。
耳も遠くなる。薄ら聞こえるのは皆の笑い声。

意識が、遠くなる……————————————






















《ピッ……ピッ……ピッ……》

ゆっくり、目を開けた。
……何ここ、何処だよ。
白い天井と壁と床でー、白いベットでー、横に花が添えられた花瓶……ってそんな事普通に分かるよ!

問題は私。私っていう存在自体は知ってる。でも、名前を思い出せない。

汚れてる窓硝子の先に見えたのは綺麗な夕焼け。少しずつ、少しずつ沈んでゆく。
それに見惚れていると、離れた所にあった水色のドアが開いた。

「あっ……起きてる……!先生っ、日堂さんが目覚めましたー!」

白い服をまとった女性が、顔を横に向けて叫んだ。
日堂さん?私の事?てか誰?
しばらくすると、白い髭を生やした太り気味の叔父さんが部屋に入ってきた。

「おぉ、日堂さん。目覚めはどうですかな?」
「……あの」
「ん?」
「私の名前は、何ですか?……10文字以内で、10秒以内に教えてほしいんですけど」

思いをそのまま言葉にした。手早く知りたかったから10文字、早く知りたかったから10秒。
それなのに、叔父さんは驚いてる表情しか出さず、10秒以内に答えてくれなかった。


しばらくの検査によると、私は一種の記憶喪失らしい。覚えてる事もあるんだけどなぁ。

「叔父さん、誰?」

目の前に立つ恰幅の良い叔父さんに言った。こんな人見た事無いし知らない。
誰かに会いたいって感じの衝動に駆られた。別に会いたい人が誰か、なんて知るよしもない。だから会えない。
それだけの事だし。
で、恰幅の良い叔父さんは何にも喋ってくれようとはしなかった。

「君はね、お父さんにバットで頭を殴られて……病院に運ばれたんだ。学校までは意識があったと、友達から聞いてるよ」

へぇ、そうなんだ。酷い人だな、私のお父さんって。
ていうか友達なんて知らないし。誰だし、それ。

「じゃあ、叔父さん達別の部屋にいってるから、気分が悪くなったらこのオレンジ色のボタン押してね」

コクン、と頷くと叔父さんはニコッと微笑み、皆部屋を出て行った。

「はぁ」

ボスンと真っ白なベッドに倒れ込む。すると、後頭部に激痛が走った。

「痛……っ」

やっと痛みが消え始めてきた頃、今度は首根っこを締め付けられているような……感じに襲われた。
同時に頭の中でフラッシュバックする記憶。
仲の良い家族。
出かけたまま帰って来ない本当の父。
腹に子供を持った牛。
私に言葉を教えている母。
泣いている母と妹。
銃弾。
積み上げられた死体。
血で出来た水溜り。
目の前で撃たれた妹と母……————————!!

「うあぁっ!くっ、いやあぁぁっ!!!」

楽しかった生活を崩した、悪魔の様な光景。頭の中がおかしくて、私はもがいた。
ふいに視界に入ったのはさっき教えてもらったオレンジ色のボタン。
それに手を伸ばし、押した。

     <カチッ>

そのまま視界は暗転した。

第11話 終わり