二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

( 第二話 ) 必殺技 ( 彩音視点 ) ( No.28 )
日時: 2011/07/09 18:59
名前: 憐卯 ◆Oq2hcdcEh6 (ID: kVdvMbwW)

 結局、一位になったのは風丸くんだった。うん、流石だね、速い。今の速さはやばかった。流石元陸上部、強いなあ。そう思っていると向こうで手をぶんぶんと振っている亜美ちゃんと——音無さん、? が見えた。あれ、どうして音無さんが居るんだろう。
 河川敷で練習が始まり、あたし達マネージャーはベンチで彼等の練習を見詰める。亜美ちゃんは何故か一人でリフティングとか、色々とやっていた。橋にボールをぶつけたり、遊んだり——って。練習しなきゃとも言えないので見守ることに。練習を見ていると、染岡くんが何時もより気迫があったりすることに気が付いた。スライディングも荒々しい。影野くんを引っ張り倒し、ボールを無理矢理奪う染岡くん。
 いつもと違う彼の姿に、円堂くんも皆も驚いているみたいだった。半田くんが、

「染岡ー! 今のはファールだろー!」

と叫んでいるが、今の彼にはきっと逆効果だと思う。焦った様子の彼に少々驚いていると、風丸くんが駆け上がり染岡くんと並ぶ。

「染岡! 待てよ!」

 きっとこれは彼の心遣いなのだろう。荒々しい染岡くんを宥めるように風丸くんがそう呼びかけるも、染岡くんはぐい、と風丸くんを押し退けた。FWならではのキック力を生かしたシュートも、気持ちと同じく乱れてゴールに決まりはしなかった。がくりと膝をついた染岡くんに円堂くんが駆け寄る。円堂くんの呼びかけにも、染岡くんはどんどんと地面を叩き悔しげに言う。

「どうしたんだよ!? 染岡、」
「こんなんじゃダメだ!」
「染岡さん……、ちょっとラフプレー過ぎますよ」

 焦りが見え隠れしている。こんなんじゃ、駄目に決まってるよ。宍戸くんの言葉にそんなことねえよ、と再び荒っぽい言葉を返す染岡くんを見て、少し不安になった。

「そんなことあるんだよ、」

 何時の間にか傍に来ていた亜美ちゃんがボールを抱えつつ、帝国戦で見せた見下すような視線で染岡くんを見ている。それが余計にいらだちを募らせる要因となったのか染岡くんが亜美ちゃんをぎっと睨みつけた。女の子をそんな顔で睨むのは駄目だよ、

「うるせえよ!」
「——五月蠅いのは染岡くんでしょ?」
「亜美ちゃん、ちょっと……、」
「——あのさ、私、染岡くんみたいな人間大っ嫌いなんだよね。何ていおう、自己中なのかな。まあ、好きな人もいるけどさ」

 一言だけ言うね、といった亜美ちゃんがくすくすと笑った。

「馬鹿みたい」
「———あ、亜美ちゃん……」

 にっこりと笑みを浮かべた亜美ちゃんを見詰めて私は苦笑を浮かべて見せた。


***


「私、先に帰るね」

 先程の見下した冷たい雰囲気が無かったかのような笑みを浮かべて亜美ちゃんがまたね、と手を振るのを遠くから見つめる。亜美ちゃんは何時も、少し先に帰ってしまう。
 練習が終わって無くても焦っている様子で行ってしまうのだ。誰も亜美ちゃんの家を知らないから、調べようが無いけれど。
 この間、ほんの少し時間が遅れた時、亜美ちゃんの瞳には恐怖の色が浮かんでいた。どうしてだろう、ざわざわと胸騒ぎがする。

「うん、ばいばい!!」

 あたしは其処まで言えるほどの勇気を持ち合わせていないから、何時も笑顔で見送ってしまうのだけれど。
 円堂くん達も不思議そうに首を傾げるばかり。だけど、誰も余計な詮索はしないと決めているようだった。だから、あたしもそんな詮索はせずサッカー部を支えていきたいと思う。
 ふと、音無さんが此方に囁いてきた。

「不思議ですねえ、」

 秋ちゃんも同様に首を傾げていた。やっぱり亜美ちゃんはミステリアスな存在だと思う。調べてみますかと音無さんが問いかけてくる。あたしと秋ちゃんを見ると、迷っているみたいだった。
 ——彼女のことを知ると、もう戻れない気がした。





( fin. )