二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ”絶望”と”希望”交わる世界で。    魔法・アンケ募集! ( No.134 )
日時: 2011/07/08 22:15
名前: 藍蝶 (ID: fjkP5x2w)
参照: 鬼道さん……眼鏡のセンス……無い……ね……

第12話 「涙と笑顔と歌」


「どうして!?どうして音無さんまでそんな……私達、親友だったじゃ……ないですか……歌姫……でしょう……?」
薄らと目に涙を浮かべ、膝から崩れ落ちる葵。
「……大丈夫、よ。すぐ、戻るもの……貴方達に、危害を加えるつもりなんて……」
困ったように笑う春奈。だが、彼女の芯は強い。今更意見を曲げるつもりなどないだろう。
「そんな……空野はともかく、俺は王宮兵士です!これでどう危害を加えないと言うつもりですか!?」
二つに結った桃色の髪が揺れる。その顔は怒りと悲しみで満ちていた。
「……その時は、その時よ」
「無責任です!第一世界の歌姫が裏切るなど……」
「やめてッッ!!」
ビクッとして怯む蘭丸に対し、春奈は頭を抱え俯いている。
「やめてやめて……!私に二度と歌姫なんて言わないで……!!私だって無欲な訳じゃない!お兄ちゃんに会いたい!なのに何で!?何で皆私からお兄ちゃんを引き離そうとするの……!?今から歌姫なんて辞めたい!もう、すぐにでも……貴方達は悉くこの願いを阻んだ!私の気も無視してぇっ!」
目から大粒の涙を流す春奈。
それをリンは黙って見ている。
今の叫びは、本心であり、本心ではない。
心の奥底に沈んでいた小さな願い。言うつもりなど春奈にはさらさら無かった筈だ。
何故、言ってしまったのか。
「……命を終えるのが怖いのか」
「……」
リンが、いつもよりもキーを低くして目線はそのままで、言い放った。
春奈は黙ってしまう。
「怖いんだろう?兄に会えずそのまま生涯を終えちゃうって事が」
追い詰める様に言うリン。リンには、春奈と同じ様な過去がある。
春奈は、諦めた顔で言った。
「そうです。……私、怖いんですよ。死ぬっていうのが」
「じゃ、じゃあ何で……」
「同じ死ぬんなら、いっそ大役を果たして死にたいのよ!」
嘘だ。この人達についていけば兄に会える。そんな気が、何処かでしたのである。
「そうですか。音無様が意見を曲げないと主張するようですので、俺達は大人しく身を引きましょう。……対策を立てないといけないのでね」
早足で王宮への方へと歩いていく蘭丸に、葵は少し迷いながらもついていった。
「良かったの?」
「何が……ですか」
「自分の顔、見てみなよ。酷いよ」
リンが自分の手鏡を春奈に差し出す。それに写った春奈の顔には未だ大粒の涙が流れ、唇を噛みしめ、全体的に引き攣っていた。
「確かに、酷い……ですね」
あはは、と弱々しく笑う春奈。その笑顔さえ引き攣っている。
「さぁてと。皆を連れ戻しに帰りますかぁ」
「?」
「あ、分かんないよね。あっち……西の方角に、他の子達置いてきちゃった」
「……早く行きましょうよ」
「春奈ちゃんの涙残ってるし」
そう言うと、春奈は強く目を擦り、
「大丈夫です!早く行きましょう!」
いつもの様に、明るく振舞うのだった。

第12話 終わり