二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【REBORN日常】Distance【参照2000超企画】 ( No.180 )
日時: 2013/01/27 15:41
名前: 北大路 ◆Hy48GP/C2A (ID: cFR5yYoD)

*/ユウ目線

ただひたすら、楽譜を見ながら、音符を目で追いながら、私は無心でクラリネットを吹いていた。
曲の最後まで吹き終えて、吹きながら気になった箇所をペンでマーキングしていたら、後ろから拍手の音がした。

振り返ると、そこには、茶髪でツンと立った、なかなかボリューミーな頭髪で、私より背がちょっと高いくらいの、なんか見たことある顔の少年が立っていた。

「いつから聴いてた?」

思わず声がひっくりかえてしまった。やだ恥ずかしい。

「えっと……ちょっと……前から……かな?」

それっていつだろう、何十分とかかな? それとも数秒?
いろいろ考えながらも、「気付かなかった」とヘラヘラしながら言ったら、向こうは「そんなに集中してたんだ」とか言った。

コイツ、確かクラス一緒だった気がするぞ? 

……そうだ、ダメツナ!! 思い出せてすっきりした。
こいつのダメっぷりは、学年でもたまに話題に上ってくるほどだし。さすがの私も知ってますよー。

とか考えていたら、ダメツナは『小フーガハゲ短調』のことを『ハゲ短調』とか言いだしていた。さすがですね。

「ハ短調ね。そーゆー歌あるけどな」

私の心の中では、『間違った知識を覚えないでいるためにも、私がビシっと訂正しておいたのよ』という一種の自己満足に近い感情が湧いた。
そんなこと思ってるって、ちょっと嫌な奴だな、と苦笑してみた。

「如月さん、合奏練習出ないの?」

ダメツナの唐突な言葉で、一瞬胸の中が凍った気がした。

「私は、みんなと大会には出ないんだ」

思ってることは表に出すな、自分の心に留めろ。かつて姉に言われた言葉である。
でも、ダメツナの方は「やっちまったな」という表情をしていた。やば、フォローしなきゃ。

「私だけ、ソロコンテスト出るから」

ちょっと繕ったような声になってないかな、何か変な声が出た気がする。

「……ソロ?」

ダメツナの表情は、幼子がナゾナゾを解くときのそれにそっくりだった。
もしかしてソロって何か分かって……るか。いくら何でも。まさか「ゾロ」と聞き間違えたとか?

「あ、ゾロじゃないからな」
「さすがに分かるよ、海賊団の剣士じゃないことぐらい。……一人で、大会に出て吹くの?」

軽く馬鹿にしてしまった気がする。私は、不快な思いをさせていたらどうしようという、小さな不安に苛まれている。

「そーそー、それ」

私は笑ってごまかしてみる。どうか怒らないで欲しい、とか思いながら。
しかしダメツナの方は、「如月さんってすごいんだね、オレには無理だよ」と言って笑われた。

一瞬、お前と比べないでくれとか考えたが、コイツはコイツで、きっと何か凄いところがあるのだろう、と考え直してみた。

「あ、いや、オレ……何か、すごく……心が動いたっていうか、感動したっていうか……、うまく言えないんだけど、如月さんの演奏……、オレは……好きだよ?」

そういった類の言葉を今までかけてもらうこともほとんどなかった私にとって、ダメツナが何の気なしに言ったであろう(地味に失礼)言葉は、なんだかとっても温かみを感じた。
どこまでがお世辞かは知らないが。

「……」

てかよく見たら、ダメツナの顔が少し赤くなっていた。
なるほど、あながちその言葉は嘘でないのか。そう考えたら嬉しくてたまらないが、少し困惑もするわけで。
私は力なく、「あ、まぁ……、ありがとさん」と返す他に何も言えなかった。

私の頬も、実は紅潮していたのかも。顔が少し熱かった。