二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【REBORN日常】Distance【参照2000超企画】 ( No.179 )
日時: 2013/01/27 08:54
名前: 北大路 ◆Hy48GP/C2A (ID: uiVbj.y2)

/*ツナ目線


もうすぐテストだから、帰ったらみっちり指導してやる。

赤ん坊で家庭教師かてきょーのリボーンが、今朝そう言って、学校へ向かうオレを送り出した。
みっちり、指導。嫌な予感しかしなかった。

基本的に、スパルタ教育のリボーン。そんなリボーンの生徒は、毎日が命懸けで、死と隣り合わせな日々を送り続けている、かわいそーな中学生のオレである。

ちなみに今は、勉強しようと思っていたのだが、数学の教科書を学校に置いてきてしまった。それを報告すると、リボーンは「3分で取りに行け」と言いながら銃を構えだした。

オレは慌てて家を飛び出したが、すぐに疲れてた。3分で往復できる訳がない。ムチャクチャだ。

約3分後、学校に到着。もうアウトだ。

正面玄関から1-Aの教室までは、そう遠くないのだからさっさと教科書取りに行って、さっさと帰ろう。で、何かしらの罰を受けるのだろう。

とりあえず、1秒でも早く家に帰らなければならない。それが得策だ。

そう考えた瞬間、オレは、廊下の壁などに「廊下は走らない」と書かれたポスターが何枚か貼られているのをまるごと無視し、全速力で走る。

そして、A組の教室の前まで走り切った。そして、ふと立ち止まった。
かなり息が上がっていたが、オレは更に息を飲んだ。

何かの曲の、メロディーが聞こえる。

教室には、金髪の女子—如月さんとかいったかな—がいた。

一つにまとめた金髪に、さっぱりとした顔立ち、長いまつげに茶色っぽい瞳が印象的だった。

そして何やら、黒くて細長い、真っ黒なリコーダーの様な楽器を吹いていた。

言うまでもなく、彼女がこのメロディーを奏でているのだ。

明るくて、小気味良く跳ねるような、それでいて、柔らかく繊細で、優美な音色だった。

——すごい。

感動というか、感激というか……、言葉に出来ない暖かいものが、胸に溢れる。

そんなオレには一切気付かず、指を動かしながら、息を入れながら、愉快なのに優しい音色で楽器を鳴らし、メロディーを奏でる彼女。

早く帰らなくてはいけなかったことも忘れ、ただオレは、軽やかな旋律に聴き入った。

しばらくして、メロディーが止まった。

その瞬間、オレは何をしにここへ来たかを思い出した。脳裏に、リボーンの顔が浮かぶ。ヤバいかな。

そんなことを考えながら、オレは無意識のうちに、拍手していた。

彼女は、驚いたような顔をして振り返った。間違いない、彼女は如月さんだ。

「いつから聴いてた?」

目をぱちくりさせながら彼女は尋ねた。
オレのことには全く気付いていなかったようだ。

「えっと……ちょっと……前から……かな?」

自分でも、しどろもどろな答えだなー、と思っていた。何だか恥ずかしかった。

「え、マジ? ……気付かなかった」

如月さんは、オレの方を見ながら、軽く笑ってみせた。
そんな彼女に、「そんなに集中してたんだ」と言うと、彼女はまた笑ってみせた。

すると、遠くの方から、今日の音楽の授業で聞いた気がする『小フーガハ短調』とかいう曲が聞こえてきた。吹奏楽部の合奏練習だろうか?

「確かこの曲って、ハゲ短調的な名前の……」

そうオレが呟くと、如月さんは爆笑しだした。急に恥ずかしくなった。

「ハ短調ね。そーゆー歌あるけどな」

如月さんがニカっと笑う。割と大人っぽい顔立ちなのに、無邪気な笑い方をする人だなー、とかぼんやり考えながら、オレも笑う。

「如月さん、合奏練習出ないの?」

オレは、ハゲ短調が聞こえてきたときから、少し気になっていたことを聞いてみた。
すると、如月さんは、表情も声色もそのままで、でもどことなく寂しそうに言った。

「私は、みんなと大会には出ないんだ」

ヤバい。聞いちゃいけなかったかも。
ホントは、言いたくなかったんだろう。

その証拠に、さっきまでオレの目を見ながら笑った如月さんは、オレと目を合わそうとはしなかった。

「私だけ、ソロコンテスト出るから」

窓の外を見ながら、如月さんは言った。
表情も、何を考えているかも、何も見えない。

「……ソロ?」

てっきりオレは、如月さんが部員の足を引っ張ってるからとか、部内で問題でも起こしたからだとか、そういう理由から大会に出場する資格を剥奪されたのかと思っていた。

「あ、ゾロじゃないからな」
「さすがに分かるよ、海賊団の剣士じゃないことぐらい」

ソロというと、一人で演奏するってことだろうか。そんなの、オレには絶対に縁がないだろう。

「一人で、大会に出て吹くの?」
「そーそー、それ」

やっぱ、オレには到底縁がない世界だ。

確かに、一人よりかは、みんなと大会に出たいだろうな、オレなら。
ソロは、きっと孤独な戦い。緊張、悲しみ、葛藤、喜び……。全てが自分だけの世界なんだろう。

「如月さんってすごいんだね、オレには無理だよ」

オレと比べるなダメツナ、とか、お前に何が分かる、とか思われたんじゃないか? オレは、少し不安になる。

だが彼女は、ただ不思議に思ったような表情で、こちらを見ていた。「何がすごいの?」って、目で尋ねてくる。

「あ、いや、オレ……何か、すごく……心が動いたっていうか、感動したっていうか……」

気がついたら、勝手に口がベラベラ喋り出していた。

「うまく言えないんだけど、如月さんの演奏……、オレは……好きだよ?」

何故だか、顔が熱い。ものすごく火照ってる。こういうことを、相手の目を見て言えない自分が、歯痒かった。

「……」

如月さんは、ポカンとしていた。それがまた、恥ずかしかった。
余計なこと、言っちゃったかな?

「あ、まぁ……、ありがとさん」