二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 星のカービィ 幻想の魔筆 ( No.23 )
- 日時: 2011/05/12 20:30
- 名前: 満月の瞳 ◆zkm/uTCmMs (ID: A2bmpvWQ)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode
第二楽章 変貌する前奏曲
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「ドロシア!」
僕ちんは、世界で一番美しい、彼女の名前を呼ぶ。
「なぁに?グリル」
彼女は、美しい声で僕ちんのことを呼び返してくれる。
ここは、ドロシアの空間。
ドロシアが創った、『箱庭』。
次元と空間の狭間に、強い魔力を込めて生んだ世界。
出会いもよくわからない。
知り合ったのもよくわからない。
でも、僕ちんはもう長いこと、ここに暮らしている。
ここに暮らしていい?と、言ったわけではない。
なぜか、ここに住み着いてしまった。
ドロシアは、むしろそのことを喜んでいた。
勝手に不法侵入した奴を、優しく迎え入れてくれた。
それはとっても嬉しいことだった。
誰かにそんなふうにしてもらったことなど、今まで一度たりともなかったから。
親には厄介者扱いされ、友達と呼べる人もいなかったから。
だから、ドロシアが大好きになった。
根無し草の僕ちんを、何の文句も言わないでいてくれた。
「ドロシア、何しているの?」
「今、お花を描いているの」
『箱庭』には、巨大で豪華な屋敷と、花々が咲き乱れる庭園がある。
その庭園で、ドロシアは手に持っているスケッチブックに、絵を描くときに絶対使っている絵筆で、サラサラと赤いコスモスを描いていた。
「お花はたくさんあったほうがいいわ。とても綺麗なんですもの」
ドロシアの素顔は、完全には見たことがない。
いつも片目しか見せておらず、残りは帽子やマントに隠れて、見ることができない。
それでも美しいと感じるのはなぜだろうか。
ドロシア独特の雰囲気だろうか。
「できた」
サッと、筆の動きを止め、白い紙状に平面に咲く赤いコスモスを、ドロシアは何の前触れもなく、実体化させる。
花は僕ちんのすぐそばに、大輪を咲かせる。
「やっぱりいつみてもドロシアの魔法はすごいや」
ドロシアは、自分が書いたものを、実体化させることができる。
しかも、平面状にではなく、ちゃんと立体化させ、本物同前に仕上げてしまう。
これだけで、ドロシアはとても強い魔力を持っていることがわかる。
見渡す限りの花畑。
色とりどりの花々が、それぞれの個性を持って、花びらを開いている。
この全てをドロシアが創ったなんて、信じがたいことだ。
彼女は、素晴らしい芸術を、ありとあらゆる全ての物を構築しているのだ。
「見て見て!グリル!」
わずかな時間で新たにたくさんの花を生み出す。
「うん!とっても綺麗!」
ドロシアは、大人びているが、どうも抜けているような性格だ。
僕ちんが言えることではないが、子供っぽいというか、清純というか…
妙に不思議な性格。
あたりまえのことを、あたりまえじゃないように、無邪気に大っぴらに喜ぶドロシア。
美しいけど、不思議。
ドロシアの印象なのか。
『箱庭』の空は、いつまでも晴れ渡っている。
疑似の太陽が真上に照っている。
楽園のような場所。
「ウフフ…前までは1人で花を摘んでいたのだけど、グリルが一緒にいてくれるからとても嬉しいわ」
ニコニコ微笑みながら、描いたばかりの花を積んでいくドロシア。
「あまりここには人はこないの?」
「…そうね」
悲しそうに言うドロシア。
前にもこんな表情を見たことがある。
「でも、グリルがいてくれるから全然寂しくないわ!毎日がとても充実して楽しいの!」
「僕ちん、ドロシアの役にたててるのかな?」
「当たり前よ!グリル。私のかわいいグリル…」
ドロシアに、花ごと抱きしめられる。
花の甘い匂いと、ドロシアの絵の具の匂いがする。
エヘヘ、と僕ちんも笑ってしまう。
「ドロシアは花が好きなの?」
「ええ、好きよ」
花を摘んで、屋敷の中の花瓶(もちろんこれもドロシアが描いたもの)に花を活け、飾り付けている最中の会話だった。
「グリルは?」
「好きだよ、なんかそれぞれの個性があっていいじゃん」
「個性ね……、私は…私は花がうらやましい…」
そっと、ドロシアは摘んだばかりのカーネーションに触れる。
「花は…花は、人を引き付けて、美しく、散ることができるから…」
「…?」
ドロシア、どうしたの?
そう言いたかったけど、言うのをやめた。
切なさをもって、そんな言葉を彼女は言った。
ドロシアは、たまに、よくわからないことを言うときがある。
最初は、聞き流していたが
異変のはじまりとは、気づけなかった。
それが、少しずつ加速していくなんて。
まだ、僕ちんには知るよしもなかった。