二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 『星のカービィ』 短編集 (マルク編うp中!) ( No.18 )
日時: 2011/07/17 02:01
名前: 彌浪 ◆BWqKsmtrLo (ID: u6knrXHP)

「狂気の魂」後編

たらぁ——
目から涙が流れ……
浮いている——。
“ぽつり”ともいわず。
ただ、宇宙空間“そら”に。
四粒の、涙が——

それは、とある星の戦士と、
とある道化師が両目から流した涙だった——

********************************

僕がマルクの身体に近寄って……触ろうとした時。
それは彼の手によって遮られた。
星達の放つ光と共に。

バシィ——ッ!

力強く、まさかだとは思うけど、帽子で手をたたかれた。
毒々しいピンクと紫の間のような色をした羽は、えぐいほどに、血まみれだったから。動かなかったのだろう。

「……おせっかいは止めろよ?無駄な、サ」
「マルク……マルクだね!」

理性を取り戻したらしい。身体は、魂のままだが。

「——に——よ」
「え?」
「君には……負けた……よ」
「違う!僕らの戦いは互角だった……」
「いや……ボクは復讐を果たせなかった。たとえ互角だとしても、君はそれを止めた。だから君の勝ちサ。そして……君の方が、早く目覚めた——完敗だ」
「……」
これに、抗議は出来なかった。
だって……マルクの言うことは……決して間違っていなかったから。
「完敗サ。終わりだ、ボクはもうじき限界が来て、——死ぬだろう」
「そっ……そんなぁっ!だ……めだ、せっか……く、分かり合えるか……もしれない、って……のに……!」
僕は、泣きそうなのを、必死でこらえて言った。


——だって……一番泣きたいのは、マルク本人だから!!!

「結局、お互い何も分かってなかったんだよ……ボク達はサ」
「何……で!何で……っそう思うの!?」
「だって……何も変わってないじゃないか!」
「いや……違うっ!」
「何!?」
「“何も”変わってないんじゃない……」
「何が変わったというんだ!」
「じゃあ……マルクは……マルクの心は、一瞬も!一揺らぎも!変わっていないの?そして……世界も……、風の流れさえ、木の葉の色さえ、人々の姿さえ……変わって、いない……のっ!?」
「……お前、馬鹿馬鹿しい事、言ってんじゃねぇよ」
「……へ?」
思わず素っ頓狂な声をあげる。
「一瞬も変わっていない?一揺らぎも変わっていない?幼稚園児が言うようなこと言ってんじゃないのサ……お前、戦士様だろ?」
「……でも、君の心は変わっていないの?君は僕とであって何を思ったの?ねぇ、心を開いて……マルク!」


マルクは静かにこう言った。

「ボクは君と出会ってこう思った。——邪魔な奴だと」
「……!」
「でも今は違う。ボクは君が、友達として好きだ。何故なら……君は、心から他人(ひと)を愛す。ボクと……ち……がっ…………」








「て——」
一人の道化師は、最後の言葉をその口から発するとともに……
——その両目を閉じた。
閉じた目からは、涙がつぅ——と、流れた。
マルクの、最期だった。


「マルク!?ねぇ!マルク!!」



『君は、心からボクを友達を思っていた!そうでしょ!?』



届くはずのない事を、生きていないものに言う。
でも——もし——この声が、一瞬でも——届くのならば……!


「ねぇ……マルク——」
ボクも、開いたままの目に涙を浮かべていた。

「マルクぅぅぅぅぅぅぅぅ——っ!」
僕はマルクの身体を揺さぶり、ありったけの声を出して叫んだ。
——彼の名を。友の名を。



僕の目と彼の目からは……涙が……
計四粒、流れて……浮かんでいる。


宇宙には、声になっていない叫びが波となって行き渡る。
そして、宇宙の何処かに……
四粒の涙と、一人の戦士と、一つの死骸が——浮いていた。

ただ……沈黙の中。


—終—