二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 星のカービィ 幻想の魔筆 参照400突破! ( No.139 )
- 日時: 2011/06/04 21:26
- 名前: 満月の瞳 ◆zkm/uTCmMs (ID: A2bmpvWQ)
「ドロシアにもできるよ」
「私…?」
「この歌簡単だし」
「私が…?」
ドロシアはひどく不安そうな表情をする。
歌を歌うことに何をそんなにためらっているのだろうか。
僕ちんは不思議に思った。
「?…もしかしてドロシア歌嫌いなの?」
「いいえ、違うわ…—————でも…私は…絵を描くことしかできないから…」
「どうして?絵しか描けないって…魔法もできてるじゃん」
「私の魔法は全て絵に関係することだけ…浮遊魔法も攻撃魔法もすべて…」
「え…?」
「私は…自分という者以外の全てを…〝才能〟としてささげたんですから…—————いいえ…違う…望んだのは〝私〟じゃない…」
「これは私の〝呪い〟であって…〝鎖〟なのだから…—————」
「ドロシア…?」
何を言っているのかよくわからない。
でもわかるのは、今のドロシアがとても悲しそうにしていること。
絵を描くことしかできない…?
それっていったい…?
どういうこと…?
「ごめんなさい…グリル…私は…歌うことができない…」
「…」
「あなたを攻めているんじゃないの…これは…私の〝呪い〟だから…」
「〝呪い〟…?」
「…グリルの知るべきことではないわ…大丈夫…だけど…ごめんなさい」
なんでドロシアが謝るのだろう。
ドロシアは何も悪いことしてないじゃん。
〝呪い〟とはいったいなんだろう。
それは、ドロシアを苦しめているものなのだろうか。
—————そうに違いない。
だって、だってドロシア…
あんなにつらそうな顔してる。
どうしたの?
僕ちん、わかんないよ—————
「ドロシア!じゃあ!僕ちんがいっぱい歌うたってあげる!」
「!」
「歌は嫌いじゃあないんだよね!大丈夫!聞いていればいつか歌えるようになるかもしれないよ!僕ちんが教えてあげるからね!だからね!だから…」
僕ちんができることは、ドロシアの傍にいてあげることしか…
「お願いだから…悲しまないで…—————」
悲しんでいる人を見るのは嫌だ。
昔の自分を見ている気分になってしまう—————
「…ごめんなさい…ごめんなさいグリル……!」
ドロシアは僕ちんを抱きしめ、小刻みに震える。
何をそんなに謝るのだろうか。
悪いことなんてしていないじゃん。
歌が歌えないなら練習すれば大丈夫だよ。
ドロシアならできるよ。
ねえ
ねえドロシア—————
ドロシアは何度も何度も、僕ちんに謝る。
「ごめんなさい」と、声を潤ませて…
「グリル……!お願い……!私の傍から離れないで……!私の傍から…どうか消えないで……!」
消え入りそうな声で、僕ちんに懇願している。
「私を見捨てないで……—————」
思いがけない言葉だったかもしれない。
だけど、その言葉はしっかりと、僕ちんの心に響いた。
「うん。僕ちんはずっと…あなたの傍にいるよ…ずっとずっといるよ…」
僕ちんはそう答えた。
迷いなんてない。
むしろ、望むべきことだった。
喜ばしいことだった。
僕ちんは、ドロシアの傍にいられることが、何よりの幸せなのだから…—————
僕ちんはもう10年以上、『箱庭』にいる。
最初のころは、いつ出ていこうか考えていたけれど、もう今ではそんなことすら思わない。
むしろ死ぬまでここにいていいとさえ思い始めている。
ずっとドロシアと一緒。
幸せ。
本当に幸せだ。
大好きなドロシア。
私のお師匠様。
優しい綺麗なドロシア。
長い間ここにいて、苦痛に感じたことなど一度もない。
毎日が楽しくて、充実していた。
過去を消すように、現在を過ごした。
あんなに昔は辛かったのに、今は全然そんなことはない。
もう、僕ちんを…—————●●●するやつなんていない…
心に安らぎを得た。
怖くて怖くて仕方なかった人生に、光がさした。
それを与えてくれたのはドロシアだ。
旅をしているあいだにも、気づかないうちに、不安や恐怖に押しつぶされていたんだ。
旅をして、故郷から逃げることで、さらに闇を深くしていったんだ。
どこにも帰る場所がない。
どこにも戻る場所はない。
どこにも留まることはできない。
どこにも…—————逃げられない。
そんな僕ちんを、ドロシアは救ってくれたんだ。
僕ちんがここにいることを、許してくれたんだ。
僕ちんにいろいろなことを教えてくれたんだ。
僕ちんを愛してくれたんだ。
だから、僕ちんは誓った。
僕ちんはドロシアのためだけに生きるんだと。
ドロシアの傍にいて。
ドロシアの望むことをかなえてあげたい。
ドロシアが悲しんでいるときは、僕ちんも悲しい。
ドロシアが喜んでいるときは、僕ちんも嬉しい。
彼女の支えになりたかった。
今だってそうだ。
僕ちん…グリルという魔女は、ドロシアのために生きる魔女だと、誓ったんだ。
それでいい。
それでよかった。
幸せ。
とっても幸せ。
ドロシアは僕ちんを必要としてくれた。
僕ちんはドロシアの役に立てているんだ。
それはなんて喜ばしいことだろう。
歓喜のあまりに身が震えてしまうほどに。
傍を離れたくないんだ。
ずっとずっと、一緒にいたいんだ。
その時、気が付いた。
僕ちんは、ドロシアを『お母さん』と投影していたんだ。
僕ちんは、『お母さん』を求めていたんだ。
僕ちんの『お母さん』。
そして、『お母さん』は狂い始めた。
まるで—————子供のころの記憶のように…