二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 星のカービィ 幻想の魔筆 ( No.3 )
- 日時: 2011/05/10 20:55
- 名前: 満月の瞳 ◆zkm/uTCmMs (ID: A2bmpvWQ)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode
序曲 幻想の魔筆
僕ちんがドロシアと出会ったのは、奇跡に近かったのかもしれない。
今から何年前だろうか。
まだボクちんが宇宙をあてもなく、ぶらぶらとうろついていた時代。
一応は魔女という役名を持っていたけれど、ろくな魔法を使えなかったから、魔法学校もサボってばかりいた。
親に呆れられ、見放されて、家を飛び出した。
だから、旅をしていた。
別に苦ではなかったけれど、楽でもなかった。
悲しくなかったと言えば、嘘になる。
そんなこんなで、とある星にたどり着いた。
その星の不思議な空間で、ドロシアに出会った。
大きな屋敷。
そこは幻の世界だった。
花々が咲き乱れ、美しい空があった。
強い魔法でできている空間。
この空間の主が、ドロシアだった。
彼女は屋敷の中の、一際大きな部屋で、絵を描いていた。
真っ白なキャンバスに、色とりどりの世界を描いていた。
窓から勝手に入ってきた僕ちんに気づいていないのか、それとも気づいてはいるけれど目を向けなかったのかはわからないが、ドロシアは黙々と絵に集中していた。
僕ちんは、ただそれを見ていた。
なぜここに来たのか。
たぶんそれは気まぐれだったのだと思う。
…運命だったのかもしれない。
ドロシア…その時は名前すら知らない他人。
こんなことを言うのも恥ずかしいが、僕ちんは彼女に見とれていた。
絵を描いているドロシアに。
なめらかな筆遣い。
多彩な色遣い。
絵に関心などこれぽっちも持ってなかったくせに、ひどく絵の虜にされえしまった。
なによりもドロシアが美しかった。
黒色を主体とした、マントのようなドレスととんがり帽子。
長い水色の髪。
表情が読み取れない中で、輝いている、月のような黄色の瞳。
絵を描いている姿。
僕ちんは、これほど美しいものを見たことがなかった。
優しい風にはためくドレスの裾。
それにも動じず、一心に絵を描いている姿。
綺麗。
なんて綺麗なんだろう。
僕ちんは、この時見た景色を、一生忘れないだろう。
どれくらいそこにいて、彼女を見入っていただろうか。
さっきまで青い空だったのに、もう月が出ている。
彼女はようやく一段落ついたのか、軽く息をはいて、キャンバスを固唾家はじめる。
そして、はじめて僕ちんを見た。
ドキリとした。
吸い込まれてしまいそうになる。
月の光で美しい姿が、いっそう際立って見える。
なんだか自分の子供のような姿が、恥ずかしくなってしまう。
彼女は特に驚いた様子もなく、僕ちんの前に来た。
「あなたは、だぁれ?」
小鳥のようなソプラノの美しい声音。
聖母のような優しい笑顔。
そこで、僕ちんは話しかけられたことにようやく気付く。
「え?あ…、ぼ…僕ちんは…グリル」
「グリル…素敵な名前ね…」
あなたの笑顔のほうが素敵だ。
思ったけど、口には出さなかった。
「箒を持っているところから、…あなたは魔女ね。私も魔女よ」
「え?あなたも魔女なの?」
びっくりしえ聞き返してしまった。
「そうよ。でも魔女というよりも絵描き氏と思われがちなの」
「ここで絵を描いてるの?」
「私は絵を描くことしかできないから…」
少しだけ悲しげに言い、すぐに明るい笑顔に戻す。
「うれしいわ。本当に久しぶりのお客様ね」
とてもうれしそうな彼女。
自然に僕ちんの顔もほころんでしまう。
「えっと…お客様が来たらまず何をするのかしら…全然お客様が来てなかったものだから…あ!あなたはいつここに来たの?」
「お昼くらい…かな」
「きゃあ!ずっと前じゃない!ごめんなさい!私、絵を描いていると見境が付かなくなって…!」
パニックになったのか、彼女はバタバタとせわしなく動き回る。
それでも美しさは全くもって欠けていない。
「と…とりあえず椅子に掛けて…って椅子がない!嫌ねぇ私!ごめんなさいグリル!」
僕ちんの名前が呼ばれた。
嬉しい。
なんだかとても、嬉しい。
「ねえ」
僕ちんは彼女に尋ねる。
「な…なぁに?」
何をするべきか困っているのか、彼女は部屋の中のタンスをあさっていた。
「あなたの名前は?」
彼女の名前を知りたかった。
宝石よりもずっとずっと美しい彼女の。
「あ!まだ名乗ってなかったわね!」
慌ててタンスを閉め、僕ちんの傍にくる。
「私はドロシア。ドロシア・ソーサレス。〝この姿〟の名前よ」
〝この姿〟の名前という言葉にひっかかったが、気にしないことにした
。
「ドロシア。ドロシア・ソーサレス…」
口の中で繰り返してしまう。
なんて綺麗な名前。
「…綺麗…」
僕ちんは思わずつぶやいてしまった。
僕ちんの言葉に、ドロシアはとても驚いていた。
驚愕していた。
「綺麗…!?…私が…!?」
ドロシアは自分を指差して、問いかける。
「うん。ドロシア…でいいよね。ドロシアはとっても綺麗で美しいよ。絵を描いている時なんて、僕ちんずっと見入ちゃったよ」
僕ちんは自分の気持ちをそのまま答えた。
「はじめて…言われたわ…そんなこと…」
ドロシアはグリルを見つめている。
瞳の中の驚きを隠せていなかった。
「え…?こんなに綺麗なドロシアが…?」
僕ちんも驚いた。
今までたくさんの星を見てきたけれど、ドロシアほど美しい人はどこにもいなかったから。
「グリル…あなたは私が…恐くないの…?気持ち悪くないの…?」
ちっとも怖いところなんてない。
ちっとも気持ち悪くなんかない。
そんなことまったくもってないのに。
どうして?
「ドロシアは綺麗だよ。宝石の何倍も綺麗だ。なんかごめんね。初対面でいきなり。でも、本当だよ。僕ちんが今まで見てきた中で一番…」
言葉が途中で途切れてしまった。
僕ちんの視界が少しだけずれた。
ドロシアに抱きしめられたとわかるまで、時間がかかった。
「え…?ドロシア…?」
返事はなかった。
ただ、息つぎの音しか、聞こえなかった。
表情は見えないけど、確信できた。
ドロシアは泣いているのだと。
あまりにも唐突で、どうしたらいいのかわからなくなった。
どうしよう。
何か声をかけた方がいいのかな?
でも…。
とりあえず、僕ちんはしばらくその身を預けてあげることにした。
静かな夜。
ドロシアの涙の音だけが、悲しく響く。
絵の具の匂いがする。
彼女のポケットに目が向いた。
さっき使っていた絵筆が、大切そうに収められていた。
ドロシアは、美しくて優しくて、儚くて悲しい人だった。